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死なないで


アルを探しに医務室へ向かった。

アルは普段は侍医の助手をしている。白い布を裂いて包帯を作ったり、医療器具を消毒したりと、細々とした用事だ。侍医が兵舎へ往診するときには荷物持ちまでしている。


「いやあ、やっぱり何もしないでタダ飯食らってるのも、性分じゃなくてねえ」


などと謙虚なことを言っていたが、もう蘇生魔術を使えないのに使えるふりをして、お抱え魔術師を続けている身でよく言えたものだ。

アルの秘密が本当なら、アルの魔力はすでに枯渇してしまっている。温存している魔力などないのだ。

それにしては、あまりにも堂々としている。詐欺師の教科書のような人だ。


医務室を覗くと、アルだけがいた。

侍医はちょうどジェマのところへ向かったところだと言う。私と入れ違いだ。


「逃げなくていいんですか?」


悠長に雑務をしているアルに尋ねた。


「逃げる? どうして?」

「ってことは、ジェマは大丈夫なんですね?」

「ああ、大丈夫だよ。回復傾向にあるって、センセーも言ってたし。心配ない」


アルはにっこり笑って、それから不思議そうに私を見た。


「あれ、ひょっとして僕が逃げ遅れてないか、心配で見に来たの?」


「いえ、本当に逃げてしまっているのか、気になって見に来ました。そんなに余裕でいらっしゃるってことは、ジェマは大丈夫ですね」


「なるほど、その確認ね。大丈夫だよ。けどそう安心させておいて、君が帰ったすぐ後に逃げるかもね。逃げるのにそう手間はかからない。ここに置いてある物は全部置いて行ってもいい物だし、報酬は持ち出し済みだし」


アルは挑発的な笑みを浮かべた。


「心配なら、僕の隣で寝起きして四六時中見張っておく?」


一瞬本気で想像した。アルが本気で逃げようとしたら私は止められるだろうか。力では負けるから、誰かをーーユーインを呼ぶとか?

しかし逃げるアルを急いで捕らえたところで、ジェマは助からない。

そもそもジェマが次に死んだとき、蘇生してほしいのかほしくないのか、私自身がハッキリしていない。


度重なるジェマの蘇生費用で領地の財政はひっ迫している。悪天候による不作続きの影響も大きい。

昨年行われた農民たちとの話し合いの結果、増税は先送りとなったが、今夏も日照りが続いたため農作物の育ちが悪い。今年も不作だろう。


黙る私にアルはふわりと笑った。


「僕もジェマ殿には長生きしてほしいと思ってるよ。一緒に天に祈ろう」


祈りが通じたのか、翌日になるとジェマの熱は下がり、三日後にはベッドから出て歩けるまで回復した。

落ちた体力を取り戻すために、お屋敷内をゆっくりと散歩している。

学校から真っ直ぐ帰宅すると、ユーインに付き添われてよたよたと歩いていたジェマが、嬉しそうに大きく手を振ってきた。


流石のユーインも病み上がりのジェマには優しいようで、ベタベタされても嫌な顔をしていない。かといってニコニコもしていないけれど。

それでも嬉しそうなジェマが微笑ましく思えた。死ななくて良かった、と心から思った。


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