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ホープ・トゥ・コミット・スーサイド  作者: 通りすがりの医師
第二章 生存者グループへようこそ
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第60話 『バカな男たち』

※やぁ、間違えました。修正ばかりで申し訳ない。

レイの行動を描写するとき、「顔」のことは書いちゃいけないんですよね…

すみませんでした。修正したんですけど、レイは常に仮面を付けていると思っていてください。「顔」とか「表情」の描写が突然出たら、それはミスなんで。















 ナイトが歩き去った後も、ホープはしばらく下を向いて考えこんでいた。

 とはいえ、無意味なのだが。


「託されちゃったな……」


 ケビンから託されたのは『レイの全て』。

 彼女のメンタル、彼女の命、レイについて思いつくことは、全てがホープに託されてしまった。


 ――死にたがっているホープ・トーレスに。


「どうせなら、おれもっと冷たい人間に生まれたかったな……理に適ってないよ……」


「なにブツブツ言ってんの? ホープ」


「うぇっ!?」


 手で顔を覆っていたせいで、前から近づいてくるレイの姿に気づけなかった。不覚。

 ホープを見下ろすように立ったまま腰に手を当てた彼女は、


「……暗い顔したナイトとすれ違ったわよ。どんな話をしてたの? 気になる」


 いけない。

 ケビンはホープにのみ伝言を残した。レイに知られるわけにはいかないのだ。


 顔に巻かれた包帯を剥ぎ取りながら、頭を回転させるホープは、


「特に重要な話じゃないよ。ナイトが暗い顔してるのは、いつものことじゃん……おれの言えたことじゃないけど」


「まぁね。でも彼は大事な話ってことで、あたしとドラクを所払いしたのよ? 絶対に重要よね」


「う……いや真面目な彼にとって大事なだけだよ。っていうか『所払い』って何かおかしくないかなあ……?」


「そうかしら……」


 教えてくれたっていいのに、とでも言いたげな不満そうな態度ではあるがレイは追及を終えて、


「でもアレよね。ナイトっていつも暗い顔とか怖い顔してるけど、普通にイケメンよね」


「……あ、言われてみれば……本当だ」


 お互いに今さら気づいたことらしく、くすくす笑い合う。

 そんなレイに、ホープは気になるところが。


「……あのさ、ドラクはどこ行っちゃったの? 仲良く喋ってたと思ったけど」


「ええ。そうなのよ」


 ホープの質問に、レイは頷く。

 この質問はイエスかノーで答えられる類いのものではないはずなのだが。


 ――どうもレイの声色や仕草は、穏やかには感じられない。


「ドラクとは一緒に話してたんだけどね、ナイトがすれ違った瞬間に二人並んで行っちゃったの」


「二人……並んで……」


「深刻そうな顔で、ね」


「…………」


 ナイトの言っていた『荒れるぞ』という台詞が、ホープの脳裏をちらつく。

 どうやら、何か良からぬことが始まるようだ。



◇ ◇ ◇



 レイと二人。状況整理と心の整理のためにお喋りをしながら、ドラクとナイトの向かった方へ歩く。


 どうやらホープが寝ていたあの広場は、『キャンプ場』の外れなのだという。

 その『キャンプ場』周辺には、ドラクたちの仲間が大勢いる。待機しているというか、住んでいるというかで。


「それで、二人はキャンプ場の方向に歩いていったんだよね? レイ自身は行ったことないの?」


「彼らの輪に混ざるようなことはできなかった……けど覗きはしたわよ。テントがいくつかあって、リーゼントヘアの渋くてカッコいいおじさんが切り株に座ってたわ」


「リーゼント……?」


 ホープはその髪型の名前に、何だか妙な引っかかりを覚える。聞いたことがあるような。

 しかし、やはり五日間も寝続けてしまうと、寝入る直前のことなど全く思い出せないのが困りものである。


「――ほら、この先よ」


 ホープが顎に手を当てて思い出そうとしていると、レイは茂みをかき分けてホープに言葉をかけた。

 その先を見たホープは、


「本当だ。テントだらけ」


 色々なものを視界に入れ、まぁ一番印象的だと思ったものを感想として発する。

 たくさんのテント、焚き火の跡、掛けられた洗濯物、馬車――のようで違う四角い何か。

 少し離れた所で、人々が話し合いをしているのが見える。


 これが生存者たちの集う場所、ということだろうか。


「あれ? ホープさん! ほ、ホープさんじゃないですか、起きてらっしゃったんですね」


「君は……!」


