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ホープ・トゥ・コミット・スーサイド  作者: 通りすがりの医師
第二章 生存者グループへようこそ
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第75話 『出発の裏側』



「――全員、準備が整ったぜぃ。ニック」


 リチャードソンは、共に大都市アネーロへ行くグループメンバーたちの準備を見届け、ニックに報告しに来た。


「そうか。さて、どんな結果になるやら」


 ニックはそのメンバーを一人一人思い出しつつ、そして葉巻きを吹かしつつ、ニヤつく。

 あの地獄と化した街から誰が生き残って帰ってくるかは、正直なところ少し楽しみなのだ。




 『P.I.G.E.O.N.S.』隊員、『状況分析』を得意としているリチャードソン・アルベルト。


 同じく『P.I.G.E.O.N.S.』隊員、『体力』を長所としているハント・アーチ。


 最近森の中で遭遇し拾った人物、傷んだ黒い長髪のヒステリックな女、ライラ。


 エドワーズ作業場にてドラクやナイトを手伝い、彼らの代わりに責任を取ると言った少女、ジル。


 エドワーズ作業場にて敵だったが、こちら側に数々の恩恵をもたらしたらしくナイトが連れ帰ってきた眼鏡の青年、ジョン。


 そして同じくエドワーズ作業場にいた……よくわからないがナイトが連れ帰ってきた青髪の少年、ホープ――




「……あの青髪のガキは何なんだ? どうやって出会い、どうしてナイトは連れ帰ってきた? 見た目の特徴も皆無、強そうでも弱そうでもなく、人間性も判然としねえ」


 ニックが今まで見たことのないタイプ。まるで世界から切り離されているような、不思議なオーラを放つ少年だった。

 腕組みするニックが片眉を上げて呟くと、リチャードソンは肩をすくめて、


「そりゃ俺がじっくり観察してくるさ。ま、あの青髪の坊主が生き残らなきゃ無意味だが」


 どこか悲しげに返してくる。確かに、死んでしまったら人間性もクソもないのだ。

 聞いたニックは腰に両手を当て、


「……あのガキ、どうにも残れそうにゃあ見えねえ。目に覇気も向上心も全く感じられん……開始早々に死ぬだろ」


「そういうのが案外死ななかったりしてな! わかんねぇぞ、ぶわっはっは!」


 腹を抱えて笑うリチャードソンを、ニックは心配などしていない――が、確認は要る。二点ほど。



「スケルトンパニックの原因調査……頼むぞ、リチャードソン」


「わかってる」



 いきなり真剣になったニックに、リチャードソンも速攻で態度を切り替える。

 どうやら、笑っているのは演技(?)だったようだ。


 グループを率い、生存の道を探しながらも、ニックやリチャードソンが調査していること。

 それは、一年前に発生したスケルトンパニック――その原因についてだ。



「第八代エリアリーダー……スケルトンパニック発生時、この世界に一つだけの()()()()()()を使っていやがった男。そして今も生死は不明」



 確認に確認を重ねるように、ニックが語る。

 リチャードソンはそれに答える。



「前回アネーロに行った時は、ちょうど群れが来て軍基地に入れなかったんだっけか?」


「そうだ」


「エリアリーダーが何を企んでたのか、何を知ってたのか、はたまたヘリに乗ってたのは偶然か……基地の中に、あるいはその中の自室にいるのか……今度こそ確かめねぇとな」



 自身の顎を触っているリチャードソンは、元々固めていた決意をさらに固めた。

 そしてニックは顔を伏せ、



「それから、リチャードソン。もう一つも忘れてねえよな」


「……ああ、ハントのことか」



 サングラス越しでもニックが言い難そうなことがわかり、リチャードソンはこくこく頷く。



「すまねえ。俺としたことが、面倒事を増やしちまった。ハントだけは死なせるなよ、グループの今後にも関わってくるんだ」


「……だよな。まぁ今後に関わらなくたって、俺にとってもお前にとっても可愛い後輩だろ。守るさ」


「頼むぞ」



 いつになく、ニックが落ち込んでいる。


 傍目には平然としているようにしか見えないだろうが、リチャードソンにはお見通しだった。


 ――落ち込むのも、当然な理由があるのだが。


 ――しかも『可愛い後輩』の部分を否定もしなかったし。



「とにかくリチャードソン。てめえは調査のこと、ハントと忘れた銃のことをやれ。俺はこっちで、やることをやる」


「おう。じゃ、行ってくる……全員生き残れりゃいいが」



 リチャードソンはニックに背を向け、キャンプの方へ――大都市アネーロへ行くメンバーの方へ歩く。


 ニックもニックでその背を見届け、踵を返した。



◇ ◇ ◇



 そうしてリチャードソンが戻ると、ホープたちはすぐに大都市アネーロへ向けて出発。

 歩き始めた。


 ホープが持っているのは、ハントから貰ったらしい折り畳み式のナイフ。

 玩具のように小さく、かなり頼りない。


 隣からホープにナイフの使い方を教えているのは、ジル。


 ごく自然に、並んで歩くホープとジル。



「あ……」



 二人の背中を、仮面越しに見ていたレイは、いつの間にか拳を力強く握りしめていた。

 ――自分でも訳がわからないのだが。



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