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ホープ・トゥ・コミット・スーサイド  作者: 通りすがりの医師
第五章 吸血鬼の国
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第210話 『強敵たち』

このサブタイトルの真の意味、今回だけで伝わりますでしょうか…もう少ししたらわかるかもしれませんね。












 開けた場所に出た、ホープと傭兵の男。

 二人はすぐに転がって距離を取り、


「生意気な動きをしやがって……お前がホープ・トーレスだな」


「正々堂々と勝負するためだ。君は唯一喋ってきたけど、リーダー?」


「……まぁいい、お前を捕らえたら今生の別れだ。教えといてやろう……」


 トリッキーな動きをしたために警戒しているのか、不用意に攻撃してこない。


 もしリーダーであれば、他をナイトに任せたとしてもこいつさえ殺せばかなり『筋の通る』結果になるのではなかろうか。まぁ全てがホープの自己満足だが。

 ホープの問いに、彼はゆっくり円を描くように歩きながらフードを外し、



「いかにも。俺こそが『十三人の傭兵団』を統率するリーダーだ」


「…………」


「名は、ターナー」



 ホープは思わず息を呑む。フードを外して明らかになったターナーの顔は傷跡だらけ。いわゆるスカーフェイスだ。


「どうした……恐いか? 自分から挑んだ度胸を称賛して、自己紹介してやったのに」


「別に。ナイトだって顔に傷はあるし」


 円を描いて歩く彼に合わせて、向かい合うようにホープも円を描いて歩きながら答える。

 だいぶ歳上のように見えるターナーは、なかなかの威圧感を放ちながら無表情で問い詰めてくる。


「それは仲間の名だろう。こんな恐ろしい顔をした奴と、真っ向から戦ったことがあるか?」


「……恐ろしさってのは、顔だけの問題じゃないと思うけど。おれは君よりも恐ろしい奴らと随分会ってきた気でいるよ」


「……そうか。俺も舐められたもんだ」


 あまり考えずに言い切ったホープだが、思えば――確かに人間と一対一で、顔を突き合わせて真っ向勝負……というのはこれが初めてかもしれない。

 だから緊張感はある。


 でも『さほど恐ろしくもないよ』と言われたターナーは、何を思ったか微笑んだ。

 そして腰からゆっくりとマチェテを抜く。


「奇しくも同じような武器だな」


 ――と、彼が言い終わる時にはホープの目の前で刃が輝く。


「っ……!」


 ギリギリで仰け反って斬撃を回避。

 躊躇いが無い。まるで殺すつもりみたいに。


「クソガキ、安心してなかったか? 殺されないから大丈夫だと」


「…………」


「殺しのプロにもなると、殺さないように死ぬ一歩手前まで調整しつつボコることだって簡単にできる。無事で済むと思うなよ」


 ターナーからすればホープは戦闘のド素人であろう。うっかり殺してしまうとマズいから接近戦に切り替えたようだ。

 ――死ぬ一歩手前までボコられるのはいけない。それだけは避けねば。


 ゆらり、と体ごとマチェテを揺らしたターナーは、踏み込む。


「っ!!」

「くっ……」


 豪速の縦振りを、首を横に動かして避ける。顔面を狙ってきた。

 当たったら『痛い』では済まないはずだが、避けられるとわかっていたのだろうか?


「っ」


 顔を動かした先で、今度は三連続の突きが上半身を狙ってくる。屈んで避けるが、


「うお」


 斜めに振り下ろされる刃が、執拗にホープを追いかける。

 横に転がって避けると、下段を狙った横振りが来て、


「っ――!」


 即座にホープもマチェテを振って打ち返す。火花が散った。

 急いで立ち上がり、


「ふっ!」

「っ、はっ!」

「あぁ!」


 息つく暇もなく攻撃をしてくるターナーに、ホープも遅れないよう防御を重ねていく。

 だが、やはり戦闘経験の差が埋められない。手数は徐々に負けていくし、スタミナも続かないし、息が止まってしまっているから苦しい。押されるばかりで、攻撃に転じることもできない。

 逆にターナーは余裕そうな表情で、


「っ!!」

「おぉっ……」


 鍔迫り合いから、腕力のみでホープを後退させた。軽く吹き飛ばされたような形だった。

 劣勢――火を見るより明らかだ。


「まだ無傷なだけ上等……だがお前は、自分で上げたハードルを超えられていない」


「…………」


「さっき『カラスを殺す』と言っていた気がしたが……聞き違いじゃないよな。あの義手の男は、俺よりも強いぞ」


「っ! そうか……」


「そのナヨナヨとした体で……この程度の強さで……奴を殺すだと? 正気じゃないな」


 ターナーには、ホープが怯えたように見えたのかもしれない。

 実際は、ホープは目の前の男が『カラス』の強さを測ることができるほど接触していた、という事実に驚いただけだが。



「意地を張らず『赤い目』とかいう異能を使った方がいいんじゃないのか?」


「……使えるなら使うさ」


「俺は他の傭兵と手合わせをして負けたことは一度もない。残念だが、お前はここまでだ。ホープ・トーレス」



 マチェテを大きく振って構え直し、ターナーが突っ込んでくる。

 対するホープは――棒立ち。

 勝負を諦めてしまったのか?



