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ホープ・トゥ・コミット・スーサイド  作者: 通りすがりの医師
第五章 吸血鬼の国
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第213話 『せんせー』

今さら普通の人間どもが相手じゃ物足りないだろ!と思う人も…いるかもしれませんよね。

今回最後にスゴイのが出ます。この章は、この作品の「リアル」と「ファンタジー」の境界が大きく揺れる章になる、と想定してます。













「俺の夢は、な――――」



 運転席で突然そんな話をし始めるニック・スタムフォードに、後部座席の二人は首を傾げる。


「ちょ、ちょっと待てよニック。夢? 急にフーゼスみたいなこと言い出しやがって」


「…………」


 片方のリチャードソンは、半分冗談ぐらいに思っているようで小馬鹿にしている。

 もう片方に座るコールは、優しき犬の獣人フーゼスのことを思い出す。確か彼は『世界の果て』を見たいとか、夢を語っていたような。


 ニックは構わずに続けた。



「スケルトンどもを滅ぼして――世界を再生してえと思ってる」


「「……!」」


「元通りの世界を、と言いてえところだが、元通りじゃあいけねえな。せっかくなら貧富や種族の格差が無え、クリーンな世界がいい」



 そこまで話すと、どうやらもう話すことが尽きたらしく彼は黙った。

 リチャードソンの反応はというと、


「……ぶわぁっはっはっは!! お前さんが? 『クリーンな世界』だぁ!? ぶわっはっは! お前さんが世界を作り直したら、『血飛沫と暴力の世界』になるのがオチだぜぃ!!」


