ノロマと言われ追放された重戦士、女神に貰った加速チートで「もう遅い」する
もう遅いって言わせたくて書きなぐりました。
「重戦士!お前は追放だ!今すぐここから去れ!」
輝くような鎧を持つ男が全身を無骨な鎧で覆う男に告げる。
「なぜだ勇者!俺は盾役として十分に働いてきただろう!?」
追放宣言に納得できない彼は勇者に問う。
彼曰く、
「たしかにお前は防御力が高いが、鈍重過ぎて攻撃が当たらないんじゃ意味がない。
それに、攻撃は防ぐとダメージが入るが、俺やシーフのやつみたいに避ければ無傷だ。
あるいは賢者みたいに攻撃される前に速攻で倒せばいい。
だけどな、お前の攻撃は遅すぎるんだよ!
ただ突っ立ってるだけの木偶の坊なんてこのパーティーには要らねえんだよ!
分かったらとっとと出ていけ!」
攻撃ができないのなら不要、とのことであった。当然穴だらけの理論であり、優秀な盾役を失った攻撃偏重な彼らがどうなるのかは火を見るより明らかであったが、
「そんな・・・。」
重戦士は絶望しながらも納得してしまっていた。
魔王討伐の旅路も終盤、敵も速く強くなっており、重戦士の攻撃なんぞ当たらない。そして残る勇者たちが攻撃を受ける前に速攻で倒すため、彼の防御力は活かされず、旅のお荷物になっていた。
「お前の硬さなら生きて帰れるだろう。遅すぎて魔王は倒せないだろうけどな」
そう言って勇者たちは重戦士を置いて去っていった。
(俺はこれからどうすれば・・・)
『重戦士よ、彼らを見返したくはありませんか?ざまぁしたくありませんか?』
途方に暮れる重戦士の頭に語り掛ける声。
「何者だ!姿を見せろ!」
『お気遣いなく。ただの一般通過女神です。テンプレみたいな追放イベント見ちゃったのでちょっと「ざまぁ」とか「もう遅い」とかするのが見たいなって思って声を掛けさせていただきました。』
「てんぷれ?いべんと?」
『あっそこはお気になさらず。それでどうしますか?攻撃手段に悩んでいるようでしたので、受けた攻撃を蓄積して倍返しする加護とかいかがです?』
「別にそのつもりは・・・俺が力不足だっただけで、それにあいつらはきっと魔王すら速攻でさっと倒すだろう。」
重戦士は諦めた、あるいは燃え尽きたかのように言うが、
『魔王は闇の力によって攻撃を一定量無効化するバリアを貼っているのでそれを剥がすまでに時間がかかりますし、魔王だけあって攻撃も速くて避けるのは至難の業なんですよ。賭けてもいいですが、あなた抜きの速攻アタッカー3人ではバリアを突破できず逃げ帰る羽目になると思いますよ。』
「はぁ・・・。」
『その後優秀な盾役を失った彼らは魔王討伐失敗の烙印を押され没落していき、あなたがいないと駄目であったことにようやく気付いて接触を図ってきたところで「もう遅い」って言ってほしいんですよ。』
「は?」
突然変な未来を語りだした自称女神にあっけにとられる重戦士。
『いやぁ、最近は「もう遅い」がマイブームでして。それで加護は【倍返しだ!】でよろしいですか?』
「・・・いや、それじゃ駄目だ。速さが足りない。
速さこそが正義なんだ。くれるなら誰よりも速くなれる力をくれ。」
女神の提示した加護に重戦士は否定を示した。
ついでに重戦士は「遅すぎる」と言われて追放されたところに「もう遅い」と先ほどまで連呼され苛立っていた。遅いからいけなかった。遅いと言われないための力が欲しかった。
『・・・それでしたら【加速】の加護にしましょうか。起動すると徐々に速くなるスキルです。十分に時間が経てば音すら置き去りにして誰よりも速くなります。いきなり敏捷が3倍になっても振り回されるだけですし。』
「それでいい。頼む。」
『かしこまりました。それでは【加速】で決まりですね。
良い「もう遅い」ざまぁライフを楽しみにしていますね!それでは!』
頭の中の気配が遠ざかるのと同時に、新たな力が宿ったのを重戦士は感じた。
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「うぐっ!?」
【加速】スキルを手に入れた重戦士はその力を確かめていたが、そのあまりの使いにくさに苦戦していた。
