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ホープ・トゥ・コミット・スーサイド  作者: 通りすがりの医師
第五章 吸血鬼の国
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第235話 『信念の決闘』



「「は!!?」」


 突然『破壊の魔眼』によって教会の屋根が爆ぜて、陽光が差し込んでくる。

 となると消し飛ばなかった部分も支えを失い、瓦礫となって降り注いでくるわけで。


 ナイトとしてはホープと話し合いたいことが山程あるのだが――


「「……!!」」


 サシャとナイトが瞬時に、かつ同時に動き出す。刀を抜き、頭上の瓦礫を排除するのだ。

 自身の危険が無くなると、



「……人間ッ!! 何ですかその能力! よくも神聖なる『教会』をッ!!」


「ホ、ホープてめェ急に何してんだァ!!?」



 この中で最弱のはずの一人の人間に、文句を飛ばしまくる。

 言われた側のホープは片方しか相手にしない。


「え? ナイトも教会が大事だったの?」


「い、いやァどうでもいいが……」


 ホープが間の抜けた質問をすると、二人分の頭上を守りつつナイトが間の抜けた返答。

 もちろん見物人はブチ切れる。



「どうでもいいとか言うなぁッ!!!」


「ぐへァ!?」



 瓦礫の合間を縫って飛び込んできたサシャの蹴りが、ナイトの腹にブチ込まれた。

 ギャグのようなやり取りに見えてしまうが、サシャは真剣だしナイトも激痛だ。


「ごぅっ……」


 結果として後ろのホープも巻き込まれ、崩れゆく教会の玄関から外へ弾き出される。

 勢いはかなり強いので、


「クソォ、落ちる!」


「そうだね」


「てめェ冷静すぎねェか!?」


 着地しないまま崖よりも外へ二人揃って投げ出され、落下していく――



◇ ◇ ◇



「うゥっ……!」


 空中でナイトは、サシャの追撃を警戒して刀を構えつつも、片手を下に向かって大きく広げる。

 同じく落下中のホープを抱き寄せ、


「おいてめェ、さっきの――」


「え!?」


「おい、さっきの話!!」


「えぇ!!?」


「さっきの!! 話ィィ!」


「あぁ」


 すごい勢いで落ちているので、耳に風の音ばかり大きく聞こえるのか、ホープは難聴だった。

 しかし何とか伝わるようなので限界まで近づき、


「本当なのかァ!?」


「嘘ついたって意味ないでしょ」


「俺のことォ! 嫌いじゃねェのかァ!?」


「嫌いな人のことを助けようなんて思わない」


 ナイトは自分でも子供っぽくて小っ恥ずかしい質問をしているのはわかっているが、ホープは真剣に答えてくれているようだ。

 核心に迫らなければならない。



「俺を守るってどういうつもりだ!? 弱い人間がァ!」


「…………」



 人間を貶したいわけではない。

 だが『人間が弱く』『吸血鬼が強い』ことは、誰に言っても頷かれる『事実』であり『常識』である。

 だからナイトは、ホープの発言がどこまで本気なのか確かめたかったのだが――


「え……そんなのは察してほしかったなあ?」


 ちょっと微笑んで馬鹿にするようなニュアンスで言った後、



「それぐらいの――対等なぐらいの覚悟で、()()()()って意味」


「ッ!!」


「もちろん力で君には敵わないし、君の戦闘を代わってあげることもできない……けど君に任せっきりなんて、やっぱりダメだよ」



 正直なところ――ナイトは、先程のホープの長い語り(スピーチ)に……少なからず感動していた。

 今また彼の本物の覚悟を聞いて、瞳が潤んでしまいそうになった。風が強いので誤魔化せたが。


「俺ァ……」


「ん?」


「…………」


 核心のことを聞けた今、ナイトは再び崖の方を見上げる。

 まだ彼女は来ないようだ。次のステップに進まなければ。



「俺ァ……これからどうすればいい」



