【003】若い伝説との遭遇
“”:世界の応答
レイたちと別れた後、俺は森を彷徨っていた。俺は歩きながらずっと考えていた。レイたちをどこかで見た事がある気がするのだ。俺の失った記憶にいた人物なのか?
俺には十年ほど前に失った記憶がある。一つは今までの人生経験。そしてもう一つは兄に関わることだ。
俺は今まで何をして入学当時から学年トップの戦闘力や魔法的聖地が高かったのかを知らない。
俺は兄が戦闘で重傷を負ったことを聞いてショックで三日ほど寝込んでしまったらしく、目が覚めた時には兄がいたこと、兄と過ごした時間をすべて忘れてしまっていた。今でも俺の記憶の食卓にいるのは俺と親の三人だけだ。兄が入る余裕がないほどに楽しんでいる。親は、入学間近だった俺に兄がどのような人物かを説明せずに送り出した。記憶が戻ってしまうと学園生活に支障をきたしてしまうかもしれないからと。
俺は親から手紙で兄の容体が急変して生死の境をさまよっている状態だと聞き、俺は学園の合った街から故郷の小さな町に帰省している道中だ。
「おい、そこの貴様、勇者の居場所を知ってるか?」
急に背中の近くから声がした。背筋が凍るほどの闘気がする。こんなに大きな闘気なのに、この距離まで詰められるまで気づかなかった。今まで感じたことないほどのプレッシャーだ。俺はゆっくりと後ろを振り返ろうとした。
「こちらを向くな。我は知っているのか聞いているのだ。貴様からは勇者と近しい気配がする」
俺は震えながらも首を横に振った。勇者の正体は本人しかわからず、魔王と勇者が正体を明かした者にしかわからない。そのため普通の人には横をすれ違った人が仮に勇者だとしても気づけないようになっている。
気が付くと周囲には誰もいなかった。それにしても幼い少女のような声をしていたな。それなのにあの闘気とは、俺も負けていられないな。俺は旅を続けた。
森を抜け道を進んでいると広い草原に出た。少し風吹いていて気持ちがいい。それに今日は快晴だ。さっきの恐怖なんてなかったように高揚な気分になった。
しかし、そんな時間は長くは続かないのはお決まりのことだ。急に空から火炎放射が飛んできた。俺は間一髪のところで避けた。見上げるとそこには龍がいた。
「貴様、ここは童の縄張りぞ。早急に立ち去れ」
そう言って炎を飛ばしてきた。
このまま引き下がるのが賢明なのだろう。だが、今目の前にいるのは神獣の龍だ。さっきの竜は特定の場所に存在するものだが、神獣はあまり居場所を固定しない。神獣はよく縄張りを移動するのだ。せっかく珍しい相手なんだ。手合わせしてみるか。
俺は腰に巻いている剣を取り出しながら龍の側まで飛び上がった。しかし、俺の刃が当たるより先に地面に叩き落された。
「童に歯向かうつもりか。ならば死ぬがよい。神獣の恐ろしさ思い知らせてやろう」
連続で炎を飛ばしてきた。それもさっきの赤い炎よりも威力の高い青い炎だ。俺はすべての攻撃をよけきった。
「お前、まだ神獣としては幼いな。威力こそあるが精度が雑だ。そんなものでは足元ごっそり抉り取られるぞ」
俺はさっきと同じように飛びあがったが、今度は地面と龍のちょうど中間あたりを通るように移動し空中で刀を振った。そして龍と同じくらいの高さまで来ると次は刀を振ったあたりと龍の中間あたりに向かって疾風属性の魔法を使って戻った。するとちょうど龍がそこにいた。
理屈は簡単だ。空中で刀を振った時にその場にある空地をすべて破壊する。するとその空間が真空になるので引き寄せられる。それによって引き寄せられ少し高度が下がっていたのだ。
空中で俺の剣が龍の胴体にあたる部分に触れた。だが、さすがに神獣だ、硬すぎて全くと言っていいほど刃が通らない。龍は尾のほうで俺を叩き落そうとしたが、俺は何とかかわして龍の背中に乗った。
「貴様無能か?その剣じゃ童は切れまい。さっさと負けを認めておとなしく死ねい」
確かに俺が持っている剣は聖剣で神聖生命体にはほとんどの攻撃が通用しない。さすがにそれは冒険者ならだれでも知っている常識的なことだ。当然俺にその対策がない訳じゃないが、かなり危険なのも確かだ。
「ああ、そうだな。確かに俺のこの聖剣ではお前を倒すのは一見不可能だ。でもこれならどうする」
俺は少し食い気味で返事をした。
龍も嫌な予感がしたのかどんどん高度を上げていく。さすがにこいつも俺の考えが分かったみたいだな。高度が高いと普通人間は長くはいきれない。だが俺は‘超再生’と‘高速再生’があるので、普通の物理攻撃にしろ、こういった気象による影響も受けにくい。しいて言うならかなり寒いことだ。雲の上まで来るとさすがに手がかじかみそうだ。
「どうやらどちらにせよ俺を殺すように動いたみたいだな」
「どうせ貴方は回復系統のスキルを消して攻撃を当てるつもりであろう?ここでそのようなことをすれば貴方は死んでしまうぞ」
俺は鼻で笑ってやった。俺はそんな周知の方法を使うわけがないだろう。それに、そんな一生ハンデを受ける一時的な攻撃よりもいい方法がある。
「ああ、確かにそんなこと言われてるな。でも、それは馬鹿のすることだ。勇者みたいな奴らはそんなことしない」
龍は俺の発言に動きが止まった。そのおかげで行動がとりやすい。
「世界に火急請願。野良の闇を我が剣に纏わせよ」
“ネイムド〈ワコガ・リュー〉の火急請願を確認しました。周囲に散らばる闇を終結、並びに装備アイテム〈祝福の聖剣〉に凝縮させます”
世界の応答だ。龍はそれを聞いた途端、さらに上空に上って行った。俺は龍の背中から飛び降りて地面に向かって落ちていった。
龍と竜の違い(イメージ)
・龍:蛇のような体に短い腕と立派な角が生えたような神獣
・竜:四足がはっきりとあり、背中から巨大な羽をはやした魔獣
新出用語
・世界の応答:世界に対して能力以外の請願をしたときに返答として言われる