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ホープ・トゥ・コミット・スーサイド  作者: 通りすがりの医師
第一章 地獄からの這い上がり方?
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第49話 『最高』



 唐突に現れ、エドワードの凶刃をゴーグルで受け止めるという荒技を披露したドラク。

 ほとんど命を捨てたような行いだ。


 そんな彼の所業にホープが驚いていると、


「受け取れホープ」


 と、ドラクは抱えていたジルを放り投げ、


「りゃあああ」


 すぐにトンカチを取り出してエドワードに突撃。力任せにトンカチを振るい、


「うぉぉ!?」


 エドワードは体をのけぞらしながらマチェテでガード。

 戦いに臨む気迫だけならば、今はドラクの勝ちだろう。だが体格でエドワードに敵うわけもなく防がれて、


「やったな、ガキぃ! お前ら三人まとめてブチ殺す!」


「ぐ……!」


 すぐに気迫を取り戻したエドワードも、率先してマチェテで攻撃を始める。

 一進一退、トンカチとマチェテが幾度となくぶつかり合う。


 気絶したらしいジルを受け止めたホープは、ドラクの勇姿に見惚れていた。

 口ばかり達者。ただそれだけの人物かと思っていた。


 ――ナイトとドラクは、第一印象の裏に隠しているものがあるのが共通点のようだ。偶然なのだろうか。


 感心していると、


「うがぁっ、クソぅ!」


 ドラクの顔を刃が掠めた。

 何とか避けて頬から血が噴き出した程度で済んだが、間一髪に違いはない。


「彼一人に任せちゃダメだ……!」


 ホープは両手で自分の頬を叩き、ジルを路地のもっと奥へと運んで壁に寄りかかるように座らせる。

 短剣を取り出し、今ちょうど背中を向けているエドワードを見る。


「こ……殺す気で!」


 音を出さないよう走り、そしてジャンプ。短剣を振り上げながらエドワードに迫るが、


「おぉっと危ねぇ」


「え!?」


 ドラクのトンカチを撥ね除けたエドワードが踵を返し、素早く刃を合わせてきた。

 横からのマチェテの圧力に勝てず、ホープは短剣ごと吹き飛ばされて壁に激突。


 もう動けないホープ。それを確認したエドワードがニタニタ笑いながら近寄ってくると、


「オレを忘れんな!」


「ぐぅ――ッ!?」


 背中に思いっきりぶち込まれた、トンカチの重い一撃。

 また白目を剥くエドワードだったが、


「クッソガキがぁぁぁ――!」


「ぶはっ!」


 ノールックで腕を後ろへ振り回し、空中にいるドラクの横っ面に拳が刺さる。


「殺して……やらぁ……まずはお前からだ……!」


 地面に着地後も目が回って自分の状況が理解できていないドラクに、エドワードが近寄る。

 ホープよりドラクの方が戦闘力が高いと認識したエドワードは、是が非でもドラクを始末しようと走る。


「やっ……」


 ぐらつく視界の中、ホープは手を伸ばす。

 どうにか立ち上がろうとしているドラクと、走るエドワードの間に、手を。


「やめろ!」


 ――その時、ホープの右目が赤く輝いた。


「ん……んん? うぅう……ッ!!?」


 伸ばした手がだらりと落ちれば、そこには走っているエドワードがいたから。

 エドワードは異常な感覚に足を止め、何かを確かめるかのように頭を抱えだす。


「あっ!? ぐああああぁぁぁっ! がぁああぁ、いっ、いであぁああああ! うぅ……ぐぅっがぁぁぁ!!」


 痛む頭を抱えて、エドワードは地面をのたうち回る。

 少し痛みが引いたかと思ったら、また次の波が来る。その繰り返しだった。


 ――魔眼について『人に使ってはならん』とホープはドルドから言われ、これまで守ってきた。

 今ホープが魔眼を使っているのは、完全なる無意識。ドラクを守るためなのか、つい出てしまっただけ。


「ぐああっぁぁぁぁ!」


「な、なんでエドワードが苦しんでる……?」


 だから今こうして魔眼を発動していても、本人はわかっていない。

 ――無意識下であっても力を制限し、エドワードの頭を吹き飛ばせないのは、本能が働いてしまった故だろうか。


 少なくともホープが『破壊の魔眼』の発動に気づくのは、


「あれ……? 痛い……? 痛い、痛い、いだだだ、だぁぁあぁぁああああ!?」


