第50話 『逃走と追跡』
どうでもいいけど、最初にいただいた評価が★1ってイメージ悪くないすか…笑
みんな読む前に評価pt気にするんでしょうか。
とりあえずナイトが良いキャラだと思ってもらえればいいな…
――ドンッという踏み込みの音。そして横一文字の剣閃を、ホープは路地の外に視認する。
焦った様子ながらもエドワードは巨体を身軽に前転させて、ナイトの斬撃を躱す。
「……クソ! 危ねぇな! 『騙したこと後悔させてやる』だぁ!? 本当はドラクくん監視してなかった話か!? バカなこと言うな、お前が勝手に騙されたんだろ吸血鬼! あばよ!」
素早く立ち上がるエドワードは、ナイトを煽りながらも逃走。もちろんスケルトンの来ない方向へ。
「逃がすかよ」
――ナイトはもう一度刀を振るがエドワードには届かず、遅れて地面を蹴って駆け出す。
エドワードを、地獄の果てまで追う所存だ。
「野郎どもぉぉぉ――!!」
それではエドワードの方は堪らないのだろう、彼は作業場全体に響くかと思うくらいの大声で部下たちを呼んだ。
するとすぐに数人が「へい!」と駆けつける。
「お前ら仕事だ、スケルトンの対応なんか後回しでいいから俺を守れぇ! あの吸血鬼を足止めしろ!」
「す、スケルトン後回しっすか……了解しました」
「殺しちまってもいいすか!?」
「バカが、お前らで殺せるわけねぇだろあんな化け物! だが勝手にしろぉ!」
叫びながら、エドワードは部下たちの間を縫うように走っていく。
気づけばナイトの前方は、10人以上もの敵が待ち構えているような状態。
「へへ、覚悟しろ吸血鬼ぃ!」
「よく笑ってられんな!? お前アレの強さ知らねぇだろ!」
三下たちの身構えは十人十色。
今日の大暴れを見ていたか――もしくはナイトがエドワード一味に初めて捕まった、あの日に居合わせたか。
あの日も容易く一人を刺し殺したり、怪力で手錠を破壊したりした。その光景を見た者もナイトを『化け物』と扱うはず。
――どちらにせよ、ナイトは『化け物』なのだが。
「らァ!!」
「やべぇ誰か助けぁぁぁぁ――」
「ぎゃぁぁぁ――」
先程エドワードが走り抜けたルートをそのままなぞり、ナイトは三下たちを吹き飛ばしながら駆け抜ける。
右へ、左へ。刀を振るうたびに命が失われていく――決してナイトにも心地の良いものではない。
だからこそ、視界に捉えたエドワードの背中を逃がさない。
「るァァァ――っ!」
「なっ」
大きく跳躍して、走るはずだった地面をショートカットするようにひとっ飛び。
エドワードの背中目掛けて刀を振るうと、
「ぎゃあっ!?」
なぜか、ナイトは突然現れた三下の体を斬っていた。斜めに切断された胴体の先に見えるのは、
「ヒュー、危ねぇとこだったなぁ」
「てめェ部下を……!」
汗を拭うような仕草をして、口笛を吹くエドワード――彼は自分の部下を盾として使ったのだ。
走り続けるエドワードはニタニタ笑い、
「俺はボスだぜぇ? 部下がボスのために体を張るのは当然ってもんだろぉ。それを直接教えてやってるだけだ、何がおかしい?」
エドワードから『何が?』と問われたナイトは走り続けながら、
「何もかもだ! 命は道具じゃねェ!」
今まさに道具のように使われた三下――刀に付いた彼の血を振り払い、ナイトは速度を上げていく。
それを見て目を見開くエドワードはさらに部下を掴んではナイトの方に無理やり突撃させる。
「じゃあよぉ、お前にとって『命』は何なんだぁ? 答えてみろよ死にたがりの吸血鬼ぃ!」
ギリギリで余裕を保っているのだろうか、エドワードのニタニタ顔が引きつってきた。
今度は『命って?』と問われたナイトは走ってきた三下を蹴り飛ばし、
「『自分で選択する権利』だ!」
再び跳躍し、相手を射程距離へと強引に入れさせるナイト。エドワードの近くに、もう部下はいない。
エドワードはついにマチェテを取り出し、
「ぬぅ!」
刀を受け止める。
が、人間の倍ほどの筋力を持つといわれる吸血鬼に力勝負で勝てるはずもなく、
「どあぁ!」
ナイトはエドワードのマチェテを弾き飛ばす。
正確には、勝てないと察知したエドワードが手の力を緩めたためすっぽ抜けた。
愛用品を失って完全に笑顔を消してしまったエドワードは踵を返し、何の余裕も見せず全速力で走る。
逃走に徹することにしたようだ。
「逃がさねェっての……!」
ナイトはさらにスピードを上げる。
別にずっと本気は出しているのだが、なぜかエドワードを追いかけているだけで沸々と怒りが込み上げてくるものだから、どんどん限界を超えられるようになるのだ。
「貸せ!」
エドワードは通りすがりの部下の手にあった斧を奪う。直後に後ろへ投げつける。
一気に間合いを詰めていたナイトは、
「うおォ!?」
体をのけぞらせ、回転する斧を躱す。
すぐ体勢を戻して怒りと勢いに任せて刀を振ると、
「おっと、残念!」
エドワードは剣でガードしてくる。
斧を投げた直後の一瞬で、今度は別の部下から剣を奪ったようだ。
「行け」
「へいっ!」
さらに後方からやって来た部下に支持を出し、突撃させる。その間にもエドワードは逃げて、『本部』の正面扉を開けて中へ。
「邪魔だァ!」
三下のナイフによる突きを回避して斬りつける。絶命した三下を一瞥することもなく、閉まった扉まで飛び、
「おらァァっ!」
斜めに二回斬って、扉を崩壊させた。
「逃げ回るだけなのに滅茶苦茶やりやがって、てめェの命でもって償いやがれ……!」
ここまでの道のりで散らした三下どもの命を省みて呟き、階段を駆け上がるエドワードを睨みつけるナイト。
彼に、後ろから近づく人影。
「――きゃあっ!?」
見もせずに一瞬でその人物の首元に刀の先端を突きつけると、聞き覚えのある女の声。
ナイトはすぐに刀を下ろす。
「あァ、てめェかよ紛らわしい。斬り殺すとこだった」
「怖いこと言わないでくれる!? っていうか一回こっち見てから攻撃しなさいよ! はぁーびっくりした……反省してよ?」
そこにいたのは、うろ覚えだが『レイ』とか呼ばれていた仮面を付けた少女。
彼女は、なぜあの青髪の弱虫と仲良くしているのか、理由がわからないくらい強気な女だ。
「この先にいるの? エドワード」
「いるな」
「あたしも行っていい?」
「……知らねェ、勝手にしろ」
こういう妙な質問にいちいち真剣になっていると、時間を食ってしまう。
余計な問答など不要だ。
「あ、そう? じゃあ行くわね」
するとレイは言われた通りに、さっさと歩き出すナイトに勝手についてきたのだった。