 未来のこと、というよりは、今この場でどうやって立ち回るか、ということだ。

 ホープは首を横に振る。


「それはおれが教えることじゃないって。君が決めなきゃ」


「…………」


「君は……死にたいの?」


「ッ!」


 彼にはお見通しというわけか。


「言ったな……? 俺が、決めると……」


 ナイトの思い――団長を死なせてしまったのは紛れもなく真実だから、自分はサシャに斬り殺されるべきなのかもしれない。


 けれど――この状況でナイトが死んでしまったら、ホープにも、レイにも、セレスタイトにも危険が及んでしまう。

 極めつけに、


「サシャは……『敵』だよなァ?」


「…………」


 敵を倒すのは自分の仕事。

 この国とは、決別しなければならない。



「できれば死にたかァねェよ……『仲間』と認めてくれるてめェらがいる世界なら、尚更なァ。てめェらを殺させるわけにもいかねェし……」


「…………」


「俺ァ……サシャを倒すぞ。それで……てめェらと一緒にこの国を出ていく! 異論ねェな!?」


「無い」



 正真正銘ナイトが自分で考えた目標を、聞き届けたホープが了解してくれたのを見て、ナイトは刀を構える。

 岩壁に突き刺し、ピタリと落下が止まる。もちろんホープを片腕に抱いたまま。


「……無いし……死にたいと思ってる奴なんかおれ一人でいい」


「あァ?」


「…………」


 小声でホープが何か呟いたような気がしたが、よく聞こえなかった。

 そんな中、



「流石は『猛獣』――しぶとさだけは見上げたものです」


「来やがったな……」



 片翼を広げつつ、サシャが岩壁を駆けるように下ってきた。


「"血の線(レッド・ライン)"」


 サシャの刀身がスゥッと赤色に染まっていく。血液のエネルギーを纏わせる吸血鬼の真骨頂だ。


(こいつもオルガンティアと同じで――切り札に取っておかねェのか)


 そう考えたナイトだったが、彼女の纏わせるエネルギーは……


(……なんか地味だな)


 ヴィクターとは違っていきなり発動してきたが、オルガンティアともまた違うようで、派手なエフェクトは見当たらない。

 困惑しつつもナイトは壁から刀を抜き取ると、


「ッ!?」


「――"環状鋸(リング・ソー)"」


 迫ってくるサシャの赤い刀身の、その周囲に細く赤い『輪っか』が出現。

 それも、同じ大きさの輪が三つほど現れる。


 ナイトとしては警戒するものの、残念なことにアレが何なのかは理解できず、警戒することしかできない。

 落下を始めるナイトに、追ってくるサシャが刀を振るい、


「ッ」


 刃と刃がぶつかる。

 すると細い輪はナイトの刀をすり抜けて、ナイトの懐まで近づき、


「なっ……!?」


 高速回転、し始める。

 しかもいつの間にか変形していて、丸鋸の刃のようにギザギザになり――



「ぐああァァあッ!!」



 刀で斬られたわけではないのに、ナイトの腕が、胸が、ズタズタに抉られる。

 輪は少しだけナイトの体内まですり抜けて侵入してきていたので、内部から切り刻まれてしまった感覚だった。


「ナイト……!」


 心配するホープの声がすぐ近くで聞こえる。片手でホープを抱えているのでもう片手で刀を持っていたのだが、その腕が傷付けられてしまっては、


「痛かったですか? では落ちてください」


「ぐゥ……ッ」


 サシャの刀身の"血の線(レッド・ライン)"の力が一瞬だけ爆発的な威力になり、ナイトは簡単に押し負けて地上まで叩き落とされてしまった。

 ――ここはもう、山の麓。あっという間にデュラレギア鬼神国の最下層であった。


「……クソ……」


 いきなり中々の怪我をしてしまった。

 致命傷とはならないが結構な裂傷と出血があり、非常に幸先の悪いスタートなのは間違いない。


(サシャめ……あいつとは手合わせしたことも無かったが……こんなトリッキーな"血の線(レッド・ライン)"の使い方しやがるのか……!)


