アルからの宣告
領主様とマテオ様がご不在の場で、話し合いに担ぎ出されたアイゼア様は、何とか農民たちと折り合いをつけた。
後日改めて課税に関する話し合いの場を設けるという約束と、お屋敷に備蓄してある食料を持ち帰らせることで、農民たちはとりあえず矛先を収めたのだ。
アルから報告を聞いて、私は眉をひそめた。
「去年からの悪天候で、二年連続して不作なんですね。それなのに増税とは……。食べるにも困っている、という感じでしたよね」
お屋敷を取り囲んでいたのは、農夫だけではなかった。継ぎ接ぎだらけの服を着た、女子どもも武器となる農具を持って押しかけていた。戦力としてではなく、抗議の意味が大きいことは見てとれた。
「ジェマ殿の生き返りに多額の費用がかかるからね」
アルが言った。
「先代の魔術師は、豪邸を建てて一生遊び暮らせるほどの報酬を貰って、早期リタイア。そのお金の捻出元は? はい正解、領民から厳しく取り立てた税金です」
私は眉間のしわを深めた。
「他人事みたいに仰いますけど、あなたは現役のお抱え蘇生魔術師ですよね?」
「はい、それも大正解。この前のジェマ殿の蘇生で凄い大金を得たよ」
にっこりするアルをじいっと見ると、わざとらしく悲しそうな顔をされた。
「嫌だな、そんな悪人を見るような顔をされては胸が痛いよ。僕は領主殿との契約に基づいて、定められた報酬を貰っただけだよ。蘇生魔術を使うと貴重な魔力が失われる、その代償としてね。そのくらい貰わないと割りに合わない」
それはそれで正論だ。何も言い返せないでいる私に、アルは苦笑した。
「何をしてでも我が子を助けたい、そんな親心につけこんで、私腹を肥やそうとする人間は世の中に五万といる。実際助けることのできる人間は、百万人に一人もいないけどね」
何が言いたいのかと、探るようにアルを見つめた。蒼い海のような瞳が私を見つめ返す。
「僕は数少ない、助けることの出来る人間だ。けど無限じゃない。助ける相手は選らばざるを得ない。助けられる側も、それは重々承知しておかなねばならないんだよ、本来はね。何度死んでもお金さえ払えば蘇生できる、そういう問題じゃない。愚かにもそれを短期間で繰り返してきたツケが、いま回って来ている。さっきの、押しかけてきた農民たちを見て分かっただろう」
飄々としたピエロの仮面を脱ぎ捨てた、アルの素顔から目が離せない。
「ジェマ殿は美しく、特別に可愛らしい少女だ。しかし彼女を何度も蘇生させるたびに、大勢の奴隷と農民の子どもたちが犠牲となる。奴隷や農民の子は、ジェマ殿のように美しくはない。みすぼらしく、みっともない。だけど日々、懸命に生きている。同じ命だ。領主なら、我が子以上に領民を大切にすべきだ。船頭が馬鹿では船が沈む。あのオッサンは本当に馬鹿だ。腹立たしいよ」
唖然としている私に気づき、アルは慌てて取り繕った。
「おっと、僕としたことが。柄にもなく少し熱くなってしまったね」
飄々とした態度を取り戻し、にっこり笑った。
「というわけで、僕はこれ以上ジェマ殿を蘇生させる気はないんだ。次は確実に死ぬ。そのつもりで覚悟しといてね、君も」