【029】実技見学
「みんな、ちょっといいか」
俺は全体に聞こえる声で言った。全員手を止めて話すのをやめた。
「悪い。みんな最初のところに集まってくれ。木刀は持ったままでもいいし、並ばなくていいからな」
学生たちは一目散に走りだした。
冒険者の九人は俺のほうに駆け寄ってきた。
「授業はどうするんだよ」
「せっかくの機会だ。おっれたちの動きを見てもらったほうが早いんじゃないかと思ってよ」
「なるほど」
「確かにそれも一理あるかもな」
俺たちは学生たちの前に出た。
「これからここにいるみんなで実戦に模した動きをしてもらうんだけど、少なくとも自分の得意な属性はちゃんと見るようにしてね。苦手なやつも見て欲しいんだけど、そこまで急には無理だろうからできる範囲でいいからね」
学生たちがざわつきだした。みんなどれを見るだの、どこを見るだの話している。
「ちなみになんだけど、この中に亜種系が得意って子いる?」
誰も手を上げないってことは大丈夫かな。いたら俺の仕事が増えるだけなんだけど。大丈夫そうだ。
「よし、じゃあ最初は、火炎属性と疾風属性主体にして清水属性を補助にしてやってみるか」
「えっと、火炎属性は、フレア君でしょ。疾風属性は、ウィンディー君。清水属性は、レイン君がやるって感じでいいのかな?」
「そうだな。そしてモペ、お前が相手役だ」
「嘘だろ、マジかよ」
そう言いながらもちゃんとやってくれるみたいだ。
「四人とも、これはお前らの訓練じゃないんだぞ。動きが分かりやすく他割るように動けよ」
四人とも笑った。学生たちもそれにつられて笑った。
四人とも眼差しが本気だったので多分全力でするつもりだっとのだろう。そんなことしても今の学生に見切れるわけもない。それに突風が吹き荒れて授業どころじゃなくなる。
「みんな、ちゃんと見とくんだよ。それじゃあ、みんな宜しく」
「属性の付与だけでいいんだよな」
「魔法なんか使った全員吹っ飛ぶぞ」
四人ともクスリと笑って各々の剣に属性を付与した。
ぶっつけ本番でやってるんだ。一発で上手くいくとは思ってはいない。
意外と動きはシンプルだった。
フレアが間合いの半分ほど詰めたところで、ウィンディーがその倍以上の速さで間合いを詰めた。
ウィンディーの攻撃が当たりそうになるタイミングでフレアも攻撃範囲に入った。
その瞬間に後方でレインが魔法を使わずに水を発散させた。
そのまま相手の頭上を流れるように移動して後方から斬りかかった。
一番すごいのはそれらを全部受け切ったモペだろう。
三人も当たる寸前で止めれる早さだったがそれは俺が客観視で分かったものであって、モペからしたら少なくともレイの動きは相当邪魔だっただろう。そのせいで気づけなかったのかもしれない。
「お前ら、俺を殺す気かよ」
モペのマジレスにみんな爆笑した。
「安心しろモペ。誰も殺すほどの威力は乗ってなかったぞ」
俺は笑いながら言った。
「まあいいや。次は清水属性と大地属性主体にして、疾風属性の補助でしてみるか」
「俺は受けないからな」
どうやら本当に嫌だったらしい。
「たっく、仕方ないな。俺が受けてやるよ」
何回か実演を見せた後でもう一度ペアに分かれてやってもらうことにした。
さっきよりも幾分も形になった学生が多い。
「これでさっきよりは指導しやすくなっただろ」
「まさかそのためだけにあんなにやらせたのか」
レイが少し不満げに言った。
一番大変だったのはずっと攻撃を受けていた俺の方だというのに。
「お前は一回しかやってないだろ」
そう言いながら俺は歩き回った。レイも何も言い返してこなくなった。
バンッ―――
急に水が破裂するような音がした。見渡すと清水属性の魔素が飛び散っている。
魔素が破裂したとなると誰かが属性の制御をせずに流し込んだか。
俺は魔素が破裂した中心のほうに向かった。
「イタタタ、、、」
行ってみるとサヤカが尻を地面につけて座りこけていた。
「お前な、どんだけ目立ちたがってんだよ」
「魔素の調節難しいんだもん。仕方ないじゃん」
できないならするなとでも言いたいが、やらないとできるようにもならないからな。
「魔素は一度に流し込むもんじゃないぞ。まずは剣に魔素を集める。集めた魔素を操る。するのはその二つだ。魔素の集め方はいろいろあるから自分に合った方法を探すしかないな」
魔素は自身の魔力を変化させて作ることが主流と言われている。しかしそれがとハズレを引きやすい。その分簡単にできる。
空気中には属性のない魔素が大量に飛んでいる。そいつらに必要な分だけ属性を与えて集めるほうがより正確に必要な魔素量にできる。しかし、このやり方には少し技術が必要になる。
まとめると、前者は自身の魔力を使う分簡単に行使できるが、失敗もしやすい。後者は自身の魔力を使わない分難しいが、失敗はしにくい。
どちらでもいいが、魔力を乱費しすぎるのは戦闘ではあまりよくない。魔法を使うだけでも魔素は使用する。使わないのは回復系や防御系くらいだろう。
「みんなあまり無茶するなよ。何かあっても俺らにできることはあまりないからな」
学生たちは口々に小さく返事をした。いや、返事というよりかは反応をみせた程度か。
サヤカも普通に立ち上がって次こそ成功させようと十分に抑制してやってみた。今度は魔素が全然入らず、ほぼなにもでてなかった。
爆発しなくなったはいいけど、ここまで弱められると教えにくい。
思いのほか進展が遅い気がする。
大丈夫か?この辺とかはもっと早くに終わらせるつもりやったのに




