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正体

「おおっ、アル! そこにいたのか。早くジェマを蘇生しろ、お前の仕事だ! 頼む、早くしろ」


必死の領主様に、アルは冷たく言い放った。


「それは出来ません。精霊王との婚姻は、神との契り。蘇生魔術を上回る、強力な縛りです。ご存知でしょう?」


「そんなものは知らぬ。何とかしろ! お前へ幾ら払ったと思ってるんだ!」


「出来ないものは出来ません。前回頂いた報酬は前回分ですし」


貴様!と言って、領主様はアルの胸ぐらを掴んだ。

しかしアルはびくともせず、いたって冷静だった。


「落ち着いてください、領主殿。国王陛下もいらしています」


国王陛下という単語に流石にはっとしたらしく、領主様はすぐに手を下ろしたが、アルに言い募った。


「これが落ち着いてられるか。我が娘があそこから飛び下りたんだぞ? 何故だ、何故ジェマが……」


アルは悠然と答えた。


「なぜ? ボールドウィン家の娘を精霊王の花嫁とする。国王陛下の勅命であり、領主殿も快く了承なさっていたではございませんか」

「そ、それは……」

「本当はジェマ殿が指名されていたのではないですか? しかしどうせ国から来る奴らは娘の顔など分からぬと、養女を身代わりにしたのではないですか?」

「なっ、何を言う。貴様、憶測で物を申すな!!」


領主様の怒声が響いた。


「父上」


領主様の隣に立ったのは、マテオ様だ。

剣を抜いて、アルへ切っ先を向けた。


「こいつ、殺ってしまいましょう。こいつはエミリーとデキてる。自分の女の命が惜しくて、ジェマを陥れた黒幕野郎だ」


ひたすら混乱を極めていた私だったが、不意に自分の名前を呼ばれて、我に返った。

アルに剣先が突きつけられている光景を目の当たりにして、自分の心臓が抉られたような鋭い痛みが走った。


「いやっ、やめてっ! アルっ、逃げて!」


ずっと喉に小石が引っかかっていたような違和感があったが、大声を出すとそれがポロリと取れた。

そうだ、私はエミリーだ。ジェマではない。

ジェマはさっき、あの断崖から飛び下りて、死んだ。

ジェマが死んだ……嘘……嘘でしょう。

だってジェマはもう、生き返らない。


「エミリー、お前よくもぬけぬけと! ジェマを身代わりにしやがって……ジェマはあんなにもお前を慕っていたというのに、糞女! お前も殺してやる! いや、お前から殺してやる!」


マテオ様がくるりと方向を変えた。

こちらへ向かって来る。この隙にアルが逃げられますようにと祈った。

死ぬ覚悟ははなから出来ている。


すっと私の前に立ったのは、ユーインだった。堂々とした立ち姿で、大きな背中で私を庇った。


「何だぁ、お前は! お前もグルか!」

「よせ、マテオ!」


ユーインとマテオ様の間に立ったのは、アイゼア様だ。

アイゼア様が私たちを庇って下さるとは。


「このお方は、我が国の第二王子だぞ」


耳を疑ったのは、私だけではないようだ。

どよよっと一斉にどよめきが起きた。


「はあぁ? アイゼア、お前は馬鹿か。我が国の王子殿下は全員、金髪なんだよ。コイツが王子な訳ないだろうが。詐欺師だ。捕らえろ、コイツも女も裏切り魔術師も。全員引っ捕らえて、死刑だ!」


マテオ様はそう高らかに言ったが、アイゼア様もユーインも、周りを取り囲む警護たちも、誰もその場を動かなかった。

いや、唯一動きがあった。近衛兵長だ。近衛兵たちの間からすたすたと歩み出てきて、アイゼア様の隣に並び、マテオ様に向き合った。


「な、何だ、兵長まで。謀反か、これは謀反だぞ!? 父上っ、国王陛下、ご覧になっていますね。我が愚弟が家臣を取り込み、謀反を。謀反を起こしています。然るべき処置をお願い致します」


「ぎゃーぎゃー、うるせえなぁ」


ユーインが吐き捨てるように言った。


「俺からもお願いしますよ、国王陛下殿。いつまで高みの見物をなさっているおつもりで?」


ぎょっとした。ユーインの視線の先、特別に設置されてある座席から、国王陛下がゆっくりと立ち上がった。

ばばっと近くの側近が跪いて頭を垂れ、他の者も慌ててそれに倣った。


「いやあ、すまんすまん。可愛い愛息の見せ場を今か今かと待っておったが、いいとこ無しだったのう、ユリウス」


ユリウスと呼ばれたユーインは、むすっとして答えた。


「いいとこだらけだろ。その目は節穴でございますか」

「アルの方が格好良かったぞ」と言い返して、国王陛下は一同を見渡し、パンパンっと大きく手を打った。


「皆の者、顔を上げてよく聞け。処遇を言い渡す。ボールドウィン家の当主、ブルーノ・クリフトン・ボールドウィンとその長男、マテオ・クレイグ・ボールドウィンから公爵位と爵位継承権を剥奪し、次男のアイゼア・ノーマン・ボールドウィンへ公爵位を与える。よって、たった今よりボールドウィン家の領地を治める領主はアイゼアである。ブルーノとマテオは国土最北部の開拓地の労働班へ送り込む。国民のために未開の地を開拓せよ。ブルーノの妻、グレースは修道院へ送る。奉仕活動に勤しめ」


「そんなっ、どうして私たちが。国王陛下!」


領主様が声を上げた。


「それが分からぬのが問題であるぞ。ブルーノよ。お前の領民が食べるにも困り、増税されては死ぬしかないと悲痛に訴えてきたのは、どうしてだ? 胸に手を当ててよく考えてみるが良い。十分に心当たりがあるだろう」


領主様は顔色を変えて、アイゼア様と兵長を交互に見た。先程とは打って変わり、媚びるような目つきだ。

二人に何とか擁護してもらいたいようだ。

国王陛下は更に言葉を重ねた。


「三年ほど前だったかの。家の状態を危惧したアイゼアが、近衛兵長と連名の陳情書を王城へ持参してきたのだ。まあその内容をそのまま鵜呑みにするわけにも行かぬからな。現場をしっかりと調査して公正な判断材料を得るために、アイゼアにも知らせずに、潜入調査員を送り込んだのじゃ。優秀な王城お抱え魔術師であり、わしの側近であるアルバートと、わしの息子で第二王子のユリウスをな。ああ、ちなみにユリウスの自慢の金髪はばっさり刈って、黒く変えてやったわい」


国王陛下のお言葉を唖然とした気持ちで聞いていたのは、私だけではないはずだ。

アルが……王城お抱えの魔術師で、国王陛下の側近で、ユーインは第二王子……ユリウス王子殿下!?

頭が追い付かない。心も。

信じ難いけれど、これはどうやら現実らしい。


急展開した現実は、その後バタバタと慌ただしく動き出した。

領主様とマテオ様は国王陛下の兵団に連行され、祭事の後片付けはアイゼア様が取り仕切り、私は何故かユーインに……じゃなくてユリウス王子殿下に送られて、ボールドウィン家へ帰宅した。


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