【054】同種族の立場
話進まないのに字数が増えていく...
「にしてもお前いつまで暴れんだよ。いい加減飽きてきたぞ」
「そんなこと言ったって、体が言うこと聞かないんだから仕方ないだろ」
モペは呆れたような面倒そうな表情でずっとストームの攻撃をはじいている。
「面倒だし一回倒すわ」
そういってモペは重いっ切る振りかぶった。
「チョマテアブナ......」
ストームは直撃寸前でギリギリかわせた。
「待ってって。なんかもう自由に動けるっぽいんだけど」
「そうか。ならだれかがあいつを倒したんだろう」
「もう済んだのなら行こう。みんな待ってるだろうしな」
マリネはそれだけ言って先に進んでいった。
「おい、こっちだぞ」
マリネは何も言わずにモペが指摘した方向へ行った。
「ひょっとしてマリネって方向音痴なの?」
「昔からあんなだ。忍びなのに右も左もわかってないんだよ」
二人は後ろでひそひそ笑いながらマリネの後ろについていった。
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「何か言い残しておきたいことある?」
ウィンディーは見下しながらレイジーに言った。
「死ねえぇぇー!」
ウィンディーはレイジーが付くか高濃度の闇に包み込まれた。
「いくら精霊之王でもその闇からは出られまい」
レイジーがそう言った途端にウィンディーを包み込んだ闇が半分に斬れた。中から出てきたウィンディーは見たことのない剣を持っていた。
「ここがどこだか分かってる?精霊界で、精霊の森で、精霊之王にできないことはない。これが僕にだけ使える専用の武器聖王の剣だ。この剣で斬れないものはないよ」
レイジーは何も言い返せず腰が抜けてしまった。
「言い残す言葉がないなら殺すね」
そういってウィンディーはあっさりとレイジーの首を斬った。実にあっけないくらいに一切の躊躇なく一撃で斬り落とした。
ウィンディーは自分で斬ったレイジーの首をずっと見ている。
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俺たちはウィンディーがレイジーと戯れているところを横目で見ていた。とは言ってもウィンディーの一方的な遊びにしか見えないが。
「おれ?倒していなかったのか?」
急に後ろからマリネの声がした。
「いや、一回は倒したぞ。今は死に戻り対決の最中だ。手出すなよ」
「どういうことだ?」
「お、モペとストームも来たか。じゃあ、話しておくか。どうせ後で本人から直接言われるかもしれねえけどな」
俺たちは事の顛末をすべて話した。
ウィンディーが死にかけたこと。レイジーの首を斬ったこと。ウィンディーが微精霊に助けられたこと。レイジーが魔剣の特性で蘇ったこと。ウィンディーが精霊之王になったこと。そして、なによりもウィンディーが森から出られなくなったこと。
ついでに、俺がノメルエンナでノメルエンナが初代勇者のことであることも説明していた。ノメルエンナは自分語りをしているとき、かなり上機嫌だった。
モペたちは話を聞いて何も言えなくなった。
「終わったよ。あ、三人とも来たんだ。とりあえず町に戻ろうよ」
ウィンディーは笑っていった。奇麗な笑顔だ。自然とこぼれたような笑顔で、何も隠そうと考えていないような純粋な表情だ。
本当は言わないといけないとわかっているはずだ。でも、そんなこと思わせないほどの表情を見せた。
「そうだね」
気づけばもう日も傾いてきている。
俺たちはみんなでウィンディーの故郷、集落、町へと戻っていった。
「リュー君はいつ帰ってきたの?」
少し静かな時間が流れた。周りの草木の音がするだけでだれも口を開けなかった。
「あ、リューって僕のこと?」
はっとしたようにノメルエンナが言った。
「他にいないでしょ」
「そうか。さっきみんなに入ったんだけど、今の僕なノメルエンナなんだ。ワコガは今は、寝てる?それか気絶してる?からね。まあ、憑依転生しちゃったからこの体に死なれるわけにはいかないんだ。それで、仕方なく僕が出てあげてるんだよ」
さっきの自分語りはどこへやら。あっさりと済ませた。多分、さっきので言いつくしてしまったのだろう。それか、すぐ町だからあきらめたのかだろう。
「そっか。ノメルエンナ君か。覚えておくよ。それで、君はいつここに来たんだい?」
「出てないときの記憶は正確でないからわからない」
「昼過ぎだ。帰ってきたかと思えばすぐに転移ゲート開いてみんなが危ないから行くぞって連れ出したろ」
マリネが言った。
「確かにそんなことしていたな、ワコガの奴」
ノメルエンナは笑いながら言った。
そんなこと話していたらすぐに町に戻ってきた。
町に戻ると大騒ぎになった。
ずっとエルフだと思っていたウィンディーが精霊之王になって戻ってきたからだ。猛威精霊になったことで普通の精霊たちを自由に操ることが可能になったからだ。
町中のみんなが飛び出してきてウィンディーの前に跪いた。
生き物とは実に単純なものだ。相手のことをどれだけ蔑んで見ていたとしても結局はその時次第。蔑んでいたものが、自分より地位が高くなればなおのこと。
蔑まれていた腹いせに大罰が下ることを恐れ、我先にと従順になるものだ。それが街単位で起こるのは滑稽でしかないように思える。
この世界では種族的地位もあるからか、親、家族ですらも見上げるような姿勢で接している。
「いや、みんな、いつも通り接してくれていいんだけど?てか、そっちの方がありがたい...」
ウィンディーはあまりの状況に苦笑いで言った。
エルフは精霊の中でも最下位に位置するもの。精霊之王は王位精霊の一つ。普通の精霊からしたらエルフが王位精霊になるとは思いもしないでしょう。