「だから……負けないって言っただろう?」



 体の後ろで、左手の人差し指と中指……二本の指をピッタリくっつけてピンと立てる――



◇ ◇ ◇



 残されたナイトとレイの方では、土埃が晴れてしまい、また囲まれて刃物を投げつけられる状況に逆戻り。

 先程と違うのは、こちらも傭兵団もそれぞれ一人減ったことだ。


「ごめんねナイト、あたし何もできなくて……」


「ッ、いいからじっとしてろ」


 四方八方から飛んでくるナイフや短剣、鎌なんかを防ぎ続けるナイト。

 たまに傭兵が落ちた武器を拾いに来るのだが、その隙を狙わせないように他が攻撃をしてくるので反撃ができない。


(こいつらァ……俺が吸血鬼だと気づいてたんじゃねェのか……?)


 奴らはまだ吸血鬼を殺せる気でいるのか、と自分で疑問に思うナイト。

 耳を澄ますと、ちょうどその内容の会話が小さく聞こえた。


「おいウェンディ……あのミイラ野郎、刀も持ってるし吸血鬼だろ?」

「だから何だ」

「いや、このままいつもの戦法じゃあ……」

「貴様は折れるのが早い。吸血鬼だって疲れるし、殺せる」


 ドン引きだ。奴らは本気でナイトの体力切れを狙って無限に続けるつもりだという。

 確かにレイを庇いながらでは倍ほど疲れるし、この包帯も重傷だからこそだ。体力が切れるのはそう遠くないかもしれない。


(攻撃を仕掛けて自分が傷つくのァいいが……)


 杖を握りしめるレイが視界に入る。

 この傭兵どもは間違いなく、ナイトが痺れを切らして突っ込んでくることも想定している。

 そうなれば数人を斬り殺したところで、レイも一瞬で殺される。思うツボになってしまう。


(ホープめ……いつもいつも俺なんかに『大切な人』を任せやがって……!!)


 責任重大すぎる。

 この状況を続けても埒が明かないのなら、


「悪ィなレイ」


「きゃっ!?」


 レイの華奢な体を小脇に抱え、ナイトは道無き道を走り出す。

 茂みの中から多少、どよめく声がした。


「ど、どこ触ってんのよ!」


「腹か腰だろ。許せ」


「女の子を米俵みたいに! レナードはもっと紳士的だったわよ!」


「誰だそいつァ」


 というか、文句があるのなら勝手に任せてきたホープに言うべきである。

 たぶん本気の文句ではないと思うが。


「しィッ!」


 ――次々と後方から飛んでくるナイフや鎌を、片手で持つ刀で防御しまくる。

 レイと密着しているので守りやすい。

 わざと木々の間を蛇行するように走り抜けていくと、攻撃の手も少し弱まった。


「邪魔だ」

「オ"カ"ッ」


 途中のスケルトンを蹴り飛ばしつつになるが……走るスピードを上げていけば人間は吸血鬼の足に敵わず、刃物は真後ろの一方向からしか飛んでこなくなる。

 あまりにも遠く離しすぎるとホープの方に行ってしまうかもしれないので、調整しつつナイトは走っていき――――




「ん?」

「どこへ行った」




 傭兵たちはとうとう茂みを抜け、木々と木々に挟まれた大きな道に出る。

 基本的に鬱蒼としたバーク大森林だが、時々こうやって青空の見える、少し整備されたような道もあるのだ。


 ミイラ男を見失ってしまった。あの俊足、間違いなく人外である。

 だがウェンディは「必ず殺せる」と、また意気込んだ。


「もう追わなくても良いんじゃないかウェンディ? ホープ・トーレスの今の位置はよくわからんが……あのターナーが相手してるようだぞ」

「ワシントン、わからぬか? 生け捕りが成功したところであの吸血鬼に追われることになる」

「おぉ……確かに……」


 強気な女、ウェンディの『邪魔される可能性は潰すべき』という正論を浴びせかけられたワシントンは深く頷いて、


「主目的のホープのことはターナーにとりあえず任せて、俺たちはサポートってわけだな」


 自分たちの役割を察する。

 他の傭兵たちも、


「よりによってターナーさんが相手とは、ホープ・トーレスも運が無い」

「あの人じゃな……とんでもなく奇想天外な戦い方でもしなきゃ、勝てるわけねぇもんな」


 普段から手合わせをしていることもあって、リーダーであるターナーの実力を疑う者はいない。

 ホープ・トーレスが普通の人間である限り、勝ち目などありはしないのだと。


「よし。じゃあウェンディ、オーティスはそっち側を探せ。俺とブラッドとリチャードはこっちだ。行くぞ」

「「了解」」

「吸血鬼を見つけたら合図を忘れるな。もしターナーを見つけたら援護――」

「……って、おい!? 後ろだ!」


 ワシントンの指示により、大きな道の真ん中で二手に分かれて散開しようとした五人。

 しかしブラッドが後方を指差して叫んだ。



「まんまと、お日様の下におびき出されやがったなァ」


「えっ、今『オースティン』って……あっ、違うわよね、オーティスね……えっ『リチャードソン』? あっリチャードよね……」



 五人とも一斉に振り返り、驚愕している。

 当たり前のように道の真ん中に立っているのは、ミイラのような男。隣にはペチャクチャ焦っている仮面の女。


「森へっ!」

「また身を隠せばこっちのもん――」


 傭兵たちは森の中へ飛び込もうとするが、



「もう遅ェ」



 ミイラ男が、右足を頭上まで豪快に振り上げて――













え?まさかあんなポッと出の13人全員に名前あるの!?誰が覚えるか!とお思いの方…

大丈夫です。そんなに覚えなくてもいいんです。理由は徐々にわかります。

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