時間経過で速度が上がるので速さに慣れた状態で動けるのだが、速さとはエネルギーであり、速くなりすぎると体当たりを仕掛けただけで敵が爆散し、自身にも大きな反動を受けるのだ。剣を振るおうものなら相手ごと砕け散る。
重戦士の身体が粉々になっていてもおかしくはないのだが、勇者に役立たずと評された防御力の高さがここで活き、強い衝撃を受けるだけで済んでいる。
「速くなりすぎるとこっちの身体が持たないな・・・ギリギリを見極めていかないと」
全身の痛みに喘ぎながら試行錯誤を繰り返していた重戦士であったが、彼はあるとき気付く。
「ある速度以上のときは動いただけで周りが荒れている?速すぎることで衝撃波が生まれているのか?」
「これならダメージを負わずに攻撃できるな。速くなるまでかなり時間がかかるのが弱点だが・・・」
彼の修行パートを眺めていた女神はこれをソニックブームと呼んだ。
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「ほれほれどうした人間!そんな鈍重な攻撃が我に当たるものか!当たっても痛くもかゆくもないがな!わはは!」
「ぐっ・・・」
彼はその足で魔王のもとにやってきていた。反動が大きく使いにくい加護は今は使っていない。
そしてバリアを貼っているくせに俊敏な動きで攻撃を避ける少年のような姿の魔王に一撃も当てられずにいた。
「くそっ、ちょこまかと・・・!」
「貴様もだいぶ防御が硬いが攻撃が当たらなければなんということもない!ジリ貧ってやつだ!」
「仕方ない・・・【加速】起動」
魔王の言う通り、このままではこちらの分が悪いと判断した重戦士は加護を発動。そしてその場で防御態勢をとった。
「お?奥の手か?攻撃してくれと言っているようなものだ!」
重戦士がなにか奥の手を切ったと判断した魔王は目にもとまらぬ速さで襲い掛かる。
「硬いな!だが我の動きにはついてこれ・・・なに?」
苛烈な攻撃を防ぎ続ける重戦士であったが、魔王は重戦士が次第に自分の攻撃に反応し対応し始めていることに気付いた。
「我の攻撃についてこれるだと!?ならこれならどうだ!」
魔王が攻撃速度を上昇させるが、しばらく経つと重戦士はやはり同様に対応してきた。そして
「くそっ!なら我の全力なら」
「 も う 遅 い 」
「ぐああっ!」
重戦士が目の前から消える。衝撃を受ける。再び現れては消える。衝撃を受ける。
魔王は理解ができなかった。ついさっきまで自身に一発も攻撃を当てられないほどノロマだった目の前の人間が急に認識ができないほどの速度で動いたのだ。見えないのでは衝撃波を避けることもできず、とうとうバリアが消滅してしまった。
『あの、もう遅いって「加速した自分がお前より速くなったから物理的にもう遅い」って意味じゃなくてですね、自分のやったことを認識して謝るけどすでに手遅れって意味のもう遅いなんですけど』
重戦士の頭に幻聴が聞こえるが一歩間違えば死の【加速】に集中している彼は聞かなかったことにした。
「ま、待て!貴様に世界の半分をやろう!だからここは見逃してくれ!」
自分の死の危険を初めて目の前に感じ、焦った魔王は取引を持ちかけるが
「もう遅い」
『!!これこれ!こういうの!』
簡潔に答える重戦士と頭に響く喜びの声。
「お前はもう死んでいr」
『ヤバいヤバいヤバい!危な危な!危なかった・・・
手遅れとは言いましたが致命傷的な意味じゃないんですけど・・・』
何故か危険を感じた女神は慌てて誤魔化す。
「なっ!?がふ・・・。」
そして首から下がなくなっていることに今気づいた魔王は混乱したまま意識が暗転した。永遠に。
自身の望んだ圧倒的な力、圧倒的な速さで魔王すらたった一人で倒した重戦士は女神とその加護に感激していた。
「ああ、なんと気持ちがいいのだろう。速さこそが強さだったのだ。
自分の速さを誇り私を鈍重と嘲る者どもより速くなって「お前はもう遅い」と評すること、これが女神の求めたものか!」
『違いますが・・・』
もう遅いって覆水盆に返らず、縮めて覆盆モノみたいな取り返しのつかないことをしてしまったとか二度と許す気はないみたいな文脈が多いですがそれ以外で言わせるにはどうすればと考えた結果こうなりました。