 美しい世界などニックに作れるものか、と笑い飛ばした。言われた方は「んん? 今よりマシだろ」と上機嫌に返しているが。

 いつでも仏頂面のニックだが――本当は茶目っ気もある。ノリが良いところもある。最近そんな男に戻りつつあるのだ。


 ――ここは走行中の車の中。

 だがキャンピングカーではない。物資調達の道すがら、幸運にも使える状態でキーが差しっぱなしの乗用車を見つけたのだ。

 いつもコールに運転ばかりさせているということで、ニック運転で気ままに進んでいる。


「……そもそも、これまでも少しずつではあるが調査してきただろ。スケルトンパニックの原因」


「ああ」


「その夢はお前さんだけのものじゃないぞ。みんなが願ってることだ。世界中のな」


「ああ、そうだ。だが多くの者にはそれを実行する力が無え。違うか?」


「ま、まぁ……」


「俺は――俺たちは、違う。力がある。その力は日々増していく……これは俺たちがやらなきゃいけねえ『任務』かもしれねえぞ」


「…………」


 どういう気持ちなのか、無表情のリチャードソンはコクコク頷きながら黙り込んでいる。


「リーダーさーん、気合い入ってんねー……」


 ここでコールが当たり障りのない合いの手を入れてみる。

 元気を出そうとしたのだが、やっぱり上手くいかずドンヨリとした雰囲気に。


「……コール、最近お前さんは逆に元気無さすぎだぞ。ドラクとの一件からか?」


「へっ……ずいぶんと直球で聞くじゃんねー……」


 そうは言うがリチャードソンもかなり聞きづらそうだった。できればそっとしておきたかったのかもしれないが、そろそろ見兼ねたのだろう。


「いや俺だって適切に言葉を選びたいさ。だが、まさかお前さんがこんなに落ち込む日が来るとは……」


「『まさか』……ってのはー?」


「若ぇのに、いつでも精神が安定しててすげぇと思ってたんでな」


「なーるほど……アタシも自分のこと、そっち系だと思ってたけどなぁー……」


 完璧な人間などいない。

 どんなに頼れる人であっても、いつまでも壊れない保証などどこにも無いのだ。


 今のコールは後部座席のシートに、深すぎるほど深く座っている。座っているというか、もはやシートに乗っているのは後頭部と背中のみ。

 珍しくホットパンツを着用し、露出される長い足が、運転席後ろから天井までだらりと伸びている非常にダラケた体勢である。


 が、ニックの意見は違った。


「リチャードソン、気づかねえか? コールの様子がどことなく変わってるのに」


「は? いやいや目のクマなんてすげぇし――」


「そうじゃねえが何かが違う。てめえ自身はどう思う、コール?」


 運転していて後ろなど振り向かないニックだが、何となく温かみを含んだ声色。

 コールは微笑む。



「実は()()()()から教わったことがあってさー。まだ答えは出てないけど、考えてんだー」


「……先生? お前さんが『先生』だなんて、誰なんだそいつは?」



 『あの日』から、言われたことをずっと考えている――



◇ ◇ ◇



 ――――薄暗いながらも心地のいい日差しが入ってくる、キャンピングカー。

 少し酒の匂いが漂う中、コールはいつものように運転席にだらりと座っていた。


 だが以前と違うのは、眠れないこと。


 昼間、こうして日差しの中で浅い眠りをするのが日課だった。

 どういうわけか、それが不可能になってしまったのだ。


 原因だけはわかる。


 ――カーラが殺された。

 ――ドラクがスケルトンに噛まれ、泣き叫ぶドラクが抵抗できないように押さえつけ、目の前でホープに腕を切断させた。


 絶対にこれらが原因だろう。

 だが……わからない。これらはコールの『心』に影響を与えるが、睡眠とは無関係ではないのか。


 『心の問題』とは、下手をすると『怪我』や『肉体労働』よりも人体を破壊してくる要因になり得るのか。

 円形に髪が抜けるだとか、胃に穴が空くとか、聞いたことはあるものの……



「コールさん」


「っ!? ま、まだ……いたのかー……」



 みんな車から出て行ったとばかり思い込んでいたコールは、背後からの声にビクリと体を震わせてしまった。

 ホープ・トーレス……彼はずっと座っていたのだ。まるで幽霊のように気配を感じられず、少し恐ろしかった。


 ――メロンに酒を飲まされて、顔が赤くなったホープは机に突っ伏していた。

 レイが外に出る時に連れて行ったと思ったが、


「何で……まだ……ここにいるのー……?」


「コールさん、聞きたいんだけど」


「え……」


 どうやら彼はコールに用があったらしい。振り返って、少年の顔を見てみる。



(……んな、恐い顔……すんなよ……)



