第219話 『魔力』
「ありがとう」
「いいのいいの♡」
反則レベルで強いと判明したセレスタイトの手を取り、ホープは立ち上がる。
――今のお礼には、実はホープを助けてくれたことは大して含まれておらず、レイの命を助けてくれたことの感謝ばかりなのだが……セレスタイトが気づくわけもなく。
ただ、さすがのホープもここまですごい魔法を目の前で見せつけられて、多少の興奮はあった。
「魔法ってものがこんなに凄まじいなんて……」
「あらら、知らなかったの? でも、わたしは別に魔導鬼の中でもそんなに強い方ってわけじゃないと思うけどね」
「えっ」
セレスタイトは謙遜――しているようには見えなかった。素で言っているようだ。当たり前のことだろう、と。
二人の認識にここまで齟齬が生まれるのは、
「あたしのせいね……」
同じく師匠の強さをマジマジと見せつけられて、ガックリと肩を落とすレイ。
ホープや仲間たちにとって、魔導鬼についてのイメージはレイが基準になってしまっているのだ。身近な魔導鬼が彼女だけなので仕方無いのだが。
しかしホープは、
「待ってよレイ。魔法は上手くないかもしれないけど、君のその……『感知能力』? がこんなにすごいとは知らなかったよ」
「え?」
励ますという意図は無く、純粋に感心したことである。
「おれには霧の中の影しか見えないのに、レイはセレスタイトさんじゃないってすぐにわかってた。集合場所の時も……」
「そうよレイちゃん! 森でわたしが近づいた時、いち早く感じ取ってくれてた! 嬉しかったよぉ♡」
「そ、そんな……そうかしら……」
レイは珍しく照れている。褒められること自体が珍しいのかもしれないが。
セレスタイトは微笑みながらも真面目な表情になり、指を一本立てる。
「そう! 魔導鬼には、『魔力』を感知する能力もあるの! 感知の強さ、範囲なんかは、人それぞれってところだけどね!」
「あぁ……それも魔導鬼の基本――」
「ちょっとぉ!! わかりやすく落胆しないでくれる!? あたしだって同じ気持ちよ!」
レイだけの特殊能力ではないと知り、若干の落ち込みをホープは隠せなかった。
どうやらレイも基本技能だとは知らなかったらしく、ホープの頭に軽くチョップを入れる。そんなやり取りを眺めながらも、
「例えば――ホープくん、右目に何かあるでしょ」
「「ッ!?」」
バレた?
二人の背筋に寒気が走り、驚愕の目でセレスタイトを見る。
相変わらず微笑みながら、その青灰色の瞳で見つめてくる彼女は――
「えーっ! 身構えすぎぃ♡ そんな怖い目線向けられたら、わたし狂っちゃうかも♡」
「「…………」」
両腕で自分の体を抱きながら、くねくねと悶えるセレスタイト。
何となくだが、やはり彼女は大丈夫そうだ。色々な意味で。
「悪口じゃないけど、何だか禍々しいというか……おどろおどろしい? そんなものをホープくんの右目から感じるかな」
「うん。おれも同じ印象」
いい機会なので、セレスタイトに軽く『破壊の魔眼』の説明をする。
彼女は興味深そうに聞いてくれた。もちろん気味悪がったりはせず。ホープにとっても心地の良いことだった。
「そういえば」
説明を終え、ホープは思い出す。
「レイとの初対面の時……」
懐かしの洋館での戦い。シャワールームでお互いの秘密を明かした、あの時。
『魔眼かぁ……確かに今少しだけ魔力を感じた気がしたわね。本当に魔法ではないみたいだけど――すごく、惹かれる感じ……』
うっとりした目でレイが見つめてきた、そんな覚えがあった。
あの時は深く考えなかったが……
「やっぱりおれの右目には魔力が宿ってるのか。『魔眼』って名前は正解だったみたいだ」
「まさかホープが魔法使えるってことになるわけ……ないわよね?」
最初からレイは『魔法ではなさそう』と言っていたわけだが、その疑問がここに来て再燃してしまった。
セレスタイトの解答としては、
「んー、そうねぇ。実を言うとスケルトンからも微弱ながら魔力を感じるの」
「えっ!? スケルトンや……狂人から!?」
「ウソ……あたし全然わからなかったわ……」
「レイちゃんは普通の魔法だってまだ会得してないんだから、能力が発達してないだけだと思うよ♡ とにかくホープくんの目も然り『魔法から生まれた』とは限らないってこと。あまり気にする必要は無いんじゃない?」
『破壊の魔眼』の発動も魔法を使うのとは何かが違うような気がするし、どうにもスケルトンが魔法で動いている、とも思えない。
「そもそも『魔力』っていうのも目に見えないし、曖昧なものだしね……」
「わぁ良いコメント♡ わたしも同じ意見♡ 『魔法』と『魔力』には密接な繋がりはあるけれども、必ずしも関係してるわけじゃないってこと!」
どうやら魔導鬼にとっても『魔力とは曖昧なもの』という認識でOKらしい。
であればホープのような普通の人間からすれば『オカルト』『スピリチュアル』のような扱いをしてしまっても責められる筋合いが無いのだ。
何となく話が終わったような雰囲気が流れる中、レイが急いで挙手。
「し、師匠! それと関連してもう一個だけ聞きたいの!」
「ん?」
「あたしたちとの集合場所にいなかったけど――」
「あ! その言い訳がまだだったね!」
思い出したセレスタイトも焦った様子で説明を始める。
「集合場所にはちゃんと行ったの。少し遅れたんだけどね。でも一向に誰も来ないから、レイちゃんの魔力を感知して探そうかと思ったのよ――」
「傭兵の時か……」
まだ説明してる途中、ホープは聞こえない程度にボソッと呟く。あの戦闘とタイミングが被ってしまったらしい。間接的にホープのせいではないか。
隣のレイには聞こえていて、軽く頷くだけしてくれた。
セレスタイトは難しそうな顔をして、
「探そうとしたんだけど――森の中を『巨大な魔力の塊』みたいなのが駆け回ってるようで……レイちゃんのを見つけられなくって」
「それ、あたしも思ったの! そういうのを感じた気がしたのよ! 気のせいかと……」
結局のところレイが聞きたかったのはその部分だったようで、魔導鬼特有の疑問や不安を払拭できたようだ。
が、聞いているだけのホープからすると恐ろしい。
このバーク大森林を、いったいどんな化け物が走り回っていると言うのか。
突然変異の熊でも最悪だったのに、今度は魔力を纏っている生物なんて。勘弁してほしい。
そんな時、
「おい! てめェら、無事か!」
霧の中から襲うスケルトンを斬りつけながら、ナイトが合流してくる。
声を頼りにこちらを見つけたようだが、
「あっ、ホープ……!」
「ホープくん!?」
一人、ブチ切れた顔で近づいていく男。
「は――?」
ホープはナイトの胸ぐらを掴むと、彼の体を建物の壁に叩きつけた。




