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ホープ・トゥ・コミット・スーサイド  作者: 通りすがりの医師
第五章 吸血鬼の国
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第215話 『徳を以て怨みに報ゆ』



 『十三人の傭兵団』の一員、バッカスという男は、バーク大森林の小道で獲物を見つける。


 水色の髪をした、なかなか綺麗な顔をした黒人女性である。白っぽいロングスカートがよく似合う。


(これまた弱そうな女だ……)


 常に困り眉で、自信の無さそうな表情。

 そんな女に、バッカスはにこやかに話しかける。


「どうもお嬢さん」


「あっ……あっ、えっ、あっ」


「探してるんだよ、ホープ・トーレスという名前の……青髪で『赤い目』を持つガキを。知ってるか?」


 見た目通り、彼女(ドミニク)は話しかけられた瞬間から背筋を丸めてオドオドしまくっている。


「あっ…………」


「ん?」


「ああっ、えっと……えっとっ」


 ホープの名前を聞き、ドミニクは一瞬だけ黙って目を泳がせてしまった。

 バッカスにとっては、


(やっぱりな。知ってる反応だ……)


 他の傭兵からの情報で、この付近一帯にはホープの仲間が移動していることが多い。

 彼女も関係者なのではないかと当たりをつけていたのだ。


(関係者は殺せとの契約)


 さっさと済ませよう。

 バッカスは右手でドミニクの顔面にパンチを入れる。どうせ死ぬのだし、女だからって手加減をする義理もない。


 さて、今ので彼女は倒れて――


「!?」


 倒れてない。それどころか怪我をしてるようにも見えない。

 どうなっている? バッカスは全力で殴ったはずだが。


「っ」


 ()()()だ。今この瞬間、何らかの奇跡が起きたのだろう。

 バッカスは左手にナイフを持って、ドミニクを斬りつけてやろうと――


「ごめんなさいっ」


 腕で払いのけられると、自然と左手から離れたナイフが飛んでいく。

 え??



「えっと……すみません、今の暴力を私が許せば……私たちって、まだお友達になれます……よね?」


「は……?」


「あ、あのっ握手しましょう、ほら、手を出して」



 困惑する。

 今の暴力――というのは、最初にバッカスが殴ったことだろう。

 流れでドミニクはバッカスの右手を持って、強制的に握手の状態にされた。


 その一連の流れの中で、気づいたことがある。



(あれ……さっき払われたので……左の手首、折れてんじゃねぇか?)



 握手してる右手はいいが、ドミニクが無視した自身の左手を見る。

 ブランブランだ。まるで骨が繋がっていないように――



「ごめんなさいっ」



 ドミニクが俯き、謝罪する。

 その瞬間『バキバキッ』と音がした。万力のような握力がバッカスの右手を押し潰す。


「ッ!? ぐあっ……!!」


 骨まで砕かれた右手を抱えながら、痛みに膝をつくしかない。


(こいつ……!?)


 頭が混乱している中、


「ごめんなさいっ」


 変わらず申し訳無さそうに言ってくるドミニクに対し、セリフだけで戦慄してしまうバッカス。

 だが、


「ちょっ」


 今度は、飛んでくるのは言葉だけでは済まなかった。

 恐らく顔面にパンチされた。恐らく、というのは、まるで鉄の塊がぶつかってきたような衝撃だったからだ。

 殴られたバッカスは吹っ飛びながら空中で何度か回転し、脳天で地面を抉ったりしながら転がっていく。


 ほとんどKO状態だが、まだ動ける。


 まだ――


「おい……てめ……」


 震える手のひらをドミニクに向ける。

 彼女はそれを無視して猛然と近寄ってきて、バッカスを押し倒して馬乗りになった。


「ごめんなさい……!」


 殴る。

 殴る。殴る。ドミニクは、抵抗する力も無いバッカスに、拳を振り下ろし続けた。



「ごめんなさいごめんなさいっ……」



 謝りながら。泣きながら。

 ――殴り殺した。



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