赤い皮表紙の本 2
「それじゃあマスターの初めてのお仕事についての説明を行うね。書を開いていいよ。」
どのページを開くべきかわからないがとりあえず一ページ目だと思わしきページを見るべく相棒を開くと勝手に相棒のページはパラパラとめれていき中央らしき場所で止まった。パラパラと表現したがバラバラと表現してもいい勢いでめくれていったが見えたページは読めない文字が書かれていたのがぼんやりと見えたが中央付近で止まったことを考えるに、相棒が見してくれるページ以外は無意味という認識でも良いだろう。
開かれた少しだけ黄ばんだ見知らぬ文字が書かれたページが白紙変わり赤い光で文字が書かれていき黒の文字へと変わっていったのを見届けて知らない文字のはずなのに何故か読める文字を読む。
『対象者:藤代 健一〈ふじしろ けんいち〉
年齢 26
性別 男
職業 警察官
死亡日 2022/04/01
死因 未確定
依頼内容:死の運命の宣告及び死の運命の厳守
死の運命への補償』
シンプルでわかりやすい依頼内容だと思う。
内容がわかりやすすぎて任務内容が死神同然だと理解出来ちゃうし補填とかいう理解したくないし、理解したとしても受け入れたくないワードが目に入りやすいのが憎たらしいほどにわかりやすい依頼文面だ。
「表示が上手くいかないから音声説明をするね。
対象者が生きている世界はマスターのデーターベースと同系統の世界。対象者は死ななければならない存在だけど死を回避してしまう可能性が高いからマスターが派遣されることになったんだ。必ず死んでもらわないと困る存在とはいえこちらの都合だからチート持たせて適当な異世界に放り込むのが通例だったけど魂移動による調整するも大変だから、マスターがいるならそれ以外の方法を試そうって話だね。
依頼をする段階でそれ相応の便宜ははかるって宣言してもらってるからマスターらしく仕事をすればいいよ。」
異世界転生チート持ちはそういった事情で生まれていくらしい。そしてどうやら、この対象者とやらは異世界転生チート持ちのチャンスを失ってしまったようだ。私的にはチートがあっても異世界に転生するのも記憶を引き継ぐのも嫌なので好都合案件だけど男性だし憧れるだろう可哀想だなと思う。死んだ後に魂がどうなるかも死因も知らないけれど、自分が死ぬことに対するお詫びが私ができる補償って酷すぎだろう。
私は異世界転生とかはしたくないけれど、この対象者はそちら…異世界転生の方が良かったと思う。
「また、対象者の場所へは自動で転移させるよ。対象者がマスターに何をしてもマスターは死なないから気をつけてね。」
安心してねではなく気をつけてねと言う相棒は私のデータベースを読み込んで死ねない存在の苦労や苦痛を学習しているのだろうか。
私の思考を読みながら会話をしつつ読み込みをしている相棒は分かっていたがハイスペックなのだろう。私には勿体無いなと思うと同時に相棒が活動するための贄が私なのではという疑惑が私の中で盛り上がってきた。相棒という道具を効率よく使うために私の魂を使って身体を構築したかったということであってるのだろう。
「マスター。何か質問はあるかな?」
思考を読んでるだろうに否定されないことから当たっていたのだろう。
それは受け入れれる事実だから置いておいて、あと知らないと困る情報は……
「対象者が死ななければいけないこちらの都合って何?」
知らない方が楽に仕事できそうだが知っておかないと回避できない事態に遭遇したらと考えると知っておいた方がいい気がする小心者が私だ。
困ったようにページの端を文字を読む邪魔にならないように揺らす相棒はどこまで情報開示して良いのか悩んでいるのだろうか。こうして話すのは始めてだと言っていた割に気遣いというか心遣いをすることができるあたり闇を感じてしまう。別に今更使い潰してくれて構わないから私に考察する余地を与えないで欲しい。思考を回したくない。言われた通りに動くだけでいい状態になりたい。責任や罪悪感を感じたくない。
あと補償の意味もよくわからないし分かりたくない。サンドバックになれということか。R18展開だけは全力でお断りするぞ?そんな権利ないのかもしれないけれど拒絶するし相手が警察官なのを利用するつもりで少女暴行未遂とか少女誘拐だとかの方向で騒いで抵抗するぞ??
