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ホープ・トゥ・コミット・スーサイド  作者: 通りすがりの医師
第二章 生存者グループへようこそ
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第58話 『起床直後の衝撃』

※すいません今まで「拳槌けんつい」のこと、「拳髄けんずい」だと思ってました。聞き間違いです。

鉄槌打ちとかやる時のアレです。握り拳の側面のところ、それを言いたかったんです。


見つけたら修正しておきます。













 ――何度目かわからないが、雑な包帯でぐるぐる巻きにされていたホープは目を開く。

 左目には眩い陽光が、右目には涼やかな影が注がれた。


「あれ……森の中?」


 完全なる無意識で――不可思議な言葉が口から紡がれる。


 目覚めるのが、檻の中の小汚くてカビ臭くてこれっぽっちもリラックスできないベッドの上じゃない。

 芝生に敷かれた薄い布の上で寝ていた。新鮮な気持ちだ。


 特に何も考えず周囲を見渡してみると、


「うらよっ!」


「オ"ォッ」


 共に戦った仲であるドラクが、木々の間を縫ってやってきたスケルトンを粉砕しているところで、


「ドラク」


「ん? ……おおホープ! ようやく起きたのかよ、心配したぜこの眠り姫モドキが」


「……眠り姫もどき?」


 振り返った彼の笑顔を見るに、どうやら『エドワーズ作業場』内での危機は脱したのだと察せた。

 相変わらずのドラクの意味不明な台詞にどこか安心感を覚えつつ、周囲の確認作業に戻った瞬間、


「うわ! レイずっと隣にいたの!?」


「…………」


 膝を抱えて丸くなり、木彫りの仮面に包まれた顔を伏せるレイがいた。ドラクと反対側だったので気づかなかったのだ。

 彼女は一向に何も言わない。


「…………」


「レイ? レ、レイ!?」


 心配になったホープがレイの肩を揺らしてやると、


「……はわっ? ……あ、ホープ……おはよう」


「寝てたんだ……」


 彼女は寝ぼけた声で返答してきたので、ホープは胸を撫で下ろしたい気分になった。要するにホッとした。

 そんなホープの後ろからドラクが近寄ってきて、


「な? お前が『眠り姫モドキ』なのは、レイっちこそが本物の『眠り姫』だからさ……もう十分すぎるくらい寝たはずなのに、時々こうやって居眠りすんだからよ。オレのキスで目ぇ覚まさせてやろうか」


