【069】勇者vs魔王
「こんなところでいつまでも凹んでても仕方ないよね。俺、先に進むよ、フレア」
ストームは立ち上がった。頭のつぶれたフレアの顔を見ながら言った。
つぶれた顔をまじまじと見れるストームはすごいな。
ストームは力業で魔界の壁を突破した。
まず、壁に剣を突き刺す。突き刺しても動かない。音は無理やり斬って入った。
「なんだ、あの光は......」
ストームは目を疑った。言葉を忘れたように何も言えない。
そこにはただただ白く、まばゆいまでに輝く光の柱があった。
~§~§~§~§~§~
俺は魔王サイオクを追って飛び出した。
「魔族体」
可笑しい。なぜか魔族体になれない。自分を解析してみる。そういえば自分を解析したことなかったな。
「俺のステータスってこんな感じなんだな。てか、そんなのはどうでもいい。種族だ。種族は...人間、だと」
俺の場合、半魔とか、半半霊とかって書かれるもんなんじゃないか?半半人の可能性もあるのか。でも、人間ってことはないだろ。
いや、‘闇状態無効’がついてるってことは魔族としての耐性がなくなったてことだよな?今まで鑑定した魔将は持ってなかったから多分そういうことだろう。つまり魔族の力がなくったのだろう。
「あいつ吹っ飛び過ぎだろ。さすがにわざと吹き飛んでるだろ」
ようやく見つけた。まだ飛んでる。ここまで来ると飛行してるだろ。よく見ると、普通に上昇してる時がある。
「逃げてんのかよ」
「いや。邪魔が来ないところまで行こうと思ってな。お前もだいぶ強くなったみたいだしな」
「軽く蹴っただけだぞ」
俺がそういうとサイオクは体制を戻した。
俺は〈封魔剣〉と〈造闇漆剣〉を取り出した。二本の剣からは紐状の靄が出てきた。そのまま形を作って鎧になった。
「あの時の靄か。制御できるようになったところでどうということはない」
「それはどうかな?」
俺は間合いを詰めて斬りかかる。が、防がれる。互角の戦いだ。お互い一歩も引かない。引かないも何も押すこともできない。ただただ周りの建物が吹き飛び、更地が広がっていくだけの衝撃が続く。
しかし、だんだんとサイオクの表情が曇っていく。なぜだろう。なぜか俺も少し余裕がある。俺はもう一度自分を解析してみた。するとビックリ攻撃するたびに素早さが上がっているではないか。今までこんなことはなかったはずだ。間違いない。今まで限界は変わってなかったはずだ。計ってなかったから確証は持てないけど、感覚的には違わなだった。
「ノメルエンナの言ってったことがやっとわかったよ」
俺は心の中で呟いたつもりだった。でも、はっきりと言葉にしていたようだ。サイオクの表情がさらに曇った。
「ノメルエンナだと?あいつも転生していたのか?」
「ああ、俺の中にいたらしいぞ。今はレインの中にいるはずだけどな」
「ならもう、あいつが死ぬのも近いだろうな。我が貴様を殺せば勇者は消えてなくなる。そうすれば我らの野望は果たせる。我とリーの野望がようやく実現に近づける」
リーはモペのことだろう。他にリーと名の付くものをここに来るまで見かけなかった。間違いないだろう。
「野望って何なんだ」
俺は手を止めて聞いた。
サイオクは律義にすべてを語ってくれた。なぜか初代魔王になったころの話から律義に話された。モペはその頃からずっとサイオクと一緒にいたらしい。そして、初代勇者が世界を完全に隔てたときに二人は考えたようだ。争いを始め、種族を分断したあの男は魂だけの存在になっているはずだ。魂がある限りいつか転生するはずだと。
勇者が兄貴に移った頃、当時兄貴は五歳だった。その情報をいち早く聞きつけた二人はモペを人間と認知されるくらいに完全に擬態して、子供と同じようにふるまえるようにしたそうだ。当然、魔法で成長に関することをいじっていたようだ。
そして兄貴とたたっかったこと。母親をけしかけ自分で後方支援に回っていたことも言われた。このあたりから俺の怒りは今にもはちきれそうになっていた。俺は何とかその怒りを押し殺して話を最後まで聞いた。
結局現在に至るまでのすべてを離された気がする。
「そうか。
確かにお前が言いたいことは間違ってはいない気がする。
だが、一つ大きな間違いがある。
時代が変わりすぎたことを考慮していない。
今や魔族はすべての種族を敵にしてしまっている。
今更和睦なんざ不可能だってわからいのか?
それとも、世界を開放するだけ開放して自ら死を選ぶのか?」
「我に不可能なことなんて何一つない」
サイオクは俺の言葉に感化されたように口を荒げた。
「そうか。でも、今の人間は弱体化しすぎたらしい。今この魔界にある闇がすべて流れ込めば人間の大半は死ぬ。それは、お前が求める世界に必要な犠牲なのか?」
サイオクは口を開かなかった。
口は開かないが俺には猛攻してくる。俺はサイオクの攻撃をすべて捌ききる。
そのままサイオクの背をとり封魔剣で心臓を一つ潰した。そのまま倒しこんだ。地面と仲良く串刺し状態だ。
「‘死を厭わぬ一撃’」
俺は造闇漆剣でサイオクの首を斬りつける。だが、さすがに魔王だ、全然歯が立たない。封魔剣がサイオクの闇を吸い取り続けてくれているようで体がうまく動かないようだ。それでもかなり暴れている。かわしながら斬るのは無理だ。押さえつけるのが限界だ。
次回最終話!
最後に回収される伏線は...?
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