「知的生命体を相手にしてる段階で思考停止状態で動くのは無理だよマスター。どうすれば良いのか考えて最善と最高の一手を探り続けるのがマスターの役目だよ…こちらの事情はこちらの事情で別に隠そうだとかいった考えはなくて書の知っているデータでわかる範囲でどう説明すれば良いのか困ってたんだ。」
困ったような声色をしている相棒の言っていることは筋が通っている。
一応新米神さまである私と二心同体であることから情報がそこまで降りて来ていないのも、口頭で話すのは初めてだという先ほどの発言から情報をどう口頭でまとめるのか悩むというのもありえる話だ。それに、神の作った存在である相棒と人間としてぬくぬく成長して過ごしてきた私では思考回路や常識が異なってもおかしくない。
「この対象者がどうして死ななければならないのかや死後にどうなるのかの情報はマスターが知ろうとすれば書にインストールされると思うよ。でも、マスターが知りたいと宣告する方法を書は知らないからどうすれば良いのかわからない。そして、こちらの都合はこちらの都合としか表現できないから少し待っててくれれば適切なワードを導き出すよ。」
経験不足あるいはレベル不足。もっと上手く『運命の書』と使いこなせるようになれば情報収集については困ることがないということで良いだろう。成長したらステータスオープンのようなことが出来そうであるし、運命を司るというならば未来確定みたいなチート行為もそのうち出来そうだ。仕事をして成長し続ければ出来ることも増えるし神域も大きくなるということだろう。
どこまで広がってるかわからないような真っ白な空間は手を伸ばしてみると確かに赤い絨毯を境にするかのように壁が出来ている。ぶつかったら痛そうというかそれなりに痛かった。
「神の理不尽が適切ワードに判断。これより、こちらの都合は神の理不尽として発声します。」
「すごい分かりやすくなった。」
確かに適切なワードだ。これならついうっかりで殺しちゃった系統も理不尽ってことで処理が可能であるし神さまってそういうものだよねで納得するしかない適切なワードだ。そして私は神の理不尽を守らせるための下っ端なんだな。
「頑張って成り上がってこうね!」
強くなろうや成長していこうではなくて成り上がってこうというワードセレクトに私の悪影響を感じる。
「お布団展開できるレベルまで神域拡張したい。」
そしてぼーっと布団の中で寝ていたい。何も考えないでぼーっとしていたい。
「物資の設置とかも成長していけばできるし、仕事先で素材をインストールしておけばその素材で作れるからマスター好みのインテリアが作れるからそっち方面の情報収集もやってこう。」
理解してくれてる感じがとても相棒って感じがするけれど神さま的にありなのだろうか。
「…大丈夫!」
前か後ろに括弧で多分がついていそうな大丈夫だ。
深くため息を吐きながら相棒の表紙をそっと撫でて、記憶に残っている自分の手と同じ位置に傷があったり変形しているのに記憶よりも爪の形や肌が綺麗で色白かつ滑らかな細い手をぼんやりと見つめる。
以前の私は目がとても悪くて、相棒の字もメガネがなければ読めないはずなのに読めたから今の私は意識だけが私のままで別物なんだと実感できた。相棒の説明でわかっていたけれどゆっくりと実感していくとキツイと感じるものがある。傷が残っていたり、スタイルが前と同じく残念を極めてるのはあくまで生前再現にチャレンジしたということだろう。
「身体能力などについては書がバフ盛ればいいって多少の強化はあるけど基本そのままだよ。
書はそういう目的のための存在じゃないから長時間の使用は出来ないから緊急時のみだと記録しておいて。人間は強化すると壊れるだとか動きに支障が出るって情報があるけれどそういうのの情報は書が出来るから任せて大丈夫だよ!」
急に強化して能力をあげるということは、どうやら次の日重度の筋肉痛で動けないで苦痛を味わうらしい。筋肉痛の痛みは人によってはなかなかに壮絶な痛さだから罰としても生ぬるめでいい案なんだろうなと予想。そして、通常時の私の身体能力を神さまは知っていてそのままにすると決めたのかが疑問である。
握力は利き手が10で左手が8。五十メートルを走らせれば10秒。長座体前屈こそ58とそこそこだけれど全体的に身体能力は底辺にも関わらずそのまま…いや、死ぬ前はご飯食べれないし動く気力もなくて体力落ちていって学校の階段の上り下りで息切れしてたからもっと下の状態でそのままなのか。そこから強化して身体測定時期まで戻しているということなのかどちらだろう。たまにペットボトルの蓋が開けれない日があるのにそのままで作り直されてるのか私。
神さまにとって人間の身体能力なんて底辺すぎて気にならないのか。下は下の存在でしかないということなのか…手を握ったり開いてみた感触からしてワンチャン神さまの強化は人間とズレてて凄いんだよという奇跡はなく、下のままで作り直されている。
「マスターは知能キャラだから!書も全力でサポートするから!!」
サポートでどうにかなるものなのか……ならない気がする。
パタンと音を立ててページを閉じてふわふわと浮かび始めた相棒は気合十分といった様子だ。このまま相棒が仕事をしてくれればいいのになんて考えは罰当たりなのだろう。相棒の指示通りに動くだけでいい気もするけれど、当初に使って欲しいと言っていたことから分かるように主で動くのは私であるんだろう。
「そうだね。書の声はマスター以外には聞こえないから仕事中でもこうしてマスターが疑問に思ったことは答えるけれど、それ以外はどうしたらいいのかわからないからマスターに指示を出すというのは出来ないよ。」
確かに相棒の声を私は耳で聞いているわけではないから私だけにしか聞こえない声というのは納得である。そしてこうして現在進行形で思考を読んで応対してくれてるのだから疑問に思ったことを答えてくれる様子も想像しやすい。
「うん。書もわからなかったら調べるから時間をもらうけれど全力でマスターのことをサポートするね。」
相棒と私は一緒に成長していくのだろう。
「そうだね。それじゃあ、初任務の場所に転移する心の準備ができたら書を手にとってね。」
補償についてどうすればいいのかわからない。わからないけれど、いくら考えてもわからないから当たって砕けるか状況を見ながら考えた方が良い案が浮かんでくれると思いたい。
うっすらと赤い光をまとって目線の高さよりも少し下あたりでふわふわと浮かぶ相棒へ手を伸ばして触れた瞬間に視界が明るい赤色の光で染まった。