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ホープ・トゥ・コミット・スーサイド  作者: 通りすがりの医師
第五章 吸血鬼の国
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第216話 『会ってほしい〝ひと〟』



 ナイトが振り上げた右足が、稲妻のように大地へと落ちる。

 逃げ遅れた五人の傭兵たちは、遮蔽物の無い道の真ん中で――


「……!!」

「うおっ……!?」


 ただの踏み込みで、地震の如く揺れる地面。

 立っていることさえ難儀する激しい揺れに、全員が狼狽えることになった。

 そこへ、


「ぐ……オ、オーティス、気をつけろ!」

「は!?」


 仲間の警告を聞き返す余裕など、許されるわけがなく。

 オーティスの目の前、一瞬にして銀髪の吸血鬼が間合いを詰めてきた。踏みしめた地面を蹴ってひとっ飛びである。


 ナイトがオーティスの腹に拳を打ち込むと、


「がぇっ」


 腹から全身へと衝撃が駆け抜け、顔面まで伝わり、オーティスの歯茎が飛び出して歯が抜けまくり、両目はデメキンのように飛び出した。血涙を流しながら。

 ナイトはそのまま『ほぼ死体』を掴み、


「オーティス!」

「らッ!!」

「……って、あぁ!?」


 未だ足元がおぼつかないながらもナイフや鎌を投げてくる傭兵たちに対し、オーティスの体で防御。

 傭兵たちは投げた武器が仲間に命中したことに気づき、驚愕しドン引きしている。


 さらにナイトは『かなり死体』を空中へ高く投げ、自分も追随するようにジャンプ。


「――ッ!!」


 抜刀して『死体』を斬り刻み、まるで爆弾が爆発するように多量の鮮血が散る。

 それを被った血塗れのナイトが落下の勢いで、


「ぬ……ぐあぁっ!!」


 反応の遅れた女傭兵ウェンディを、正面から袈裟斬りにする。


「あの野郎!!」


 ようやく足元が安定したワシントンが、一気に二人も仲間を殺されたことに怒り、鎌を投げる。

 ナイトは瞬間移動のようなスピードで軽く躱し、しかもワシントンの背後を取った。


「のぁ!?」


 横斬りをワシントンにギリギリで躱されるが、追撃など容易い。

 と思っているともう一人のリチャードが駆け寄ってくる。


「離れろ吸血鬼ぃ!」

「っ」

「……あぐ……?」


 リチャードの振るう鎌はナイトに簡単に弾かれ、逆に下腹部を水平に斬られて内臓が飛び出そうになる。

 しかしまだリチャードは汗だくの顔で踏ん張り、戦意も失っていないようだ。


 ここでナイトは気づく。

 一人足りない。


「レイ! 気ィつけろォ!」


 叫んだものの、既に――レイは傭兵ブラッドと対峙していた。

 こいつらは人間にしては弱くない。片方が手負いとはいえ、正面からの二対一ではナイトもすぐに終わらせられない。

 というか逆にこの二人から目を離すと、レイに武器を投げる可能性が高い。


 彼女は一人で大丈夫だろうか。

 そんなナイトの不安は……


「おい、女! お前が例の魔導鬼だよな? 仲間のサポートしかできないと聞いたぞ、弱そうだなぁ!」


「ふぅーん……情報が古いわね」


「こっちは殺されまくってんだ、そっちも死んでもらわなきゃ釣り合わねぇぞ! 知ってるぜ、杖が無きゃ魔法も使えないんだろ!?」


 駆け出し、短剣を振るうブラッド。その刃をレイは杖で受け流し、


「たぁっ!」

「目眩ましかぁ? そんなもんで俺が――」


 上向きに投げられた砂たちが白い輝きを纏い、ブラッドの胸から顎にかけて掘削する。

 ブラッドは困惑し声も出せないまま、倒れてしまった。


「すげェな、おい」

「ぐはっ……」


 すっかり強者の仲間入りしているレイの魔法を見て、ナイトは感心しながらリチャードを斬り殺す。

 最後に残ったワシントンは片足を切断され、転倒させられた。


「あああぁ! クソが!!」


「悪ィな。すぐ斬ってやる」


 悶絶するワシントンに罪悪感を抱きつつも、ナイトはゆっくりと近づいていく。

 が、


「な、何か、何か忘れちゃいねぇか!? お前ら!」


「あ?」


「ホープだよホープ!! ……ど、どうせなぁ、あいつはターナーに負けてるよ!」


「……!」


 ワシントンは最後の最後で、言語という武器を使ってきたのだ。


「奴は右目以外はどうでもいい……今頃は四肢をもぎ取られ、左目を潰され、本当に右目以外どこも使えない人形になってるさ! そんな能無しをお前ら、まだ仲間として受け入れられるのか!?」


