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ホープ・トゥ・コミット・スーサイド  作者: 通りすがりの医師
第二章 生存者グループへようこそ
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第85話 『予測不能の男 〜逆転〜』



 ――ドラクは、目の前の男を許せず掴みかかり、問い詰めていた。

 気がかりな言葉は、


「答えやがれ! どういう意味だよベドベ、『一緒に行動する人次第』ってのは……曖昧にも程があんだろ!」


 問われたベドベは少し俯き、


「曖昧……だね……でもまぁ、俺の推測……ってことになるからねぇ……」


 ますます意味がわからない。ドラクはもちろん、そろそろナイトが痺れを切らしそうだった。

 察したベドベは、話を始める。


「……ジルの心の……片隅にね、小さく……『真っ黒な闇』が見えたんだ……その部分だけ何も見えないから……占えなかったよぉ……」


 その単語に、聞き覚えがある。


「それって――なんかホープと似てねぇか?」


「ああ……もしかするとその部分には、ホープが深く関わってるかもねぇ……ホープ本人の運命も何一つわからないし……」


「じ、じゃあ、どうしてジルに『ホープと一緒に行動すれば可能性がある』って言わなかった!?」


「……言っただろ……これは推測……確証が無いよぉ……俺は『嘘つき』とは呼ばれたくない……」


 顔を背けたベドベを、ドラクはついに離す。



「またしてもホープ(あいつ)が鍵ってわけか……」


「……ホープのことは、何も占えなかった……『真っ黒な闇』は間違いなく負の感情だけど……実質……彼は生きるも死ぬも、何をするのかも、予測不能の男ってことだよぉ……」



 そんなことを言うドラクやベドベに、突っ掛かるのはやはりナイトだ。


「あの弱虫にゃァ運命を切り開く力はねェだろ。女自身の強さを信じるこったなァ」


「おいおい」


 ドラクはため息をつき、



「ナイト、忘れんなよ。何度も言っただろ? あいつがいなきゃ作業場でお前を助けられなかったんだ――作業場とオレたちの運命を変えたのは、紛れもなくホープ・トーレスなんだぜ」


「……弱虫とパーカー女が無事に帰ってくるまでァ、信じてやらねェ。行くぞてめェら」



 無駄話が過ぎた、とナイトは他二人を連れてキャンプへ戻り始めた。



◇ ◇ ◇



 ホープは大通りを進み、暗く目立たない脇道へ。入り組み、曲がりくねった路地裏を行く。


 ――走って、走って、走っていた。


「彼女の気持ちを無駄にしちゃダメだよね! それが一番ダメだ! も、もし彼女が死んだら? いやしょうがない、しょうがないしょうがない」


 ――逃げて、逃げて、逃げ続けていた。


「おれに『逃げて』って言った! おれが逃げ出したら『それで良い』って言った! もし彼女が死んだら? ち、違う! おれのせいじゃない!」


 ――諦めて、諦めて、完全に諦めきっていた。


「もし彼女が死んだら? いや考えるな、考えるな考えるな考えるな考えるな、考えるな! 彼女は自分で選んだ、死んだら自業自得だ、もし彼女が死んだら? 悪いのは彼女だっ!!」


