【033】教師の補充
「我が二面体魔族だと知っていたのか」
「いや、たまたま波長が近かったからもしかしたらと思っただけだ。お前の変装か何かかと思ったが、まさか二面体だったとはな」
二面体魔族は魔力の性質を二つ扱える。扱いたい性質によって姿が変わることが多い。だが、ここまで正反対のような見た目になることはそれほど多くない。サイオクの場合、転生前の姿がこっちの姿に反映されたみたいだ。
「この姿のほうが、真の力は発揮しやすいな。まずは肩慣らしがてら少し遊ぶか」
「遊ぶって、一方井的な殴り合いがしたいだけだろ」
サイオクは少し微笑みを浮かべて俺に殴りかかってきた。俺は攻撃を受け流すので精一杯で反撃なんてする余裕はなかった。
結局みんなが魔将を倒すまで俺は防戦一方だった。
サイオクも魔将が二人とも打たれると俺に攻撃する手を止めた。
「もう終わったのか。思っていたよりも早いな。まあいい、次ぎ合うときは我かお前のどちらかが死ぬときだろうな」
サイオクはそれが毛言ってどこかに飛んで行ってしまった。
「待て」
レイは追いかけようとするもすでにかなり遠くまで行ってしまっている。それにほかのみんなは動こうとしない。レイもあきらめて追おうとするのをやめた。
「魔王はどっか行ってくれたし、みんなのところに行くか」
俺たちは校舎のほうに行った。そもそもこの学校自体が一時避難所に指定されている。
学生たちも教師らも全員校舎の前で並んでいた。十学年が集まるとそれなりに多いな。
「モペ、何か問題はあったか?」
「いや、何もないけど。お前らもう終わったのか?」
「ああ、ちゃんと魔将は倒してきたぞ」
「その様子だと魔王は逃がしたか。仕方ないか。被害がなかっただけでよかったと思うことにしておこう」
見つけるなりレイとモペが二人で話しだした。
「なんであんたが居るのよ。目障りなんだけど」
「なんだよ。関係者以外立ち入り禁止だろ」
「学長に呼ばれたの。あんたたちこそなんで」
「俺たちはただ場所を借りてるだけだよ。訓練がてら緩くなった地面を固めてただけだし」
急に来た女とレイがもめだした。来るなりすぐに喧嘩が始まった。誰も止める間もなく喧嘩になってしまった。
「二人ともやめろよ。ミヤもレイもいつまで引きずってんだよ」
「「セイヤは黙ってろ」」
仕組まれていたのかと思うほどに二人はいきぴったりに言った。
「二人はどういう関係なんだよ」
「学生時代の元カノだ」
聞かない方がよかったと思った。
レイがとてつもなく不服そうに答えた。
「あんたみたいなやつあの戦いで死んでくれると思ってたのに」
「残念ながら俺は生き残ったぞ。お前がどっか行ったせいで死んだのはほかの三人だったよ」
「何が守護者よ。聞いてあきれるわね」
二人の口喧嘩は終わりどころを知らないらしい。何があったら元カノとここまで険悪な仲にになるんだよ。
「セイヤ、この二人に何があったんだよ」
「知らない方がいい。特にお前はな」
「なんだよそれ」
二人の喧嘩は日が暮れるまで続いた。その間に学生たちは帰り、教師たちも仕事に戻って行っていた。
「お前らよく朝から夕暮れまで喧嘩することあるな。ある意味二人ともお互いのことわかってるんじゃないか」
「おいワコガ、お前確かマイトの弟だったよな。お前は何も悪くないけど一発殴っていいか」
レイが正気を失ったような表情で俺をにらみつけてきた。兄貴はいったい何をしでかしたんだよ。
「いい加減にしろ」
マリネがレイの耳元でささやいた。すると、レイの表情は正気を取り戻した。
「悪い、ちょっと気が動転してたみたいだ」
「何?そこにいるのはマイトの弟なの?じゃあ、遠慮なく」
ミヤが俺に殴りかかってきた。しかも顔面目掛けて一目散にだ。
「馬鹿、やめた方が...」
モペが止めようとしたが、そんなことには聞く耳を持たないようだ。
「武闘家かよ。少しは加減を知ったほうがいいなじゃにですかね」
俺は素手で受け止めた。手のひらから肩までしびれが伝わった。
「兄貴が何かしても、俺には関係ないはずなんだけど」
ミヤは手を下ろしてくれた。そのまま黙ってどこかへ行ってしまった。
その日の夜、俺は学園長と話していた。
「あの二人は合わせちゃダメだったのかい?」
「昔付き合ってたらしいですよ。俺の兄が何かしたとかで逆恨みされましたけど」
「そうか、君も大変だったんだね」
「それより、あの、えーっと...」
「ミヤ君のことかい?」
「そうそう、そのミヤがどこか行っちゃったけど良かったんですか?」
「ああ、そんなことかい。かまわないよ。君たちなら学生たちの教育に申し分なさそうだったからね」
「なるほど。教育機関が今、相当な人手不足に陥っているというわけですか」
「そうなんだ。今ギルドに教育者を増やすように頼んではいるのだけど、集めるのに一月はかかると言われてしまって困っていたんだ」
「仕方ないですね。俺たちもまだ残るつもりだったんで必要な時は呼んでください。人員が集まれば俺たちも出ていきますよ」
翌日からは、授業に呼ばれては教育を、授業がなければ闇の克服の訓練をしていた。総当たり戦は丸一日授業がない日にだけ行った。
日に日にみんな闇に対して耐性をつけてきた。最終的にはモペは耐性なしではじいてたらしい。他のみんなより長く耐えれるなら何でもいいや。レインたち五人は‘超闇耐性’を、ほかの三人は‘闇耐性・極’を獲得していた。
一月後、ギルドから教員の補給がされ、俺たちの学生への指導も終わった。訓練も思っていた以上の成果を得られた。俺含めてみんなステータスも上げられた。かなり充実した一ヶ月がったな。
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『魔将も残り五人か。仕方あるまい』
「生き残ってる魔将どもを全員ここに集めよ」
「「は!」」
魔王城では魔王サイオクが残りの魔将に対して招集をかけていた。
その場にいた二体の魔族に集めるように指示を出したのだ。
次回で第三章最終話です!