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四度目の死

妹が死んだ。これで四度目だ。

先日無事に十六歳の誕生日を迎え、皆がほっとした矢先の出来事だ。


ベッドの中で息を引き取っているジェマを発見したのは、ジェマ付きのメイド、アーリアだ。

気落ちしているアーリアの肩にぽんと手を置いたのは、ボールドウィン家お抱えの魔術師、アルフレッド・R・スコットニー。

銀髪に浅黒い肌、ブルーサファイア色の瞳。異国の者だと一目で分かる風貌をしている。


「大丈夫。このときのために僕がいる」


アルは蘇生魔術が使える、貴重な魔術師だ。

ジェマの遺体はボールドウィン家の敷地内に建つ聖堂に運び込まれ、アルが用意した魔法陣の中央に置いた寝台に寝かされている。

死者を生き返らせる禁忌の魔術。

その使い手は稀少で、高度な魔術が使える者の中でも、百万人に一人と言われている。


そして、その者も無限に蘇生魔術が使える訳ではない。一度使うごとに多大な魔力が失われ、三度も使えば完全に魔力を失ってしまい、無能力者になる。


事実、アルの先代のお抱え魔術師はジェマを三度蘇生したために魔力が枯渇し、魔術師を引退せざるを得なかった。

しかし相当の褒賞と退職金を得て、悠々自適な隠居生活を送っていると風の便りで聞いた。年老いるまで働き詰めるより、それはそれでいいのかもしれない。


アルの蘇生魔術でジェマは生き返った。

それと引き換えにアルは魔力を三分の一失った。

犠牲はアルの魔力だけではない。三名の乙女が生贄として捧げられた。蘇生魔術の魔法陣は生贄の血で描かれる。

ジェマが生き返ると魔法陣は消滅し、蘇生魔術を行うたびに新しい生贄を必要とする。

ジェマを蘇生したのはこれで四度目なので、計十二人の生贄が捧げられたことになる。


「生贄は奴隷から見繕った人員だ。非人道的という問題はあるが、それ以上に問題はない。懸念すべきはやはり、貴重な蘇生魔術の使い手を次々と潰していくことだ。ジェマのために、蘇生魔術者がどんどんいなくなる。苦慮すべき問題だと思わないか?」


ジェマのすぐ上の兄、アイゼア様が読書室で本を読んでいた私の隣へやって来て、声をひそめて言った。


「……昔、同じことを領主様へ言った者は、領地から追放されたと聞きます。アイゼア様はご令息でいらっしゃいますから追放されることはないと思いますが、そのようなことは口にされないほうが……」


人目をはばかって私も声量を抑えた。

アイゼア様が発言されたことに私が軽く頷きでもすれば、私が発言したとも受け取られかねない。

アイゼア様とは違って、私は養女なのだ。

私がこの家の養女になったのは、ジェマたっての希望だった。

領主様からすれば、私は「ジェマが欲しがったから与えた」ぬいぐるみやアクセサリーと同等だ。


「言ったよ、父上に。何度も生き返らされてまた死ななくてはならない、ジェマが可哀想だと思わないのかってね。そういう風に考える俺のほうが理解できないそうだ。愛する我が子が死んで、蘇生できる術があるのにしない親はいないそうだ。不憫な妹を見殺しにしろと言う俺を軽蔑したらしい。あれ以来、父上に避けられている」


アイゼア様は苦虫を噛み潰したような顔をした。

「何度も生き返らされてまた死ななくてはならない」とジェマを表現した言葉に胸が重くなる。

いくら蘇生術を施したところで、ジェマの身体が丈夫になる訳ではない。根本的な解決はせず、相変わらずジェマは死にやすい。


「だからジェマ本人と話をしようと思う。今は生き返ったばかりで安定していないだろうから、少し日を置いて。興奮しそうになったら間に入って、なだめてくれないか。心臓に障ると良くない。それに君も……どちらかというと俺と同じ考えだろう? うちの両親や兄と違って」


ジェマとアイゼア様のお兄様で、ボールドウィン家のご嫡男のマテオ様は、虚弱な妹を溺愛している。


「私は……」


ジェマが今度死んだとき、また生き返ってほしいと心から願えるだろうか?


ジェマを生き返らせるためには、貴重な蘇生魔術師の魔力と彼らへ支払う多額の報酬と、多くの奴隷少女の命が犠牲となる。


それだけの犠牲を払ってでも、我が子を生き長らえさせたいという領主様や奥様のお気持ちも分かる。

妹が可愛くてたまらないというマテオ様のお気持ちも。


だからとても難しくて、繊細な問題だ。


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