一緒に……
ジェマのお陰で大勢の民が救われるのなら、雲の上からジェマも笑ってくれるだろうか。
ジェマが精霊王の花嫁となったことが、目に見えて報われてほしい。そう切に願う。
「ああ……そうだね。生け贄が死後、天界で極上の暮らしができているかどうかは分からないが、精霊王に花嫁を献上すると天候が落ち着くのは本当だ。成功事例は、過去に幾度も確認できる。身分の高い娘である程、効果が高い。だから、ボールドウィン家の娘であるジェマ殿が適任だった」
そう判断を下したのは国王陛下だ。
「正直、打ってつけだと思ったよ。何故ならジェマ殿はすでに何度も死んでいて、蘇生のたびに領地経営をひっ迫させていた。ジェマ殿を精霊王への生け贄にすれば、異常気象は落ち着くし、二度と蘇生できない身となり、ボールドウィン家の財政難も改善できる」
「それで前領主様とマテオ様が納得できるなら、爵位の剥奪までは考えてなかったと、アイゼア様からお聞きしました」
「当初の予定ではね。けれど、昨日の婚姻の儀での二人のあの暴君ぶりを実際にご覧になって、国王陛下のお気持ちも変わられた。まあ自業自得だね。彼らには同情しない」
そういえば以前、アルは前領主様のことを「あのオッサン、本当に腹立たしいな」と言っていたことを思い出した。
前領主様とマテオ様は、今頃どうしているだろうか。国王陛下の兵団に護送されて、王都経由で北部の開拓中の土地へ送られると聞いている。
その事についても少しアルと話をして、今後のボールドウィン家の展望を聞かされた。
正直、今後のボールドウィン家の展望は、この家を出て行く私にとって、もう直接は関係ないが、前領主様から父に援助いただいたお金は、これからコツコツ返して行こうと思う。
そう伝えると、アルは微笑した。
「うん、君らしい考えだ。けど一つ提案がある。そのお金は、とりあえず僕からボールドウィン家へ返しておくよ」
「どうしてアルがそんな大金を……あっ、もしかして……蘇生の報酬金?」
「正解。一旦は国庫へ入れたけれど、ユリウスが返すってさ、アイゼアに」
「でも、うちの父が前領主様に借りたお金はお金で、また別物よ」
「それはそれで、余裕ができたら返したらいいんじゃない? 君のお父様とお兄様がさ、アイゼアに。君は僕のところへおいでよ」
「え?」
「僕が都に帰るとき、一緒に来てくれないか? こんなタイミングで言うのもどうかと思ったけど、今日を逃すともう君は僕との間に分厚い壁を作っちゃって、突破させてくれない気がするから。だから今言うよ。僕と一緒に、都へ来てほしい。君を連れて行きたい」
アルはソファーを立って、私に手を差し出した。
僕と一緒に逃げる?と聞かれたときのことを思い出した。あの時は取ることが出来なかった手に触れた。
その握った手をぐいと引かれて、アルの胸の中におさまった。ぎゅっと抱きしめられた。
少し息苦しいくらいに。
「お姉様、ずるぅーい。やっぱりアルとデキてたんじゃない」
「ん、どうした? 何を怒っている?」
「あっ、精霊王さまぁ♡ お帰りなさいませえ。何でもありませんわ、ちょっと下界の様子を覗き鏡で見てただけですわ。だって精霊王さまったら、ジェマをお留守番させて、お出かけしちゃうんですもの。ジェマ、淋しくってぇ」
「それは済まなかったな。可愛い妻をもらった礼に、雷神と太陽神のところへ行って、天候に関する話をつけて来たのだ」
「え~! 精霊王さまったら、すごぉーい♡ 流石ぁ、かっこい~い♡ ため息が出るくらいお美しくて、お優しくて、何でもできて、お仕事もお料理も、星座の解説もできて、精霊たちにも慕われていて、本当に素敵ぃ♡ ジェマの旦那さま♡」