「やめてちょうだいね?」


「ああ、眠り姫ってそういう……え? ドラク今何て言った? 『れいっち』? それもしかして……」


「もちろんレイちゃんのことだぜ。あだ名ってやつだ、あだ名。お前だって一個くらいあんだろ? 呼ばれたこと」


 流れるようにホープのプライベートな話にさせられたが、ホープはとりあえず考えてみる。自分があだ名で呼ばれた経験を。


「『悪魔』なら……」


「はいそれダメなやつでーす! オレがトイレ行くの多くて一回一回が長いダチに付けた『トイレマン』より重くてシリアスでダメなやつでーす!」


「自分で聞いたよね……? しかもトイレマンってもうイジメだよなあ……?」


「だから『悪魔』も大概だろっての」


 ホープが弱々しいツッコミを入れると、ドラクは頭の後ろで手を組んで逆にツッコんでくる。ホープの過去には欠片も触れたくないようだ。


 二人の――というよりホープの話を聞いていたレイは顔の俯き加減をさらに強めるのだが、それを隠して、


「あんたたち仲良しね。ドラク、ホープにも新しいあだ名を付けてあげたらどう?」


「ええ? ホープに? さすがのオレでも無理だぜレイっち、変な名前だからホープのままで充分キャラ立ってるって」


「あたしは良い名前だと思うけどなぁ」


 ホープの内心としては、今ドラクは遠回しに『レイという名前は特徴が無い』と言っていたような気がしたが、さすがにこれは考えすぎだろう。


 レイはホープの名前について、ドラクの評価に疑問を持ちつつも立ち上がる。



「レイ、どこか行くの? その前に聞かせてよ……()()ってどういう状況?」



 彼女がさっさと歩いて行ってしまいそうだったので、ホープは無理矢理にでも話を繋ぎ止めた。

 ホープが気絶している間、ドラクたちとこちらの関係とは、いったいどういう風に収拾がついたのか気になるところ。


 問われたレイは、


「ごめんなさい。あたしにもよくわかんないわ」


「え?」


「だってドラクやナイトがどんな事情を抱えてるのか、全くわかんないんだもん……誰に聞いても『話してる暇が無い』『余裕が無い』って教えてくれなくて!」


 仮面越しとはいえレイからキッと睨まれたドラクは、目を逸らして口笛を吹いている。

 そして話までも逸らして、


「レイっち! なーんか頼まれ事があるから席を外そうとしたんだろ? だったら早く行った方がいいぜ!」


 親指を立てて、歯を見せて笑うドラク。

 レイは呆れたように一つのため息をつき、彼の言う通り歩いていってしまう。


 ……するとすぐに戻ってきたのは二人で、


「とにかくホープは、この人と話して! これからどうなるかはわからないけど、一つ一つ解決していきましょ」


 手でとある人物を指し示すレイと、



「やっと起きたか、弱虫。待ちくたびれたぞ」



 レイに指し示された人物、それは充血した目でホープを睨むナイトの姿であった。


「な、何で君が……」


「おいおいナイト! ストレスはわかるけどさぁ、お前()()()()()でまさか一睡もしてねぇとかいう話じゃねぇだろうな!?」


「い、いっ、い!? 五日!?」


 ドラクはナイトに忠告しているだけなのだが、その台詞はホープに少なからずショックを与えた。

 今の口ぶりからするに、


「まさか、お、おれ……五日間、寝てたって……こと?」


「そうよ心配させないでよバカっ!」

「眠り姫のレイっちより寝てるって壊滅的だぞ!」

「言ってんだろ『待ちくたびれた』ってなァ!」


「す、すいません……」


 無自覚であった自分の睡眠期間について確認しようとしたら、まさかの総攻撃が返ってきてホープは焦る焦る。

 衝撃を受けたホープにレイが「でも気持ちはわかるわ」と話しかけてくる。


「あたしも丸三日寝てたらしいの。びっくりしちゃった。あんなこと言ってるドラクも丸二日寝てたんだって」


「作業場で起きたことは、本当に大変なことばかりだったけど……みんなここまで疲れてるなんて」


「ね」


「……ナイトも相当厳しい戦いをしたと思うけど、終わった後はどうなんだろう?」


「少なくとも寝てるとこは見てないわね……あの充血した目で、何となくわかっちゃうけど」


 レイはナイトへ心配げな視線を向ける。

 どちらも『鬼』だし、作業場では二人が接触している機会は多かった気がする。どこまで深い仲になったのかは知る由もないが。


 ホープとレイの小声の会話など、聞こえてないしお構いなしと言わんばかりにドラクはナイトへ視線を投げ、


「オレの質問どうなった!? 寝てねぇだろお前!」


「寝てねェ。これで満足か?」


「その逆だって話だろうがこの死にたがり吸血鬼! 吸血鬼だって年齢の価値観は人間と変わらねぇんだ、早死にするぞマジで!」


「死ぬ寸前まで抗ってりゃァ俺の人生はそれでいい……ドラク、仮面女、早くあっち行け。言ったろ? 大事な話だ」


 疲れ切っていてもなお鋭さを失わないナイトの眼光が、ドラクとレイを射抜く。

 促されるまま、二人はこの場から離れた。


 残されたのはホープとナイト二人きり。


 敷かれた布から上半身だけを起こした状態のホープは、隣にあぐらをかいたナイトの態度を訝しんでいた。


「……今さら、おれに何の用があるの? いい加減教えてほしいんだけど、これどういう状況?」


「てめェらをとりあえず保護する――仮面女とドラクの総意ってとこか。気ィ失ってたてめェの回復のためって、あいつらが頭回して出した答えだ。文句言うんじゃねェよ」


 この状況がホープにとって良いか悪いかは別とするが、どちらにせよ文句を言うつもりはない。

 レイやドラクがしてくれた善意を、踏みにじるのは良くないと思っているから。


 ただ気になるのは、


「……じゃあ君は納得してるの? おれとかレイのこと、あんなに拒絶してたのに」


「寝起きの野郎がァ、ごちゃごちゃうるせェんだよォ! 黙って俺の用事を済まさせろ……!」


 ホープが眉根を寄せると、次第にナイトの眉間にも皺が集中し始め、最後には彼が怒鳴り、ホープは口を噤むしかなくなるのだ。


 逆にナイトは牙を見せて話を続けるが、



「てめェのお仲間から預かった、伝言がある」


「……あれ?」



 ナイトの『用事』の内容、そして彼の、真剣ながらもどこか物悲しげな表情。

 ――作業場にはいたのに、ホープの起床後まだ顔を見せていない人物。


 ここまで不安材料が揃っていて、ホープが身構えないわけがなかった。



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