 ホープの目が真剣で、眉間にも皺が寄っていて。声も、いつものような優しい声とは違った。

 酔っている? いや、違う。彼は先ほどトイレに行って、そこでアルコールがすっかり分解されたとのことだった。


「……どうして、ドラクと別れたの?」


「……!」


 コールはすぐには答えられなかった。なぜか。それは絶対にホープの予想する答えと一致しているからだ。となると、ホープは……


「……気まずいから?」


「っ……」


「ドラクが片腕を失くしたのを自分のせいだと思って、気まずいから……なんだね?」


「…………」


 何も言えない。

 だって、こんな流れだ。ホープはコールを責めるに決まっているではないか。


 恐ろしい。こんな精神状態で、こんな何を考えているわからない恐ろしい少年に責められてしまったら、コールは発狂してしまいそうだった。

 でも、それでも、コールは弱く頷いた。



「……あぁ、おれ、酔ってるな。うん、おれは酔ってるみたいだ」


「っ!?」



 首を傾けて骨の音をバキボキと鳴らしながら、ホープは意味不明なことを言う。

 どこからどう見ても酔ってはいない。具合は良くなさそうだが。

 ――ますます恐ろしい。


「おれもさ……おれも、グループに加入してからの態度が悪すぎて、ドラクが死の間際に『嫌われてると思った』って言ってきた」


「っ……!」


「誤解は解けたとは思うけど……ドラクに気を使わせてばっかりのおれには本来、他人(ひと)のことをどうこう言う資格は無い……」


「…………」


「でもごめんコールさん。今おれは酔ってるから、自分のことを棚に上げて、第三者としての意見を言わせてもらうよ」


「っ!?」


 何とか逃げられるかと思っていたコールだが、まさかの酒のせいにしてホープは説教を続行してくるらしい。


「おれはもう何してもクズだけど、あなたは違うから、伝えなきゃならない」


「っ……」


 悲しすぎる台詞をあっけらかんと言い放つものだから、ホープはやはり底知れない人物だ。

 第三者の口出しは基本的にウザったいケースが多いが、相手はホープ。逆に第三者だからこそできる助言もある――コールは覚悟を決めた。



「あの……腕切ったの、おれだよ?」


「っ!!!」



 なけなしの覚悟は、初手でぶっ壊される。

 もちろんわかっていた。コールは直接手を下していない。実行したのはホープだ。


「わ、わかってる!! わかってるよー!! アンタの方が心を病んで当然でー、アタシなんかただ押さえてただけで……っ」


「…………」


「でも、でも、でもね? アタシはさぁー!? ドラクが本当に好きだったから、大好きだったから、もう、そのー……おかしくなっちゃって……自分でも知らなかったけどアタシ、メンタル弱かったみたいでー……」


「…………」


「ごめん! ホープよりも不幸ヅラしちゃってるよね……でも、どーしたらいいかアタシは……」


 頭を掻き毟って、白い髪をグチャグチャにしながら、コールは涙目で弁明しようとする。

 なんと愚か。なんと醜い。自分で自分が恥ずかしい。ホープにこんな姿を見せることになるなんて。


 だが、


「ちょっと待って。違うな……おれは『どっちが不幸か』なんて話はしてない」


「へ……?」


「何で腕を切ったわけでもないあなたが責任を感じて、ドラクと気まずくなっちゃってるのかがわからなくて。それを聞きたかったんだ」


「あ……あー……」


 勘違い。この状況こそが本当の『気まずい』『恥ずかしい』ではないか。

 ホープは天を仰ぎながら、


「すごいよ……ドラクは。腕を切ったおれに対して『ありがとう』って、『隻腕キャラはカッコいい』って……気まずさを感じさせないように言ってくれるんだ」


「……!!」


「だからおれも、なるべく明るく振る舞おうと思ってる。被害者であるドラクが明るくしてくれるんだから、加害者が励まされる立場じゃいけない――『筋が通らない』って思うから」


 何となくホープの話したいことの趣旨がわかってきたところで、


「何でコールさんは責任を感じてるの?」


 再び問われた『これ』こそが、ホープが真に話し合いたい内容なのだ。

 コールは俯き気味に逡巡しつつも、


「だってドラクは……アタシを庇ってスケルトンに噛まれた……」


「やっぱりそういうことか……」


 ドラクの腕を切らなきゃいけなくなったのは、スケルトンのせい。

 ではスケルトンに噛まれたのは誰のせいか、そうなった時、コールは当然に自分を責めた。

 しかし、



「――あなたが自分を責めてるから、腕を失ったドラクが逆に気を使ってるんだよ?」


「っ!? 何でそんなことわかって……」


「ものすごく気を使ってなきゃ、ドラクがあなたと別れるわけがない。疎遠になるわけがない」


「は……? そ、そんなのわからな……」


「あなたに気を使わせないようにと、ドラクだったら以前よりも喋りまくるはずだ。あなたを掴んで離さないはずだ。なのに……あなたがあまりにも落ち込んでて、話しかけるのが危険すぎて、さすがのドラクも距離を取ってるんだ。違う?」