 特に奇妙でもないはずなのに、珍しい世界観に見入っていたホープにかけられた声。

 振り返ってみると、それはそれは意外な人物だった。


「ジョン! 何でここに!?」


 黒髪に眼鏡、細身で異常に優しい青年――ジョンは作業場にてエドワードの部下として働いていたはずだった。

 生きていたのは純粋に嬉しいが。


「ホープさんずっと眠ってましたからね……し、知るはずもありませんよね。僕、作業場でジルさんを助けたんです。ぐ、偶然」


「すごい偶然だなあ……!?」


 ジョンがジルを助けたというのは、あの気絶していたジルのことだろうか。それともホープが『眼』を使い気絶した後の話なのか、定かでない。

 だが、どちらにせよホープは彼女が死んでいないと確信している。話を続けるのが先ということだ。


「それとホープさんと知り合いだったとか、い、色々重なってここに置いてもらうことになったんですよ」


「なるほど」


 ジョンの説明にホープが頷こうとしたその時、



「――ちょっと、待って」



 向こうで話し合いをしていた集団に入りきれていなかった一人の人物が、こちらの会話へ割り込んできた。

 それはダボダボのパーカーを着用し、珍しくフードを取っているため黒髪を風に揺らす少女。


「じ、じ、ジルさん!? か、かわいい……!」


「……? どうも」


「はっ初めて会話を! はぁんっ♡」


 突然、頬を赤く染め肩を抱いて、様子のおかしくなったジョンが言った通り。

 無表情でジト目でアンニュイな美少女、ジルだ。


「ホープ、おはよ」


「お、おはようジル。五日間も寝ちゃってたみたいで、みんなにも君にも悪いけど」


「悪くない。私だって、二日、起きなかった……らしい」


 ホープの謝罪を受け取らないジルは、頭に巻かれた一本の包帯――傷を軽く触りながら、自分も二日間寝ていたと告白。

 何かの拍子に頭を打ったのだろうが、調子としては以前顔を合わせた時と大差は無さそうだ。


 そういえば、


「面と向かって話すのは、ドラクと三人でフェンス越しに話したあの時以来……になるのか」


「ん、確かに。会うの、久々だね」


「通信ばかりだったしね」


「ん。でもホープ、前より明るい。前より、逞しい」


「えぇ? そうかなあ……?」


「私は、そう思う――あ、話が逸れた。本題」


 首を傾げるホープに有無を言わす前に、ジルがこちらの会話に参加した理由へと話を戻す。

 彼女は少し肩をすくめ、


「あなたたち、素直に、歓迎できるか……わからない。それ、ドラクと、ナイト次第」


 ホープ、レイ、ジョンと順番にジト目の視線を向けながら、ジルは言いづらそうに伝える。

 ホープとレイは黙って聞いていたが、ジョンは頭を抱えた。


「そ、そんなぁ! 吸血鬼の、あ、あの、ナイトさんでしたっけ? ナイトさんは、彼は許可してくれましたよジルさん!」


「ん。わかってる。でも今回のこと、そう上手く、いかない」


 話すうちにどんどん言いづらそうになっていくジル。


「何でですか!?」


 そんなジルの左手を、前のめりになるジョンが両手で握って叫ぶ。


「……頑固なリーダーと、まだ話、ついてない」


 騒がしく問い詰めるジョンに、ジルは冷静に(というか普段のノリで)答える。

 直後、ジョンに手を握られたまま後方を振り返り、右手でとある人物を指差した。


「話してる集団、の中心。リーゼント」


 それはレイも先程話していた人物だ。

 リーゼントヘアのシルエットを視界に捉えたホープは、問う。


「あの人が、君たちのグループのリーダー……ってこと?」


「ん」


 ホープの問いに、ジルが頷く。


 ――リーダーの目の前には、ドラクとナイトの姿がある。

 ドラクは遠目から見ても表情が強張っているのだが、ナイトは臆する様子も見せず立っている。


 が、ナイトの目がいつもと違う。


 明らかに、リーダーを見る目は『ただの仲間』へ向けるものではないのだ。

 敵ではないにしろ、友好的な関係でもないのだろう。


 ホープの両足は、自然に彼らの方へと進む。

 するとジルが肩を掴んできて、


「ホープ……あんまり、近づかない方が、いい。これ、男たちの問題」


「おれも一応男なんだけどなあ……?」


 無表情のジト目ながらも、彼女の心配げな内心が伝わってくる目線を受けたホープ。

 弱々しくツッコんでみたその結果は、


「……ごめん。語弊、あった」


 ジルは一瞬目を逸らし、そしてまたホープと目を合わす。



「これ、バカな男たち、の問題」



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