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日だまりの桜 4

「グラタンの元は買ってあるし、カボチャ含めて根菜は買い置きしてあるから全く問題ないな!」

「男性の一人暮らしで冷凍ササミが用意されてるってちょっと驚くよね。」


 安い時に作っておくと便利だけど男性って豚肉のが好きそうなのにササミっていうヘルシー肉が出てくるのは意外だと思う。

 さらに追加で凄いなと思うのが、冷凍ササミは解されて保存されてるイメージなのに一本で保存されてるところが凄いと思う。


「ササミを冷凍しとくのって珍しいのか?」

「わかんない。個人的な偏見だけど成人男性って鶏肉より豚や牛が好きなイメージがあったからさ。」


 私は苦手だけど若い男性って脂身が美味しいって人多そう。


「あー、豚とかも好きだが取っておくならササミが一番楽なんだよな。」


 なるほど確かに楽というのは大切なことだ。

 頬をかきながら苦い顔をする藤代さんに口元を隠しながらクスクスと声を出して笑う。


「深く納得したところで確認だけど、藤代さんが仕事中は私はフラフラ存在してるから呼んでくれたら藤代さんの側に転移する予定だけど問題ない?」


 何もせずにただ存在してることなら得意だし、寒さや空腹を感じない今なら窓から空を見ながら呼ばれるまでぼーっとしてたりするのは別に苦じゃない。


「死神ちゃんがそれで問題ないなら問題ないが、外で死神ちゃんって呼ぶのもなぁ。」


 困ったように眉を顰めながら苦笑してる藤代さんの言ってることは最もで、死神だなんて誰もいない場所や少女の外見したのに呼びかけるとか精神異常を疑われるだろう。

 でも、本職である運命神なんて呼んで貰うのも問題だしなんて呼んで貰うのが正解なんだ?


『人前で呼んでも問題ない個体名なら詩織で良いんじゃないかな?人名だから違和感はないと思うよ?』


 対象者に名乗ってもいいか疑問に感じたから候補にしていなかったけど、相棒に勧められるなら大丈夫だってことなのでそうしよう。


「なら個体名で呼んでくれればいいよ。私のことは詩織って呼んでくれたら反応するよ。」

「個体名って言い方するのはやめた方がいいと思うよ……しおりちゃん?で良いのか?漢字とかあるのか?」

「詩集の詩の字に、羽織の織の字で詩織。」


 漢字まで知る必要はわからないが、特に教えても問題はないだろう。

 これが魔法使いとかファンタジー世界の住民だったら真名縛りとかを考えてしまうけど、藤代さんは一般の警察官だし平気でしょ。


『マスターの真名を利用した呪い関係は全てレジスト出来るから、より精密に個体名を探ったところで無駄だけど藤代 健一は呪いなどこちらに干渉出来る技能は持ってないから藤代 健一の心情的な目的だと思うよ。』


 自身に取り憑いた死神の名前を正確に知りたいなんて変わってるけど、昔の武士みたく己を殺す者の名を知りたいみたいな衝動なのかもしれない。名もわからぬ化け物に殺されるのは嫌だみたいな?


「詩織ちゃんか。設定としては従姉妹あたりが無難かな?」


 見ず知らずの若い女性が側にいるというのは不都合なことが多いのは間違い無いし、警察官だというなら評価や評判といったものに傷がつきかねないから親族設定をつけるのは妥当な判断だ。


「なるほど……健にぃより藤にぃのが語感が可愛いな。」

「従姉妹にするなら詩織ちゃんも藤代にするから藤はやめろ。あと、にぃ呼びは俺が捕まる。」


 ロリキャラとか妹キャラってにぃ呼び多いと思います。にいじゃなくてにぃ呼び。

 私は別にロリって外見してないけど、それなりに見られる容姿にレベルアップしているはずからギリギリ冗談なら許されると思う。あと、藤代さん若いし顔が良いから藤にぃって語感が可愛い呼ぶ方されてても問題ない。

 真顔で眉間に皺を作る藤代さんに口角を上げながら顔の横で手を左右に振る。


「冗談、冗談。健一兄さんとでも呼んでれば問題ないでしょ。」

「妥当だね。」


 安心したように息を吐く藤代さんの親しみやすさは流石警察官と思うべきか、それとも少々異常だと感じるべきか。

 罵倒どころか暴行を加えられる覚悟をしてきた身としてはありがたいけれど違和感は感じるよね。普通、頑張って警察官になって、まだまだこれからだってのにあなたは死にますだなんて予言されたら怒ったり、嘆いたり、絶望するはずだ。

 まあ、痛いのも苦しいのも好きじゃないので願いを叶えるために支障がなければほっておいて問題は無い。


「でしょ?パッと聞けば親族か何かだって直ぐにわかると思うし私の外見だったら違和感はないでしょ。」


 神様による調整が入って見れなくもないに進化したとはいえベースがベースだから平凡な容姿なことに変わりは無いはずだ。ガッツリ加工して美化されてる可能性は高いけど、ベースを知ってれば私美人になったの!だなんて深層心理以外で出来ない。

 そして、基本ベースが日本人だったのだから同じ日本人にしか見えない藤代さんの従姉妹という設定に無理はないだろうし、似てないと思われても従姉妹なら尚更無理はない設定だ。


「違和感は何もないと思うが…今更だけど、死神って写真とか鏡に映るの?」


 確かに写真や鏡に映らない異種族って良く聞く気がする。吸血鬼とかその代表だと記憶してるけど、死神モドキな私はどうなのだろうか。

 いやそもそも、私の画像が残るのは問題じゃないのか?