 ナイトの中でのイメージとしては、そんなに強くなさそう、という評だった。

 だがこの能力の使い方は、開始早々とはいえオルガンティアのように豪快で大雑把なものではなく、彼女らしいスマートさがある。


 やはり厄介な相手だった――オルガンティアよりも苦戦を強いられることになるだろう。


「……どわっ」


 何とか立ち上がって、落ちてきたホープを安全に受け止めた。


「と、途中で手を離すとは思わなかった……」


「悪ィ。俺なら耐えられるんだが、てめェは地面に叩きつけられたら死ぬんでな」


「そりゃそうだね」


 もしナイトが耐えられなかったらホープは叩きつけられて死んでいたわけなのだが、彼は怒っていないようでとりあえず良かった。

 ――遅れてサシャが軽やかに着地、



「『猛獣』がどのような覚悟を決めたのかはサッパリわかりませんが……私はとっくに決まっています。あなたとあなたの仲間を皆殺しにして、団長の無念を晴らします」


「……! カームのことは俺だって……だ、だが、それとこれとは話が別だァ! そんなに俺たちを殺してェなら……受けて立つのみだ!」



 ホープがサシャを睨みつける中、ナイトも刀の切っ先を彼女に向け、



「俺と戦え、サシャ!! 勝敗は、どっちかが死ぬことで決まる!! そうだろ!?」


「言われなくてもそのつもりです――!」



 二人が同時に踏み込み、同時に刀が、信念がぶつかり合う。

 離れて次の一撃も、ナイトはわざと真っ直ぐには斬り合わず、サシャの刀の軌道をホープから遠ざけるように刀を振るう。

 サシャもその流れに乗ってくれているのか、二人の剣戟は徐々にホープから離れた場所へと移っていった。


 サシャの刀はもう赤色ではなく、長期戦を予想してまだ温存しているようだった。


「やっぱり優等生だ、なァッ!!」


「っ」


 ナイトの豪快な刀を上手く受け続けていたサシャだが、今、上段を狙った大振りは受けずにサッと避ける。

 避けたついでに、


「ふッ!」


「ッ……」


 足元を狙って振ってくる一撃を、ナイトは間一髪でジャンプして躱す。

 空中でも二回の斬撃をギリギリ防御して、着地してからは危なげなく剣戟を続行。


 片翼を広げたサシャが瞬間移動のようなスピードを発揮すると、ナイトも地面を蹴って追いすがる。


「やあっ!! はああ!!」

「どォらァァあッ!!」


 霧もあってスラム街なのか人間の村なのか最早わからないが、瓦礫の中を突っ走りながらも刀を合わせていく二人。

 瓦礫が吹き飛び舞い上がるほどに、霧が晴れていくほどに、熾烈な高速の戦い。


「だァァ!」

「おぉっ!」


 『ガキン』と力強く刀をぶつけ、高速で移動しながらの鍔迫り合い。

 進行方向に家屋が建っていたが、


「「――ッ」」


 鍔迫り合う二本の刀がまるで一本の包丁のようになって、木造の家屋はパンのようにスライスされていく。

 端から端まで斬り裂くと、何事も無かったように合流する。二人にとっては障害物にもならないのだ。

 上下真っ二つになった家屋が背後で倒壊していても、お構いなしに続く攻防。



「うああああぁぁぁ――」

「りゃァあああァァ――」



 互いに絶え間なく切り傷を作り、あちこちから出血しながらも、二人は決して手を止めない。

 信念を相手に刻み続ける。負けられない。


「何だこれ……決着つくの……?」


 家がパンのように滑らかにスライスされたところを見て唖然とする、ホープの呟き。

 もちろん二人には届かない声だ。


 恨みの力で強くなったと思われるサシャと、罪悪感などなどで弱体化しているナイト。

 オルガンティアの時と同じ状況だが……またしても互角に見えてしまう。

 どちらかが競り勝つ時はやって来るのだろうか。



「ガルルルァァアアッ!!」

「グルルルルゥ!!」

「ガルルラオオオォォ!!」



 ――この国には、まだ他にも脅威があることをホープだけが覚えている。


 絶対に混沌(カオス)になる。

 あの二人の決闘は、残念ながら綺麗には進まないだろう……



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