「んなクソみてェな質問されても困るなァ」


「がっ」


 さんざん能書きを言ったワシントンは、喉を斬り裂かれて絶命した。

 何の感情も抱かなかったかと思われたナイトだったが、焦ったようにレイを見る。



「……こいつらァ戦闘のプロ集団だ。相手が俺だから良かったが、ホープがやべェぞ!」


「あ、あんたがそう思うんなら本当じゃない! 早く助けに行かなきゃっ!」



 二人して焦っているところ、近くの茂みが揺れる音がした。

 警戒心MAXで茂みを見やる二人。


 現れたのは――



「「え?」」



 『十三人の傭兵団』リーダーである、ターナー……の生首を持ったホープだった。


「て、てめェ……」


「その反応は? おれに死んでいてほしかったの?」


「なわけないでしょバカ! あたしたちは心配してたのよ!」


「負けない、って言ったはずだ」


 どんな手を使って、タイマンで戦闘のプロを殺すことができたのか?

 言葉にしないながらもレイやナイトが疑問を抱いたであろうことはホープにもわかっていたが、敢えて手の内は明かさない。


 ターナーの生首を転がし、蹴り飛ばした。



◇ ◇ ◇



 こんなに当たり前のように謎の集団に襲われてしまうと、他の仲間たちも心配になるところだが、


「……早いとこデュラレギア鬼神国に行こう」


「おいホープゥ……約束を忘れてねェよな? 何もかもを破壊するってのァ……その場しのぎの戯言じゃねェな……?」


「…………」


 ようやく本題に入れる。

 ナイトの質問には答えないでおいたが、さっさと吸血鬼の国に行ってしまおう。

 仲間たちと合流して安否確認するのはその後だ。


「待って待って、あたしとの約束は!?」


「え?」


「『え?』じゃないわよ! 会ってほしい人がいるって、口が酸っぱくなるぐらい言ってるのに!」


「あぁ、その話……でも誰もいないからどうしようもないよね」


 話自体は覚えていないわけではなかったが、その人物というのが一向に姿を現さないのだから、ホープは責められる筋合いが無いと思う。

 だが、どうやら話の流れが変わるようで。


「うぅん……何となく、なんだけど……近くに来てる気がするのよね」


「あァ? そんな山勘がアテになんのか?」


「――――なるよっっ!!!!」


 最後の声は、三人の内の誰でもなかった。

 木陰から登場したのは女性だ。とんがり帽子に、足元まで伸びるローブ。顔は影になっていて見えないが服装的には、


「魔女……?」


 魔女。魔法使い。

 ホープは、そんなイメージがピッタリだと感じた。

 どうして顔が隠れたままなのか? 俯いているから帽子で見えないのだが、大きな声まで出しておいて顔を隠すのは変だ。


 その疑問は一瞬で解消される。

 彼女が顔を上げる、そんな一瞬だけで。


「ま、まどう……っ!!?」


 驚いて目を見開くホープが呟いている途中、体が温かく柔らかなものに包まれる。

 それはナイトも同じで、



「君たち既に、だ〜〜〜いすきっ♡♡♡」


「「!?」」



 ものすごい速さで女性が走ってきて、ホープとナイトを抱きしめて、その上で愛の告白のようなものまで食らってしまった。

 何が起こっている??


「あ、あなたは……」

()()()、だよなァ?」


 彼女が顔を上げると、その肌は赤かった。

 二人ともその認識である。見間違いではない、年齢は差がありそうだがレイと同じ種族だ。


「うん! うん! 当たり!! 青髪の君がホープくんで、銀髪の君がナイトくんね!」


「おれたちを知って……?」


「もっちろ〜〜ん♡ レイちゃんからたっぷり聞いたものぉ♡ 強くて優しくてカッコいい、人間や他の種族の仲間たちがいるってね!!」


「う、うああ!? ()()! あんまり本人たちの前で言わないでよ!」


「師匠だァ……?」


 雷のように怒涛の勢いで抱擁と情報が駆け巡っており、脳の処理が追いつかないホープとナイトだが、魔導鬼の女性は距離を取る。



「というわけで!! わたしの名前はセレスタイト!! 君たちが行く……『デュラレギア鬼神国?』に、わたしも連れてって♡」


「「……!?」」


「それからそれから! ぜひぜひ! わたしを仲間に入れてね♡♡♡」


「「えっ!?」」



 歳上の女性なのに笑顔で元気な魔導鬼――セレスタイトは、衝撃発言が止まらない。

 とりあえず吸血鬼の国の訪問客は、また一人増えることになりそうだった。










ホープがどうやって勝ったのかは、次の章で明かされるはずです。予想できなくもないと思いますが…。

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