【008】転生していた、、、
「話しすぎだぞ、今この場で殺してやろうか?」
不意に後ろから声がした。忘れもしない、魔王の声だ。
俺は魔王のほうを向いて睨み付けた。
「そこにいるのは太古の龍か。久しいではないか」
「貴様が勇者を三人も殺した今の魔王か。会うのは初めのはずだが」
「確かにこの体になって会うのは初めてかもな。我は転生したからな。我は最初の魔王だ」
『、、、最初の魔王の転生、つまりこいつは〔神々の祝福〕のことも知っているはずだ。どおりで本気で殺しに来るわけだ。先代の勇者が〔神々の祝福〕のことを伝えてないこともわかっていたのだろう。でも今の話を聞かれていたなら、、、』
その後も俺がいることに気づいていないかのように魔王と龍は話していた。二万年前の話だ、俺が入れるわけがない。
話が一段落したとき、魔王は急に俺に話しかけてきた。
「それで、勇者のガキ、お前覚醒したな。今ここで始末してもいいが、お前だけならまだしも神獣二体も相手にするのは気が引けるな」
「今更だけどお前本当に魔王か?お前からそれほど強い闘気は感じないけど」
「貴様、我を侮辱しているのか?当たり前だろ。この我、〈サイオク・リューク〉を差し置いて魔王になれるものなどいないぞ」
ドヤ顔で威張ってくる。でも見た目が人間の十歳程度の女の子に角が生えたような顔なんだよな。まあ、魔族だから人間よりも成長が少し遅かったりするのだろうけど、にしても魔王になるほどの年にはなっていないように見える。
「まさか、、、」
「おっと、そこから先は言わなくても分かる。おそらく正解だ。もう良いか?我も忙しいのだ。帰ることにする」
魔王はそう言ってすぐにどこかに飛んで行った。
魔王がどこかに飛んで行くと、ずっと上にいた龍が下りてきた。
「其方は魔王を見るのは初めてだったか?安心したまえ、魔王は我々神獣には手だししてこない」
「いえ、我がずっと上にいたのはこの者を懸念しただけです」
『俺を懸念した?魔王じゃなくて?俺何かこいつにしたか?』
「我が一人娘を殺したこの者をこの場で処してもよしいでしょうか?」
あの龍の親だったのか。だとしたら相当な恨みを持っているかもしれないな。憎悪の感情ほど恐ろしいものはないからな。
「馬鹿者め。この者は腐っても勇者。其方は神に何と言われた?」
「それは...『魔王を倒し得る者はその身を犠牲にしても守り抜け』...です...」
「其方はなかなか大胆な神に使命を授かったな」
使命、そっか、神獣はもともと神の使いとして生まれた。中でも龍は人間側に頑なに味方する神獣だ。神が人間側につくように指示していたのだとすると納得がいく。
「悪いが俺もそろそろ街に戻っていいか?」
特に用事があるわけでもないが、街に行けば何かあるかもしれないからな。こう見えて学園トップの成績で卒業したからな。それなりには有名人だ。
「ああ、構わないが、次はいつ会えるかわからぬぞ。我々も好き勝手に自由に動けるわけではないのでな」
「そっか、ならお前らを自由にしてやろうか?完全に自由になるわけではないかもしれないが、お前らの上に立つものが変わるだけだ」
「したいことは分ったが、失敗すれば貴様が死んでしまうぞ」
「後継が見つからないまま死ぬのは御免だな。まあ、大丈夫だろ。少しばかりお前らの力を借りないといけないかもしれないけどな」
俺は何とか無事に終わらせて再び街を目指して歩みを進めた。龍とはしばらく会うこともないだろうけど。まあ、会おうと思えばいつでも会えるのだがな。
『今の魔王は最初の魔王が転生していたのか。だからってあの見た目で魔王になるほどの力を持っているとなると成長させると厄介だな』
俺はそんなことをずっと考えながら一日中歩いていた。
龍と別れた翌日の朝、街に近くの森を出ると、俺は目を見開いて驚いた。街の大半が赤い炎に包まれていて、黒い煙が空一面に広がっていたのだ。
今回は少し短いですが、ここから先は次回以降の新章に入れたいので区切らせていただきます。
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