 自分で自分を責め、自分で自分を擁護する。

 状況的にも社会的にも性格的にも一人ぼっちのホープは、そうすることしかできない。


 どうせ自分に甘いホープは、擁護の方を強くする。



「……もし、彼女が……ジルが死んだら?」



 ――はずだったのに。

 この時のホープは、足を止めた。止めてしまった。


「し、死んだって……何とも思わないさ。ジルとは赤の他人だ。ケビンともレイとも違う……友達でもないじゃないか」


 考えることを放棄できたら、どれだけ楽なことか。どれだけ安全なことか。

 わかっているのにホープは、冷静になってしまった。


 自分の発言に、違和感を感じるほどに。


「赤の他人……? ジルは、おれにとって何だ……」


 そこが突然わからなくなった。

 だから、過去の自分の発言を思い出してみる。



『おれも、入りたい。入ることにするよ』



 ホープは、この生存者グループに入りたいと表明したのだ。

 だが、まだ認められていない。

 リーダーのニックは、ホープが大都市アネーロから戻ってくるまでは参加を認めないから。


 加えて、彼女のことを何も知らない。

 『かわいい』ということ、つまり見た目以外のことを何も聞いていない。これを友と呼ぶのは苦しい。


 立場上でも仲間ではない。

 ということは、やはりホープにとってジルは赤の他人で……


「じゃあ……ジルにとって、おれは?」


 意味は無いだろうが、そこも一応思い出してみる。



『ホープ――あなたの目、まだ、死んでない』


『でもホープ、前より明るい。前より、逞しい』



 随分、ホープのことを気に掛けてくれているような気がする。

 見る目が無い。間違いなく、自殺願望者を気に掛けるなど、見る目が無い。


「……ウ"ゥ」


 それにホープを励ますどんな言葉も、何一つ的を得ていない。

 すべてが間違っている。


「ウゥ"ッ……アァア"」


 ジルは、バカだ。単に優しいだけで、かわいいだけで、何もわかっちゃいない、大バカ。


「ゥウ"……カ"ァァ」


 そして、思ったほど強くない。

 イザイアスに押され、ほぼ負けていた。ホープやドラクとさして変わらないのだ。

 そもそもホープやドラクが比較対象になる時点で、ジルは普通の域を出ない、弱者なのだ。


 あのまま戦っていれば、絶対に死ぬだろう。


「カ"アァッ!!!」
















 ――――どうして、自殺願望者が生き残るのに、



 優しくて弱い大バカが、



 死ななきゃいけないんだ――――!!
















「おれの行く道の……邪魔するなっ!!」


「ッ――」


 背後から迫っていた一体のスケルトンを、振り返りざまに『破壊の魔眼』で吹き飛ばす。


 右目から血が噴き出る。

 それはもう、スプーンで抉られるかのような痛みとともに。


 でもホープは自分の左腕に爪を立て、その痛みで目の痛みを誤魔化した。

 歯を食いしばり、走り出す。戻るべき場所へ。


「このまま逃げれば、これ以上疲れないし痛い思いもしなくて済んだのに……ジルが大バカなら、おれは大間抜けだな!!」



 そう、ホープは――とうとうブチ切れたのだ。



 階段から転げ落ちたり、ガラスに切られたり、ビルの三階から飛び降りたり、スケルトンに引っ掻かれたり、肩をマチェテで斬られたり、顔をボコボコに殴られたり、魔眼に苦しんだり。

