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ホープ・トゥ・コミット・スーサイド  作者: 通りすがりの医師
第二章 生存者グループへようこそ
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第61話 『恐怖の会合』



 ――これはバカな男たちの問題。

 ジルのそんな台詞に、ホープは一応の納得ができた。


 ドラクもナイトもどこか頑固。かと思えばリーダーまで頑固者だということなので、まぁそのような言い方になるだろう、と。


「あのぅ、ホープ……この二人とは知り合いなのよね? 関係性がちょっと理解できてなくて……」


 少し気まずそうな、レイの問いかけ。


「え……ああ! ごめん、そうだよ。二人とも作業場で会ったんだ。ジルはこのグループのメンバーで、こっちのジョンはエドワードの部下だったんだけど、おれに良くしてくれたんだ」


「……ど、ドラクさんから聞いてます、ホープさんやレイさんの苦しみは。あの時から立場に満足してはいませんでしたが、かっ、簡単に許してもらえるとは思ってませ――」


「気にしないでジョンくん。ナイトが認めたところを見てたから、もういいの……それで、こっちがジルさんだっけ?」


 レイはエドワード一味を恨んでいるだろうに、ナイトをどれだけ信じているのかがわかるやり取り。

 それから彼女はジルを手で示しながら、ホープに確認。だがホープが頷くよりも先に当人が口を開いた。


「ん。でも、『さん』はいらない。よろしく」


「え、ええ。よろしくジル」


 ジョンの時とは打って変わって、お互いに挨拶のみの静かな自己紹介。

 とてもジルらしい。


 ようやくバラバラだった作業場からのメンバーが、少しずつではあるが互いを知ることができただろうか。

 あとはリーダーさんとの話し合いが問題か、とホープが考えていると、


「よっ」


「うわぁ!?」


 ホープの肩に、後ろから突然に手が落ちてくる。革の指無しグローブをはめた大きな手だ。

 つまり肩をポンと叩かれたのだが、



「お前さんが例の青髪か――ってことは、これから始まる『恐怖の会合』のゴング役じゃねぇか。ぶわっはっは!」



 振り返ってみると、豪快に爽快に笑う男がいる。


 中年のようで、身長はホープたちより断然高い。

 オールバックにした焦茶色の髪。面長の顔。口の周りには四角形のように整えられた焦茶色の髭があり、ワイルドなイメージを醸し出す。

 体型は小太りという感じ。胴体が少し丸っこいが、しかし腕や脚は細めで筋肉質に見える。ちょっと熊みたいな体型。


 彼が何者なのか、というのは後回しにして、


「おれが『ゴング』って……?」


 気になることを質問。ゴングとは確か、『開戦』などの際に鳴る楽器(?)だと思ったが。

 熊男は柔らかかったその表情を、いきなり真剣なものへと変貌させる。


「お前さん、一番長く寝てただろう? だが作業場での一件の当事者だ。話し合いの場にはいてもらわなくちゃいけねぇってことになってな」


「もしや、おれが起きるのをみんな待ってたの……?」


「そういうことだ。こりゃナイトとドラクの提案だが」


 筋の通った提案だよな、と言いつつ熊男は、向こうでリーダーと対峙している二人の若者を見据えた。

 その目には、多少の哀愁が漂う。


「……あなたは誰?」


 聞いていたレイが、会話が止まったタイミングで熊男に問いを投げた。

 彼はレイの方を向いて「こりゃ失敬」と薄く微笑んでから、



「俺の名はリチャードソン・アルベルト。領域アルファ防衛軍の特殊部隊『P.I.G.E.O.N.S.』に所属してた」



 ホープは、息を呑む。

 問題は彼自身の名前ではない――彼が務めていた特殊部隊の名前に、聞き覚えがありすぎた。



「これからあのリーゼント男が何を言うかで、お前さんらの処遇は決まっちまう――許せ、ウチの隊長を」



 俯いてホープ、レイ、ジョンに忠告をする熊男――リチャードソンは、とても気まずそうだった。

 踏み出す彼は、行き掛けの駄賃とばかりにジルの肩を二度ほど軽く叩き、その会合の場へ歩みを進めていった。



◇ ◇ ◇



 一方、ナイトとドラクは気が気でなかった。


「見えてんだろ、あの青髪の小僧は起きていやがるが……おい? 俺らは、てめえらの言った通り黙っててやったぞ。五日だ……五日間もだ!!」


 リーゼントヘアの黒髪を揺らして、目の前のリーダーは木の幹を拳槌でぶん殴る。

 中年だが全身に鎧を着ているかのような筋肉質の体。ほぼ逆三角形な上半身から放たれた怒りの一撃は、相当な威力だろう。


「……悪かった。あんたにはすまねェことをしたと思ってる」


「あぁ、ホープのアホが起きなかったこの五日間のことも含めて、ナイトもオレも悪いと思ってんだ。だ、だからニック、痛くしないでね?」


 ナイトは軽く頭を下げ、ドラクもそれに習って頭を下げてから、軽口を放って下唇を噛む。

 真っ黒なサングラスで目線を隠す、仏頂面のリーゼント男――ニックは顎髭を弄り、


「痛くしねえかどうかは、てめえらの出方次第だな。自分らが何をやらかしたのか……わからねえわけじゃあるめえ」


 髭を弄り終えると同時に話も終わり、腕を組んだ仁王立ちの姿勢へと戻るニック。


 何をやらかしたのか。

 その再確認のためナイトが話そうとすると、ドラクに先を越された。


「ブロッグを……死なせちまった」


「バカ、おいドラク!」


 ナイトがドラクの腕を掴み、強く握る。自分が言ったことを守らなかったドラクを責めたのだ。

 だがもう遅いし、


「しかも、ドラク(てめえ)の独断でな」


 そもそもニックにはお見通しだ。


「色々と事情ァ話すから、待ってくれニック! ドラクだけが悪ィわけじゃ――」


「うるせえ!!」


「どぅあぁっ!!」


 止めようとするナイトを無視して、ニックの頑強なる腕と、岩のような拳から放たれる重い右ストレートが炸裂。

 横っ面に食らったドラクは、血を吐きながら本当の意味で吹っ飛ばされた。


 取り囲む群衆から悲鳴が上がる中、


「待てェ! ニック・スタムフォード――あんたがブロッグと同じ『P.I.G.E.O.N.S.』だったのは、知ってるっつってんだろォ!」


 痛みにもがき苦しんでいるドラクに更に近づこうとしたニックの前には、必死の形相をしたナイトが立ちはだかる。

 だが、ナイトの言葉を短くも吟味したニックは、



「アホンダラ!! ただのメンバーじゃねえぞ、俺は部隊の隊長だ。今と同じリーダーだった――それを忘れちゃいねえか!?」



 唾が飛ぶのも気にせず怒鳴り散らし、ニックは相手を威嚇するように首を傾ける。



「俺は『P.I.G.E.O.N.S.』の隊長で、てめえらのリーダーでもある。それを差し置いてブロッグを死なせやがったと……他にも問題は山積みだ。体罰以外で、どう落とし前つけるってんだ? 若僧ども」



 身の毛もよだつような黒い双眸が、サングラスの隙間からナイトとドラクを睨んだ。

 ニックの人も簡単に殺せそうな目力は、二人にとってこの世で最も恐ろしいものの一つかもしれない。















二章は新キャララッシュになると思います。

それと、今回を読んでくださった方は、次回を楽しみにしていてほしいです。

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