「……!」


「あなたと喋れないこと。励ましもできないこと。それが……『お喋り魔神』にとってどれほどのダメージか、わかる?」


「……!!」



 この少年、ドラクへの理解度が高すぎる。

 コールは圧倒されすぎて、納得できすぎて、潤んだ瞳が逆に乾いてしまった。

 だが急にホープは話の流れを変えた。


「……おれのせいだよ。あの一件は」


「っ、なっ!? 違うだろー!? ドラクはアタシを庇って……」


「その前は?」


「えっ」


「その前におれが『破壊の魔眼』を無駄撃ちして、あなたが助けてくれたこと。後悔してるし、感謝してるからよく覚えてる」


「いや、それは関係な……」


「体調の悪かったあなたが、無理しておれを助けてくれた。だからあなたはフラついた。だからそれをドラクが助けた。しかも実際に腕を切ったのもおれ」


「……!!」


「ごめんなさい。コールさんが何を言っても、おれは自分が悪いって疑わないから」


 決してコールに気を使っている素振りではなく……『あくまで悪いのは自分であるとキッパリ決めつけているから余計なこと言うな』とでも言いたげである。

 それは演技で、本当はコールに責任を感じさせないため……かもしれない? 真相はわからないが。




「おれはコールさんを悪いとは思わない」


「…………」


「ドラクと()()()()()なんて言うつもりも無い」


「…………」


「でも……相手に対して自分が悪いと思うなら、責任を感じるなら――相手に気を使わせちゃダメだ。『筋を通す』んだよ」


「…………!」


「あなたを守るために腕を失った人に、他でもないあなたが悲しみを与えちゃダメだ」




 無機質で平坦な話し方なのに、どこか魂が込められたように聞こえる。

 コールは心が震えた。その震えが良いものか悪いものか、わからないままに――



◇ ◇ ◇



 そんな、ホープのことを『せんせー』と慕うようになった一幕を、ざっと話す。


「お前さんの言う『先生』って……あの青髪の坊主のことか……」


「そーだねー……『せんせー』にお説教されちゃったからさー、ずっと考えてんだよねー……『筋を通す』ってことをさー……」


 始めは驚愕していたリチャードソンだったが、


「まぁ確かにあいつ、どっか不気味というか……妙に達観してるところもあるというか……変わった若者だとは思ってたけどな」


 そんな薄っぺらい印象を話す。

 ――リチャードソンは新人の名前を覚えるのが苦手だ。ホープのことやレイのこと、メロン、エン等は未だに名前を呼んでいない。


 聞いたニックが珍しく「くっくっく……」と小さく笑い出し、


「やはり……この俺を土下座させやがった男は言うことが違えな」


「「どっ、土下座ぁぁ!?」」


 それは本当にホープのことを言っているのか? と、さすがのコールとリチャードソンも大声を出してしまった。

 いくら険悪な仲だったとはいえ、ニックに土下座をさせるなんて……彼は思ってる以上に恐ろしい若者なのかもしれない。


「まー、敵対者を巨大クマの餌にしたりー、チェーンソーで解体ショーしてる時点でアレだけどねー……」


「お、おう……ニックに土下座させんのとどっちが恐ろしいかは、議論の余地があるかもしれねぇが」


「――ん? おい、てめえら。後方注意だ」


「後方?」


 ホープについての話題が尽きない中、ニックの警戒の糸に何かが引っ掛かる。

 二人が後ろを確認すると、



「何だありゃ!? 装甲車!?」



 普通の車とは明らかに違う、防御力の高そうな大きい車に追跡されている。

 そもそもこんな世界で、脈絡の無いカーチェイスが起きている時点で普通ではないが。


「……まあ、気にするな。その辺のアホンダラなチンピラだろう」


「えー? そんなことあるー?」


「下手に刺激しねぇ方が良さそうだ……」


 車体を比較しても体当たりされたらこちらがペシャンコになりそうな差だが、何よりも不穏なのは装甲車の上に見える機銃。

 何事もなくやり過ごせれば良かったのだが、



「俺たちは『十三人の傭兵団』! 目的は『ホープ・トーレスの生け捕り』だ! 知っていれば情報を渡せ! さもなくば攻撃する!」



 拡声器のようなもので警告してくる。どうすれば攻撃されないのか条件がわかりにくいが、


「……ほら見ろ。単なるその辺のチンピラだ」