 ――ジルが、自分を犠牲にしたり。


 体を、心を、また痛めつけられた。


 作業場の一件が終わったばかりなのに。


 ――見てみろ、おれはまたしても血だらけだ。


 ――血だらけな、だけ。おれはまたしても死なない。


「なのに何でジルが死ぬんだ! 一生懸命生きてるバカが、死にたがってる間抜けを庇って、何で死ぬんだ! 許すもんか!」


 叫びながら、そこら辺にあった大きなキャスター付きゴミ箱を押し始める。

 少し重いが、気にしない。


 次々と正面に現れる、スケルトンも狂人も、ゴミ箱に跳ね飛ばされた。


 ブチ切れたホープは、もう誰にも止められない。


 暗い路地裏から抜け出し、陽光の差す大通りを走り続け――やがて見えてきた。


「ジル……!?」


 壁まで追い詰められた血まみれのジルが、イザイアスにキスされている。

 足を絡められ、体を押し付けられ、無様な姿を晒しているのだ。


 ――直後、イザイアスが離れた。

 何かに怒りながら、あの見覚えのあるマチェテをジルに向け、トドメを刺す気のようだ。


 そうは、させない。


「うおおおおおおおお!!!!」


 走ったままの勢いでゴミ箱をぶん投げるが、


「んん? ……どわぁ危ねぇっ!?」


 咄嗟にバックステップしたイザイアスには当たらず。

 しかし、


「はっ!」


 飛んできたゴミ箱を横からジルが蹴り、方向転換させる。

 不意を突かれたイザイアスは、


「ぶほぅ!?」


 大きなゴミ箱の重みを体全体で受け止めることになり、軽く吹っ飛ばされた。


 ホープに助けられた形になったジルは、目を丸くさせてホープを見つめている。

 信じられないのだろう、当然だ。


「え、あなたは……あなた、は……」


「そうだよ……!」


「逃げたはず、じゃ……」


「そうだよ! おれはホープ・トーレス――世界一の大間抜けだよ! 他に何か言葉が必要!?」


 押し黙ってしまうジルに、



「さぁ、行こう!」



 ホープは手を差し出した。ジルも手を出そうとはするが、すぐに引っ込めようとする。


「だ、だめ。このままじゃ、あなたも殺され……」


「いいから逃げるんだよ!!」


 そうは、させない。

 ホープはジルの、白くて小さくて綺麗でスベスベで、全然戦いに向いてなさそうな手を無理やり掴んだ。


 ――最近レイと手を握り合って眠ったり、コールと握手を交わしたり、女性とのスキンシップが多かったからこそできた、ホープには大胆な行為だ。


「クソっ、待ちやがれぇ! 今さら戻って来やがったのか、青髪ぃ!!」


 怨嗟の声を背に浴びながら、ホープはジルを引っ張って強引に走る。

 目的の軍基地に行ける方向の、あまり高くないビルを目指す。


 その時、


「は、ホープ危ない!」


「うわ!」


 握っていない、手斧をしまった方の手でジルはホープの頭を下げさせた。

 そのすぐ上を回転しながらマチェテが通過。イザイアスが投げてきたのだ。


 走りながら、地面に落ちたマチェテを拾うジル。


「おいっ、返しやがれエドワードさんの遺品!」


「「やっぱりエドワードの……」」


 ジルの手に持たれたその武器は、決して持っていたい物ではなく、二人して嫌そうな顔をする。

 仕方なくジルがマチェテを懐に入れると、



「んん―――ッ!?!? おい見てみろよっ!! 人がっ、人がいるぜぇぇぇぇ――――っ♪」



 正面から例の『ロックスター』が車に乗ってスケルトンの大群を引き連れて現れた。


「うわぁヤバいの来た!」


 カオス。タイミングは最悪だ。

 が、


「でも、そこ! 路地がある」


「ここってホント路地だらけだよね!」


「街って、そんなもの」


「そうかなあ……? とにかく入るよ!」


 ホープとジルが横手の路地に逃げ込むと、今度は追いかけてくるイザイアスが『ロックスター』に遭遇。


「何だぁ? あの変人は……」


「んな見たこともねぇくらいの悪人面でぇ♪ 俺のことを『変』呼ばわりとはっ!! 命知らずな野郎だぜ―――っっ♪ 新曲♫思いついたぜぇぇぇぇいやっ!!♪」


