第52話 『遠い目』
――少し、腫れが引いてきたか。
何も見えなかったホープの視界に、徐々に光が、景色が戻りつつあるのだ。
倒れているドラクの横に同じように倒れているホープは、寝返りをうつように横を向く。
「ウゥ"」
「オ"オオォア」
エドワードの言った通りに、一体や五体なんてものじゃない量のスケルトンが、角を曲がって路地に侵入しつつあった。奴らの後ろにも更に大量に向かって来ているに違いない。
ホープやドラク、ジル。三人揃って動けないため、まぁ格好の餌食には違いない。
でもホープが見ていたのは、スケルトンではなかった。スケルトンたちの、そのもっと向こうに見えるもの。
「あ……」
本部の屋上――レイが振った杖に、呼応して輝くナイトの刀が、エドワードの首を正確に斬り飛ばした。
二人の息はピッタリ。実に高揚感を感じられる光景であり、
「すごいな……」
――地獄のように息の合わないホープとレイの組み合わせとは、真逆のコンビネーションだ。
そしてもう一つ。
ナイトくらい強ければ、どんなに選択肢が増えただろう。ホープは本気でそう思った。
嫉妬、かもしれない。それも様々な種類の。
自分も彼と同じくらいの強さを持っていたら、きっと死にたいと思うことは無かった。
そうでなくとも『痛みが恐ろしい』という弱さにも負けず、簡単に死ねたはずだ。
――スケルトンたちに追い詰められたというこの絶体絶命の状況を、乗り越えることもできたろう。
でも、
「遠い……!」
でも、彼の強さは遠すぎる。
遠すぎて、届くはずがない。実現するはずがない。夢のまた夢の、単なる夢物語でしかない。無理だ。
かけ離れすぎていて、参考にもならない。
「あーぁ……」
こんなにも『動いた』のに、もう何の気力も残っていない。
連日のように痛めつけられているのに、今日もかなり体を酷使している。右目だってまだ痺れのようなものを感じる。
スケルトンはそれでも迫る。
「痛くて……もう動きたくない……」
仮に横のドラクが起きていても、聞こえないくらいの大きさの声で呟く。
――愚痴くらい、言わせてほしい。
こんなに頑張ったつもりなのに、こんなに無惨な最期があっていいものか?
ホープが一番嫌がっていた、大量のスケルトンにちまちま食われて、ちまちま死んでいく最期だ。
「もう……終わりだ……」
ホープは目も顔も伏せた。
心も伏せた。
もうやめよう。
弱虫がこれ以上何をしても、無駄な抵抗だ……
「――――」
そんな時、ホープの目の前で、誰かが立ち上がった。