「「その辺のチンピラがあんなこと言うかぁぁーっ!!」」


 ニックの心の方がわかりにくい。ふざけているのか真面目なのか。


「ふん。狙いはホープか……掴まってろ、スケルトンどもを食らわせてやる」


 道の先に、少数だがスケルトンの集団を見つけたニックは、ハンドリングで上手いこと集団を避けて装甲車にけしかける。

 が、



「「ウ"ォアァァ"」」


「――答えはNOということだな?」



 スケルトンどもをバラバラにはね飛ばした装甲車。中から傭兵が一人出てきて、機銃でこちらを狙う。


「伏せろっ!!」

「うおー!?」


 トランクの部分に次々と穴が空き、後ろの窓が豪快に割れる。

 ガラス片を被りながらもリチャードソンは、


「危ねぇなクソッタレ……あいつらイカレてんのか!! ニック、反撃するぞ!?」


「ブチかましてやれ」


 許可を得たリチャードソンは愛用のマグナムリボルバーを取り出す。そして、


「どうだ、コール?」

「もちろん!」


 誘われたコールもハンドガンを取り出し、割れた窓から装甲車に向けて二人並んで撃ちまくる。

 当然ながらボディには傷一つ付かない。屈んだ傭兵にも当てづらい。コールはタイヤを狙うが、


「っ!? 効いてねー!? あれ普通のタイヤじゃねーぞ!?」


 タイヤも硬く、並の銃ではパンクさせられない。「じゃあ俺が」とリチャードソンが狙っていると、



「おいトレイシー、気をつけろよ!」

「わかってるわよ!」

「やはり『バデム』の装甲車は質が良い――!? どわぁあっ!!」



 突然、装甲車が大きく揺れる。機銃を担っていた女の傭兵トレイシーもバランスを崩している。

 その理由は、



「ヒヒヒッ! 探したよ!!」


「吸血鬼……っ!」



 なんとヴィクターが森から飛び出してきて、装甲車の後方にしがみついているではないか。

 トレイシーはすぐさま機銃を回転させ、ヴィクターへと乱射。


「おっとっと」


 登ってきたヴィクターには軽く避けられ、


「っ! なっ!?」


 刀で斬り上げると、機銃が真っ二つになってしまった。

 迫りくる吸血鬼。トレイシーは懐から数本のナイフを取り出して応戦するが、振っても投げても全て避けられる。

 その上、


「……っ!」


 ヴィクターに気を取られすぎたトレイシーは、無防備な背中をコールに撃たれてしまう。

 さらにリチャードソンが高威力のマグナムリボルバーで銃撃すると、装甲車の前輪が片方パンクした。

 ガタン、と車体の前方が沈んでスピードは大きく損なわれたものの、まだ惰性だけで進んでいく装甲車。


「あれ、女が落ちちゃった。仕方ない、中にいる奴らの血を吸おうかな……ヒヒヒヒ」


 落ちたトレイシーの死体は、後輪に轢き潰された。

 ヴィクターが装甲車のハッチを開けて中を覗こうとしていると、



「……え?」



 バーク大森林の中――木が、次々と倒れていく。装甲車と並走する勢い。まるで高速のドミノ倒しのようだ。

 それはニック、リチャードソン、コールにも見えていた。そして、感じていた。



「何だこの……地響きは……!?」



 大地が揺れている。猛スピードの車の中にいても、確かに感じるのだ。

 地震ではない。それはまるで、巨大な生き物の足音のようで……



 ――バキバキッ!! ドゴオオオ――ッ!



 とうとう『それ』は姿を現した。

 前に見た、突然変異のような熊よりも遥かに大きい。10メートル以上はある……





「「「グルルルルルァァアァ――――ッ!!!」」」





 怪物だった。


「でっけー……犬!? 首が……三つある!?」


「どうなってる……!」


 三つ首の犬。

 コールもニックも、冷や汗が止まらない。あんなものが今、自分たちを追いかけてきているなど、あまりにも信じ難い。

 リチャードソンも同様なのだが、


「き……聞いたことがある。知らねぇか?」


「何を……!?」


「人間の肉を骨を喰らう、三つ首の……巨大な犬。ただの伝説だと思ってた……!」


 話を聞いたことがあるらしい。

 けれど三人とも、逃れられない『死』の予感に、あの怪物から目を離せないまま。




「『魔界の番犬・ケルベロス』……!!」




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