「お前に構ってる暇はねぇよ!」


 イザイアスも、路地へ入った。

 しばらく走ってみると、どうやらここは行き止まりになっているようで、


「早く、ジル!」


「そうしたいけど、この梯子、ギシギシ言ってる……」


 行き止まりのため、ホープとジルは建物の壁に付いている梯子を登っている。

 梯子は少し高い位置にあり、ホープがジルを持ち上げて届かせたのだ。


「お、おれはここに……」


「ここには、残さない! ホープ、私の足に掴まって登ってきて!」


「あ、あぁ、うん」


 片方だけぶら下がったジルの足をホープは片手で掴み、ジルはそのまま必死に梯子をよじ登り、おかげでホープも梯子を掴めた。

 しかし、



「うおぉぉ!?」


「ホープ!」



 掴んだ一本がバキッと折れて、ホープはジルの足だけを掴んでいる宙吊り状態に。

 どうやらこの梯子、古いのか相当傷んでいる。


 さらに、



「ぎゃははぁ! 捕まえたぜ青髪!」


「えっ、いつの間に!?」



 ホープの足を、ジャンプしたイザイアスが掴む。

 引きずり下ろして痛めつけるか、よじ登って叩き落として痛めつけるか、舌なめずりをするイザイアス。


 さらに畳み掛けるように、



「他人の不幸は蜜の味――ぃ♪♪ 他人の不幸は蜜のあっっじぃぃ――――っ!!♪!♫!♪!!」


「何かとんでもない歌詞聞こえてくるけど!?」



 大声で歌いながら車で突っ込んできた『ロックスター』に連れられ、スケルトンたちが雪崩れ込む。


「んじゃっライブはここまでなっ!! ファンのみんなぁ♪ 今日はセンキュ♫」


 投げキッスした『ロックスター』は、しれっと別の建物の裏口へと逃げた。


「『センキュ♫』じゃないよ! 何してくれてるんだよあの人!!」


 スケルトンたちは格好の餌食を見つけ、


「ぎゃあああ! 来んなクソどもが!」


「コ"オォ」

「アハア"ァア」

「ア"ァ"ァアア」


 イザイアスの足に群がり、引っ張る。

 スケルトン一体だけでもかなりの腕力なのに、それが大量に集まって引っ張るのだ。そのパワーは、


「梯子が、引っこ抜けそう……!」


「えぇ!?」


 イザイアスが引っ張られると、ホープも引っ張られ、ジルも引っ張られ、ガタガタの梯子が崩壊の危機に。

 ただ、それを望む者がいた。歪んだ者が。


「いいぜ、道連れにしてやる……!」


「何だって!?」


 イザイアスの危険かつ、はた迷惑な決意。あまりの執念にホープは耳を疑った。


「最高じゃねぇか! この手を離さないだけで、憎き二人を地獄に落とせんだからなぁ!」


「君もっ――お前も死ぬんだぞ!」


「上等だ!」


 一切の陰りの無い、歪んだ決意。

 それは激しさを増すばかりで、


「……青髪。お前の死期を早めてやるよ」


「は!?」


 ホープにだけ聞こえる小声で、イザイアスは妙なことを口走る。


「さっきから()()()、挑発するたびに悲しそうな顔すんだよ……」


「何を……? 待て、やめてくれ!」


 イザイアスは息を吸い、



「ジル、だったか!? チビエロ女ぁ! ……今も、青髪に脚を触ってもらって嬉しいんじゃねぇか!?」


「……!?」



 その言葉に、ジルが目を見開いた。


「ビンゴ」


 イザイアスは目つきを変え、ニヤける。


「この露出狂がぁ! 俺に抱きつかれた時も、キスした時も、内心嬉しかっただろぉ!? なぁ!」


「違う……」


「構ってもらって、襲ってもらって、喜んでたんだろ! 『私何ともありませんから』みたいな顔しやがってよぉ、バレバレなんだよ!」


「ちが……!」


「じゃあ何でそんなに肌出してんだ!? この荒廃した世界でぇ! スケルトンにでも見せびらかすのか!? お前は自分に、自分の体に酔ってるのさ!」


「ぁ……!」


 イザイアスの、責めているのかよくわからない不思議な言葉。

 だがジルは顔を俯かせ、奥歯をギリギリと食いしばり、相当な精神的ダメージに耐えている様子で。


「自分の顔と体を見せびらかして、お前は周囲の人間の反応を楽しんでんだよ!! あぁ吐き気がするほど気持ち悪いぜ、この変態女……」


