【059】自由精霊王
俺たちは一週間ほど頭痛に悩まされた。いや、俺とヒエリンは七日程度だったが、他のみんなは四日程度で治っていた。飲み過ぎた。
俺たちは心に決めた。酒は絶対に飲み過ぎないようにしようと。
「やっと治ってきた。まだ少し痛むけど、困るほどのもんではなくなったな」
「まだ言ってんのかよ」
「飲み過ぎだっての。もう一週間も経ってるぞ」
それは俺も思っている。だが、思っているだけだ。どうしようもない。二日酔いに聞く魔法とか聞いたことがない。ないなら作ればいいと思うかもしれないが、そんな余裕ないほどに頭痛がひどすぎた。今から作っても完成するのは治った後だろうな。
「ああ、明日にでも出発できるように準備するか。早くしねえとサイオクの奴、何しでかすかわからねえからな」
俺は頭を押さえながら言った。抑えてないとどうにかなりそうだ。
「みんなもう行くの?」
ウィンディーが言った。
「みんなって、お前も行くんだぞ」
俺がそういうとみんな俯いた。そのまま誰も何も言わない。何かまずいことでも言ったか?
「そっか。リュー君は知らなかったのか。僕ね、この森から出られなくなっちゃったんだ」
少ししてからウィンディーが口を開いた。
「どういうことだよ?エルフなら自由に出られんじゃないのかよ」
「やっぱリュー君は知ってたんだね。そう、僕はエルフだった。でも、今の僕はエルフじゃないんだよ。僕は精霊之王になったんだ」
俺は少し言葉に詰まった。みんなは知っていたようだ。そうか、よく考えればそうだ。エルフは精霊からは差別を受けているはずなのに、昨日の宴ではみんな何もしていなかった。むしろ、最後にはウィンディーを応援する者もいたくらいだ。
「精霊之王はこの森から出られない制約がかけられているんだ。だから、、、ごめん。僕はみんなと一緒には行けないんだ」
「そうか。わかった」
俺はそう言って部屋を出た。
なぜかはわからない。いやになったわけではないと思う。ただ、少し気持ちの整理をしただけなのかもしれない。出て行って何か変わるかどうかもわからない。ただ、俺はこれでよかったとは思えない。
昼頃には俺はみんなのもとに帰ってきた。
「悪い。ちょっと気が動転して飛び出しちまった」
「仕方ないよ。十年間ずっと同じ授業受けてきた仲間だもん。急にそんなこと言われると困るよね」
ヒエリンが慰めてくれる。
「ああ。でももう大丈夫だ。あした、俺たちはここを出る。それは変わらない」
俺は断言した。
「そっか。ずっとここにいるわけにはいかないもんね」
ウィンディーも渋々納得したように言った。
「みんなちょっとこっち来て」
俺たちはウィンディーに言われるが間に並んだ。ウィンディーは俺たちに向かって手をかざした。
「‘王の祝福’」
ウィンディーの手が光りだしたかと思えば俺らの心臓のあたりも光りだした。
光が消えるとウィンディーは口を開いた。
「僕らはどこまで行っても仲間。王の祝福で、みんな今までより格段に強くなったよ」
するとどこからか聞きなれた声がした。
“確認しました。ネイムド〈レイ・ミカサ〉〈セイヤ・カイジ〉〈マリネ・シュール〉の称号‘賢者’が‘賢豪’に進化しました。それに伴い、ステータスが大幅に上昇しました”
「今のは」
「ちょうどよかったな。これから、もっと強敵のところに行くんだ。お前らに死んでもらっては困る」
俺は笑っていった。
その後は荷物をまとめて一日が終わった。食料は町から大量にもらうことができた。思わぬ収穫だった。
翌日、俺たちは十人で早朝から森の中を歩いていた。そして、森の端まで来た。
「ウィンディー、お別れは済ませてきたか?」
「済ませるも何もこれから...」
「何言ってんだよ。お前も、一緒に行くんだよ」
俺はウィンディーにかぶせるように言った。
「だから無理なんだって。僕はこの森からは出られない」
「そうだな。精霊之王はこの森からは出られない。ならその制約がない種族になればいいだけの話だ」
「そんなこと簡単にできるわけないよ」
「いや、あるさ。俺が今からやってやるよ」
俺は魔族体になった。そしてで右手でウィンディーに触れる。
「少し苦しくても我慢しろよ」
俺はそう言ってウィンディーに大量の闇を流し込んだ。普通の人間なら容易に死ぬレベルだ。しかし、今のウィンディーは闇に耐性をつけた王位精霊だ。ほぼほぼダメージはない。
“―――確認しました。
ネイムド〈ウィンディー・フウ〉は種族‘精霊之王’から種族‘精霊魔王’に変化しました。
これにより、すべての誓約が破棄されました。
これに伴うステータスの一部変化します”
「これでお前も自由になった。森を出たら闇を捨てろ。お前の体には毒だ」
「無茶苦茶だよ」
ウィンディーは笑いながら言った。言いながら森から抜けた。
森を抜けるとウィンディーは俺の言ったとおりに闇を抜いた。
“確認しました。ネイムド〈ウィンディー・フウ〉の種族安定に必要な闇の量の喪失を確認。
種族‘精霊魔王’から種族‘自由精霊王’に変化しました。
これに伴い、ステータスが大幅に変更されました”
これでよかったのかは知らない。でも、ウィンディーは笑っている。また旅ができることを喜んでいるようだ。
「みんな、これから魔界へ行く。覚悟はできてる?」
「「「もちろん!」」」「「「当たり前だろ!」」」
みんな同時に返事した。
俺たちは精霊の森からは出たけど、まだ精霊界に入っている。精霊界って日によって境目が変わるんだな、月みたいに。
「ウィンディー、町のみんなにお別れは言わなくてもいいのか?」
「大丈夫だよ。死ぬかもしれない戦いなのはわかるけど、今の僕なら、君の遊び相手くらいにならなれると思うし」
ウィンディーは無邪気に笑っている。
「そっか」
第6章完結!
次回からは【第7章:魔界編】!来る終章
ワコガ率いる〈勇者(インフィニティ―)〉vsサイオク率いる魔王軍・魔将軍
頂上決戦が今、始りを迎える。
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