救世主か詐欺師か
その後私は大いに悩んだ。
アルが告白したことを誰かに告げ口すべきかどうか。
アルが言ったことがもし本当なら、大至急、他の蘇生魔術師を探さなくてはならない。
ジェマがまた死んでからでは遅い。
蘇生魔術は、死後二十四時間以内に施す必要がある。それ以上経過すると効き目がないのだ。
アルにもう蘇生魔術を施す魔力が残っていないのだとしたらーー……次にジェマが死んだときには、もう生き返らせることが出来ないということだ。
ジェマに死んでほしいかと、アルは私に尋ねた。
つまりこういうこと?
ジェマが次に死んだとき、頼みの綱のアルはしれっと姿をくらます。
皆は慌ててアルを探すが見つからず、時間は刻々と過ぎていき、ジェマを蘇生できる制限時間が過ぎる。
ジェマはもう二度と生き返ることができない。
想像すると焦りを覚えた。もし本当なら、急いで領主様へ報告すべきだ。
そうすれば領主様はアルを直ちに拘束して問いただすだろう。
そこでアルがシラを切ったら?
あれは冗談だったと言うかもしれないし、そんなことは言っていないと突っぱねるかもしれない。私の虚言ということになるかもしれない。
なぜならアルが本当にそう言ったという証拠はないし、アルが蘇生魔術を使えないという証明は出来ない。
領主様に問いただされたところで、アルは堂々とシラを切れば済む。
それが分かっているから、私にあんなことが言えたのだろう。
私はきっと誰にも告げ口をしないし、されたところでダメージは無いと判断したのだ。
ダメージは無い……しかし、アルに一体何の得があるのだろう。
もし本当にもう蘇生魔術が使えないにも関わらず、使えるふりをしているのだとしたら、ボールドウィン家のお抱え魔術師として居座るメリットは理解できる。
衣食住と社会的地位が保障され、雇用契約の月給が得られる。嘘がバレるまでーー、つまりジェマが次に死ぬときまでは安泰だ。
その事をわざわざ私に知らせるメリットがない。
だからあれはやはり冗談で、私の反応を見て楽しみたかっただけだろう。
ジェマが次に死んだときにも、アルは奴隷少女たちの血で颯爽と魔法陣を描き、華麗な蘇生魔術を披露するのだろう。
そう思わないとやってられない。
アルの秘密を告発すべきどうか悩むのも、ジェマの五度目の死を想像することも、私の心を消耗しすぎる。
もしジェマが本当に死んでしまったら、死んだままになってしまったら、困るのは私じゃないのか。
ジェマの『優しい姉』である私は、ジェマがいなければこの家に不要だ。
アルがジェマを蘇生して「存在意義を示せた」と言ったのと同様に、私はジェマの望む姉でいてこそ、この家での存在意義があるのだ。
ジェマが強く望んだから、領主様は私を養女にした。もしジェマがいなくなったら、私は養子縁組を切られて、実家へ戻されるのだろうか。
それならそれでいいと思いたいが、実家の両親はどうなのだろう。領主様からの実家への援助はどうなるのだろう。返さなくてはいけないのだろうか。
ならやはり、ジェマには生きていてもらいたい。いや違う、ジェマが生きていても私の存在意義は失われつつある。
アルが指摘した通り、ジェマは私との『姉妹ごっこ』に飽き気味だ。
お姉様、お姉様といって頬を染めていた時期は過ぎ、私を置いて私の友人やセシルと親しくし、その話を私に聞かせては羨ましがらせようとしてくる。
しかし私があまりに諦めきっていて反応が乏しいのが面白くないようだ。
性格の悪い、嫌な妹だと思う。
しかし、私の実家を救ってくれた恩人であることに変わりない。