嫁入り先は
その日以降、ジェマは上機嫌で取り寄せた貴族令息の釣書を眺めている。
「お婿さんに入るんだから、長男は駄目よね~。次男か三男か四男か。でも実家はお金持ちがいいなぁ。そしてかっこ良くなくちゃ! 美形じゃないと可愛い子どもが生まれないもの。それに歌やダンスが上手で、芸術センスがあるといいなあ。そういうのって遺伝するもの。ねえ、お姉様」
「ジェマ。その素晴らしい男性像の相手が私ってことを忘れているわよ」
思わず釘を刺したくなるくらい、ジェマは高望みだ。
この調子ではジェマのお眼鏡にかなう人は見つからず、頓挫しそうだ。
まあそれなら良いか。
ジェマがノリで選んだ相手と言われるがままに結婚して、子どもをもうけるなんてゾッとする。
「あら、お姉様はこのくらい高望みしてくださいな。何てったってジェマのお姉様だもの。素敵な旦那様と幸せになってもらわないと。それにお姉様の旦那様は、ジェマのお兄様になるんだもの。一緒に暮らすのは見目麗しい、素敵な方がいいわ」
何だか嫌な未来が簡単に想像できる。
ジェマはきっと欲しくなるだろう。その、私の素敵な旦那様を。
もし子どもができたら、ジェマが我が物顔でその子に干渉するんだろう。
お着替え人形のようにして遊んで、育児にも教育方針にもあれこれ口を出してきそうだ。
想像しただけでゲンナリする。
ジェマの計画が上手く行きませんようにと心の中で祈った。
今度のパーティーはマテオ様のお相手選びがメインで、私のお婿さん選びはジェマが暇つぶしに思いついた余興に過ぎない。
ジェマが書類選考し、パーティーの招待状を送った「未来の義兄候補」は6名だ。
実物に会えるのが楽しみだときゃっきゃっしながら、指折り数えてパーティーの日を心待ちにしていたジェマだったが、それよりも早くやって来たのは、意外なお客様だった。
領主様へ、国王陛下からの使いだ。
陛下からの直々のお手紙には「ボールドウィン家の娘と精霊王との婚姻」について書かれていたそうだ。
お手紙を読んだ領主様は、私へ言った。
「――というわけで、エミリー。精霊王の元へ嫁いでくれるか」
思わず耳を疑った。
「私が、ですか?」
「ああ。長女から先に嫁に行くのは当然だろう。養女であれ、お前は長女だ。本当の娘のように思っているしな。それとも何だ、まさかジェマにこのお役目を押し付けるつもりか?」
押し付けると聞いて、すとんと腑に落ちた。
まさに私が今されようとしていることだ。押し付ける。
精霊王との結婚とは、すなわち「自然界への生け贄」だ。
二年続けての悪天候による農作物の不作は、ボールドウィン家の領地を含む、国土の東部一帯に悪影響を及ぼしている。
春夏に厳しい日照りが続いたかと思えば、秋の異常な豪雨。冬の極寒。天の神が怒っておいでだと各地の農民や神官たちが祭事を開いて、祈りを捧げたが効果がなかった。
最も効果の期待できる手段として、生娘を生け贄として捧げるという儀式が古来より行われてきた。
生け贄となる生娘は「精霊王への嫁入り」という名目で捧げられ、身分の高い者ほど適格で相応しいとされてきた。
かつては領地を治める領主の判断で行われた儀式だそうで、国王陛下から命じられて行うことは異例と言えるだろう。
それほど緊急事態とも言える。