「ぐああああぁぁっ、ぐおぉ……う?」


 右目から流血が始まり、眼球を火で炙られたような熱が襲ってきてからだ。

 ホープは『痛み』が嫌なのに、ついに自分の体まで勝手にホープを痛めつけてくるようになった。


 右目を押さえるホープが苦悶に満ちた叫び声を上げる中、頭痛から解放されたエドワードが立ち上がり、


「……っくあ! お前らただの人間のはずだろ、こりゃいったい何なんだよぉぉ!!」


「おぉわっ」


 ドラクの服を掴んで、怒りのままに路地へと投げる。その際ホープにぶつかり、二人して無様に転がる。

 加えてドラクは壁に頭も打っていたようで、


「あぁ……く、あぁ……!」


 出血する頭を抱えて苦鳴を上げている――これ以上は、二人とも戦えないようであった。

 エドワードはふと横を見て、なぜかマチェテをしまう。


「お前ら、もう終わりだなぁ。ガフッ……すぐに大量のスケルトンがここへ来るぜ。三人揃って、奴らの餌になっちまうのさ」


 途中で血塊を口から吐き出しながらも、エドワードは何とか笑顔を保って話した。


「スケ……ル……トン……」


 奴らにちまちま食われるのだけはお断りだ。

 ホープは生き汚くもがくが、残念ながら腫れ上がった顔では何も見えず、何も掴めない。


 その横目にギリギリ映ったのは、


「――お、おい。エドワードさんよぉ」


 すっくと立ち上がった男。

 頭から流れた血によって、顔面が見るも無惨な状態になっているドラクだった。


「お前……よぉ……オレたち倒したからって……あ、安心してんじゃねぇぞコラ……オレ、オレだってなぁ……()()()がこっちに向かって来てんの……確認して、から……お前に挑んだんだぜ……?」


「あいつぅ?」


「……ナイト、だ……あの化け物みてぇな吸血鬼……だよ!! ここに来る……あいつは……必ず来るんだよ……!」


「っ!?」


 ドラクの言葉に、エドワードは息が詰まったように絶句。驚いたような、何かを恐れるような表情だ。


「エド、ワード……お前は、ナイトに斬り刻まれちまえ! このクソ野郎がぁ……っ!」


 中指まで立てて、ここぞとばかりにエドワードに口撃を仕掛けるドラク。

 彼を見たエドワードは真顔で「滑稽だ」と呟き、


「自分の体……見てみろよ、ドラクくぅん。ボロッボロだぜ……なのに、他人の強さでイキるってか? 滑稽なもんだよ……他人の力しか自慢にならねぇ! こりゃダッサくてしょうがねぇなぁ!」


 エドワードの言は確かに正しい。

 ドラク自身はエドワードに惨敗を喫したが、まるで勝ち誇ったかのように、ナイトのことを自慢げに話しているのだ。

 滑稽と言われれば滑稽だ。


 ――きっとドラクなら、いくらでも上手い返しを思いつくだろう。どんな格好いい反論でもできたろう。

 だが、彼が選んだのは。


「そうだな……オレは弱い。ただ調子に乗ってるだけの、いつまでもアホな子供さ……滑稽だろうな、わかるよ」


 納得、だった。

 ドラクはエドワードの言葉に納得した。


 ただ、やはりそれだけでは終わらない。



「でもな! ()()()から……作業場の中を、何日も覗いてたんだよ……お前の所業も知ってる……部下も殺しちまうだろ、お前」


「あぁ? それがどうし――」


「そんなお前じゃわかんねぇだろうけどなエドワード――自慢できる仲間がいるって、最高のことなんだぜ?」


「……!」



 言い切ったドラクは晴れやかな顔で、どさりと後ろへ倒れた。目を閉じてしまった。

 彼は死んでしまったのか、気を失ったのか。ホープには判断ができない。


「……はっ! 仲間がどうのとか……気色の悪ぃ、ゴホッ、お説教を聞いちまったな……ったく、どいつもこいつも――」


「見つけたぞ、てめェ」


「――あぁっ!?」


 倒れた少年を鼻で笑ったエドワードが横を向くと、そこには銀髪の吸血鬼が立っていた。

 血に濡れた刀をゆらゆら揺らして。



「俺を騙したこと、後悔させてやる……エドワードォ!」



 ――ナイトからドラクやホープが見えていないように、ホープからもナイトの姿が見えなかった。


 だがエドワードがこれまでに見たこともない、子犬のように怯えた表情をしているのははっきり見える。

 だからナイトの今の表情は、何となく察することができた。



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