「イザイアス―――――――ッ!!!!!」


「……あ?」


 ホープは、黙っているわけにはいかなかった。ただ見ているわけには、絶対にいかなかった。

 イザイアスと――ジルからの、注目が集まる。


「お前が、ジルの何を知ってるんだ!!」


「あぁ? 何だ、お前は知ってるのか? この露出狂に正当な理由でも――」


「おれだって、何も知らないよ!! ジルがおれのことどう思ってるのかだって知らない!!」


「あぁ!? フザケてんのか!?」


 開き直った、とでも言うべきか意味不明なホープの態度にますます怒るイザイアス。

 だが、


「ふざけてないさ――どうしてっ! お前にジルを批判する権利があるんだ!?」


「何言ってんだお前……」


「人の過去を知らないのに、人の『今』を批判できるわけないだろう!!」


「っ!?」


 重い事情とは、重い過去とは、大抵誰もが持っているものだ。

 過去が無ければ、今は無い。


 その中でも人一倍重い過去を持つホープだからこそ――今この場で、ジルを守る義務がある。


「お前みたいな奴を、何て呼ぶのか教えてやる!! ……ジル、マチェテを!」


「……!」


 ジルは驚いた顔をしたが、ホープの目つきを見て何を感じたのか、こくんと頷いた。

 懐から取り出したマチェテを、下に落とす。


 ホープはそれをしっかり掴み取り、



「これを喰らえ『浅はかなクソ野郎』がっ!!」


「ぎぃぃやぁぁぁぁ――――っ!?!?!?」



 太腿を掴んでくる、イザイアスの手の甲に刃を深く深く突き刺した。

 信じられないほどの苦痛に、奴の顔は原型を留めないほど歪むが、それすなわち――



「ぐぅあぁぁぁいぁぁをぁぁぁ――――っ!!」


「ホープ!? まさか、自分ごと!?」



 敵の手の甲を貫いて、自分の太腿にも刃が突き刺さり、二人分の悲鳴が響くということだった。痛すぎて涙も出ない。

 痛いのが嫌いと言ってるのに、もはやただの自傷行為。とんだドMだ。



「んん、許さない! んんんんんん、んんんんんんんおおおおおおおお――――っっっ!!!」


「がぁぁぁぁぁ!?!?」



 それでもブチ切れ中のホープはマチェテの刃をグリグリと、右へ左へ前へ後ろへ動かしまくり、二つの傷口を抉り広げる。

 そして、イザイアスの手に力が入らなくなる。



「二度と、その顔見せるなぁっ!!」



 ホープは刃を抜いた。


 ぽっかりと穴の空いた血だらけの右手を抱えながら、イザイアスは一人で落ちていく。

 スケルトンと狂人が口を開けて待っている地獄へ。



「クソ! クソ! クソ! クソ! クソぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」



 復讐を果たせなかったからか、侮っていたホープに完膚無きまでに敗北させられたからか、無様に泣き叫びながら孤独なイザイアスは消えていった。

 腕も、足も、首も、何もかもを引き千切られ、跡形もなく食われていくだけ。


 ――終わった。危機は去ったのだ。


 が、血の止まらない右の太腿の痛みが、耐えられないくらいになってきた。


 もう疲れて、とにかく何かに全体重を預けたい。


「ちょっと……ごめん、ジル……これはさすがに無茶だった……」


「ん……どうぞ」


 ホープは掴んでいたジルの脚、その白い膝裏や太ももに顔を埋めることでしか、痛みを和らげることはできなかった。

 下心は無いのだが、これは後で責められても仕方ない。覚悟はする。


 ……どちらにせよ、その柔らかさを堪能する暇など無いのだが。


「あ」


「ど、どうしたの?」


「忘れてた。梯子、倒れる」


「はぇ?」


「しっかり、掴まって」


 ガキン、ガキンと梯子を壁に固定させていた金具が上から次々外れていき、



「うぅあああ――――――――」



 ジルが数段登ってから梯子が倒れ、ホープとジルは向かい側の建物の窓に突っ込んだ。



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