発熱
ジェマのワガママが聞き入れられ、間もなくしてユーインはジェマ専属の護衛になった。
私の心配をよそに、ユーインがいくら素っ気なくてもジェマが気を悪くすることはなかった。
むしろ邪険にされればされるほど、良いようだ。
「いやぁん、ユーイン♡」
「ひどーい、ユーインの鬼ぃ」
「ユーインったら冷たぁーい、ジェマ泣いちゃう」
そんなジェマの嬉々とした悲鳴が毎日聞こえてくる。
ユーインも心得たもので、散々クールにあしらっておいて、最後の最後で少しだけ優しさを見せるという手法でジェマの手綱を握っている。
これが俗に言う、ツンデレというやつねと私は学んだ。いや、ユーインの場合、ツンデレよりもツンが格段に多い。ツンツンツンツン、デレだ。
その最後のデレが見たくて日々奮闘しているジェマは、意外とMなのでは疑惑。
ユーインに振り回されている間のジェマは私に変な絡み方をしてくることもなく、時は平和に流れた。そう、平和だ。
時折セシルのことを思い出しては、今どこで何をしているのか気になったが、忘れることにした。
過去を悔やんでも憎んでも、仕方ない。
ただ一歩先だけを見て勉学に励み、気付けば卒業を間近に控えていた。
ボールドウィン家の養女となって、もう一年半。ジェマが四度目の蘇生を果たしてからは一年になる。
アルの告白を受けて以来、常にジェマの死を意識してしまって心穏やかではなかったが、ジェマはちゃんと生きている。
普通より死にやすいとは言っても、十六年で四度だ。単純計算しても四年に一度。勿論そういう風に単純に割りきれるものではないが、当面は無事な気がする。
きっとしばらくはもう死なない。そう思いたいだけかも知れないが、そんな気がする。
そう油断していた矢先、ジェマが発熱した。
寝込んでもう五日になる。
熱に浮かされたジェマが病床に呼んだのは、ユーインではなく私だった。
「お姉様……お願い、ジェマの手を……握って」
弱々しく差し出された手を握り、ジェマを励ました。
たたでさえ細い身体が一段と小さく見え、消え入りそうに弱々しい。
額に乗せられた濡れた布が生温かくなるのは直ぐだ。メイドに代わり、それを何度も冷たい水に浸しては絞り、ジェマの額に乗せ直した。
ジェマの苦しさを少しでも吸い取ってくれますように。
これまでにジェマを小憎らしく思うことは何度かあったが、それでも死んでしまえばいいなどとはとても思えなかった。
死んでしまってもどうせまたすぐに生き返ると分かっていた時とは、もう違う。
これで死んでしまったら最期だ。
そういえばアルは今頃どうしているんだろう。
荷物をまとめて出て行く準備をしている頃だろうか。
それとももう蘇生魔術を使えないというのは嘘で、魔法陣を描くために生け贄の奴隷を見繕っているとか……。
「ジェマ!」
慌ただしく部屋へやって来たのは、公務から戻られたマテオ様だ。
私を押しのける勢いでベッド側まで来て、あれこれとジェマの世話を焼き始めた。
私の出る幕がなくなったので、美しい兄妹愛を横目に、そっと部屋を後にした。