『マスターが残したいと思った画像以外は依頼達成による退去でマスターのみが消失するように設定しているから、退去までは通常の人の子と同じ振る舞いをしていて大丈夫。』


 私のみが透過して消失するというのは、私がこの世に干渉していたという事実も記憶から薄れさせることが出来る最善の一手だろう。人は、あったものが失われればまずは自身の記憶違いを疑ってから忘れていくものだから深く関わらなければそれで終わりだ。

 必ず直接干渉した存在の記憶を全て操作するよりも簡単に私という存在の証明をあやふやに出来る。


「基本的に藤代さんが心配するようなことは何もないよ。こんなんでも人の演技は得意なんだよね。」


 元人間だし人間辞めたのは体感的には最近だから尚更だ。


「あー…確かに得意そうだな。」


 わかるーと藤代さんの顔にはっきりと書いてあるので私は死神らしく振る舞えてないらしい。別に神さまらしく振る舞おうとはしてなかったけれど、こうもはっきりと見えないと突きつけられると自分の立ち振る舞いが正解だったのか不安になってくる。

 私が神さまらしくないせいで願いを願い辛いだなんてことがないということを願われる立場でありながら願わなければいけないのは皮肉だろうか。


「安心してくれるなら何より。晩御飯の支度の時間…四時半ぐらいまで姿を消してるから何かあったら固有名でも死神とでも私のことを呼んでくれれば姿を示すってことで大丈夫?」


 正直めちゃくちゃ眠いから何処か適当な場所で寝よう。


「大丈夫だけど消してる間何をしてるつもりだ?」

「んー…正直めちゃくちゃ眠くてさ。何処でも寝れるタイプだし気にしてられない睡魔に襲われてる。」


 正直に言わないと許さないという圧に負けて正直に自白すると藤代さんの目つきが鋭くなった。


「それは人に姿を見せてるせい?」

「いや全く違う理由での諸事情。わざわざ姿を消せるのに寝顔を晒す趣味は無いってだけ。」


 神力を使ってお掃除したせいで眠いとか正直に言えるわけがない。


「わかった。布団の用意ぐらいはさせて。」

「迷惑かけます。ごめんね兄さん。」


 私を監視下に置きたいのは良くわかったから急に優しそうなお兄さんの雰囲気を捨てて警察官の尋問を連想させる本職の圧をかけてくるの辞めてほしい。急に怖い。

 さっさと素直に甘えた私の判断は英断だと自画自賛出来る。


『判断の速さが流石だよマスター!』


 その誉める理由は良くわからない。


「よっと…流石に俺の寝室に布団用意するのはどうかと思ったから、こっちに持ってきたけどリビングに布団を敷いて寝れる?今更だけど、音とか暗さとか。」

「心の底から姿を消せることに安心した。ちなみに騒音の中でもぐっすりタイプなんで踏んだりしないなら好きなことしててください。」

「なら映画見てるから一応テレビが見える位置に敷いとくな。あとこれ、ゲーセンで入手したぬいぐるみ。」


 抱き枕としても使えそうな大きさの淡い水色のクマっぽいぬいぐるみを手渡され、とりあえず書と一緒に抱きしめてみるとふんわりレモンとかグレープフルーツが混ざったような柑橘系のようなそうじゃないような上手く表現出来ないけど良い匂いがした。


『多分シトラス系の香りだね。男性用の香水として人気がある香りとデータベースにあるよ。』


 そんなこと私は調べてたの?

 あと部屋にぬいぐるみはそれなりあったから色々調べたの覚えてるけど、変色したりしてないし、一箇所だけ強いみたいな雰囲気も無いからタオルに吹きかけて丁寧にポンポンしたんだろうな。オムレツといい本当に女子力高いな。


「今私は健一兄さんの女子力の高さに慄いてるよ。」


 私の言葉に驚いたように目を丸くしている藤代さんをスルーしてマフラーを外してカーディガンも畳んで枕元に置く。


「それじゃあ、おやすみなさい。健一兄さん。」

 

 相棒は枕の隣に置い『書を手放すのは非推奨だよ。』…ぬいぐるみと胸で挟むように相棒を抱きしめて布団に潜り込む。


「本は手放さないんだ……」

「書と私は二心同体だから手放すのはNG事項です。」


 ちょっと寝にくいけど寝れないことはないから問題なし。

 相棒、私の姿を消せる?


『了解。先ほどマスターが言っていた四時半に起床できるように調整しておくよ。』


 ありがとう相棒。

 急遽用意された布団とは思えないふわふわの布団とシトラスの香りが強すぎずに香る肌触りの良いぬいぐるみの感触に癒されながら目を閉じた。

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