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ホープ・トゥ・コミット・スーサイド  作者: 通りすがりの医師
第四章 障害に次ぐ障害
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第195話 『ゲームオーバー』



「このゴミクズ女――ジジイまで殺しやがって、いったいホープに何の用がありやがる!?」


「ゴミクズじゃないエムナス・ファトマだ。シールドうぜぇから戦法変えよっ」


 肉塊になって転がっているスコッパーの件。カーラが相変わらず男みたいな口調で責めるが、エムナスは意に介さないどころか、


「だからぁ!」


 ミニガンを持ったまま、とんでもないスピードでサイドステップをかます。

 まるで瞬間移動のようだったが、カーラは何とか目で追っていた。


「『赤い目』を持つ人間探してんだよぉっ!」


「ホープの目は青だろうが!!」


 ステップした位置から、またすっ飛んできたエムナスが蹴りの体勢になる。


「ッ!!」


 カーラは再びシールドを展開、上手く蹴りを受け流した。


「目の色なんかどうだっていいんだよ『特殊な能力』の話してんの!」


「あ!? コイツみてぇなただの人間がそんなの知ってるわけねぇだろ! なぁホープ!」


「…………」


「ホープ!?」


「…………」


 全力で庇ってくれるカーラには悪いのだが、ホープには心当たりがありすぎる『特殊な能力』だった。

 何も言えない。無言を貫いた。


 ただ気になるのは、


「……じ、じゃあコイツがそうだったとして、てめぇが探してる理由は! 目的は!?」


 カーラが聞いたまんまだ。


 このエムナス・ファトマという正体不明の女が、どうやって『破壊の魔眼』の情報を得たのか?

 誰から? ホープ以外に知っているのは、今のところレイぐらいのものだが。


 なぜ『破壊の魔眼』を探している? 探して見つけたとして、どうするつもりなのか?



「――バーク大森林の廃旅館、17歳の青髪青目の少年。ウチが持ってる情報だ」


「!?」


「ホープとやら。お前のことだよな?」



 なぜエムナスは、こんな森の中のどこにあるかわからない建物に、ホープがいると知っていた?

 なぜここまでホープの情報に詳しい?


 謎が多すぎる。


「お、おいホープ……?」


「隙ありぃっ!!」


「うぉ!?」


 油断したカーラに、エムナスは突如として蹴りを入れる。シールドを構えていたため直撃は避けられたが、


〘維持率:4%〙


「お……あっ……ぁぁ……!」


 銃弾にも勝ってしまいそうな蹴りの衝撃が、シールド諸共カーラを大きく吹き飛ばす。

 この場に残ったのは、ホープとエムナスの二人。



「……そうさ……『赤い目』ならおれが持ってる……だから……」


「お。やっと吐いたか。嘘じゃないな?」


「だからもう……おれ以外を殺すなぁぁぁ!!」



 ホープのことならいくらでも殺せばいい。でもスコッパーを巻き込んだことだけは、絶対に許さない。


 今日だけで、人が死にすぎた。


 もう疲れた。


 正直、今すぐにでも死にたい。


 だからミニガンや、銃弾にも勝りそうなキックで殺されたって構わない。


 ――ホープは拳を振りかぶり、突撃する。


 死ぬとしても、せめてスコッパーのために一矢報いるだけでも……



「ぷっ。ダッサ」



 嘲笑するエムナスは、無様に突っ込んでくるホープの額に向かって、


「っ……!?」


 デコピン。

 人差し指による、ほんの些細な




「ぎぇぇえあああああああああぁぁぁああああああああああぁぁぁあああああああああああああああああぁぁああああ!!!???」




 頭蓋骨を、脳を、貫通するかのように衝撃が駆け抜ける。後頭部が破裂したような感覚。

 額からは血が水鉄砲のように噴き出し、ホープは痛む頭を抱えながら後方にぶっ倒れる。


「あぐっ……あがぁぁあ!!!」


 熱い、熱い熱い。足をバタつかせたって、この痛みから逃げられない。

 まるで焼け石を額に永遠に当て続けているような、貼りついて離れない苦痛だった。


 本当に、異常だ。


 これが人間によるデコピンなのか?


「ウチに逆らわなければこんなに痛い思いはしなくて済んだぞ、ガキ」


「いぃい、いぎぃ……ひっ……?」


 エムナスの力に完全に心を折られ、腰を抜かしてしまったホープは、ずかずか近づいてくる彼女から逃げることもできないでいる。


 もうダメだ。もう逆らわない。

 大人しく殺されます。従順でいます。だから、お願いだからもう痛くしないで――



「くらえっ!!」


「……んぁ?」



 エムナスの足元に、小さな箱が転がった。

 衝撃を受けた箱は振動し、



「ゲームオーバーだ!!!」



 箱を起点にして、青白い閃光がドーム状に広がり、エムナスの体を包む。

 特殊な電流がエムナスの全身から流れ込み、心臓へと到達する――


 心臓が止まったエムナス・ファトマは、あっさりと地面に倒れてしまった。



「おれが動けないと思って油断したな……『心停止キューブ』を投げ込むタイミング、最初からずっと計ってたんだよバーカ」



 一瞬にして勝利をもぎ取ったカーラが、けらけらと笑っていた。


「はぁ……はぁ……」


 ホープは、また複雑な気持ちにされてしまった。



◇ ◇ ◇



 一方、廃旅館の西棟二階。

 ようやくニックの囁き命令が届いたダリルが、よろめきながら立ち上がって窓の方へ。


「ウワァ……マダ目ガ、回ッテル……酔ッ払ッテルミタイダヨォ……」


 少し頭を振ったダリルが、吐き気を堪えながら外の様子を窺う。


「ほーぷ、ト……アレハかーら?」


 数人の人影が見える。ダリルは報告のため、ニックにも聞こえる声で呟く。


「……ア……」


 あるものを見て、吐き気も飛んでいったダリルは両手で口を押さえる。


「……ヤ、ヤラレタ……」


「は? ……やられた、だと……何がだ……」


 ガタガタと体を震わせるダリルに異常事態を感じて、小声ながらもニックが問う。


 今また銃声が響いた。

 やけに静かな騒がしさに、後ろからドミニクも目を覚ましてくる中――




「かーら、ガ……!!」




◆◇♦◆♦◆◆◇♦◇◆♦♦◇◆◆◆◆



 変わり果てたスコッパーの肉塊、うつ伏せに倒れるエムナス・ファトマ。


 シールドを構えたままのカーラが、迅速に、でも慎重にエムナスに駆け寄る。

 電流がもう流れていないことを確認し、手首で脈を取る。彼女は安心したように頷いた。


 そうしてシールドを引っ込ませたカーラは目に影を落としながら、震えるホープの手を握る。

 ささやかに引っ張ってくる。それだけでだいたい『こんな胸糞悪い所は離れよう』という意図が伝わってくるのだった。


 二人は廃旅館へ歩く。


「……ホープ、ほら。もしもの時に使え」


「え?」


「『心停止キューブ』だ。おれさ、こういうの気味悪くて作りたくなかったんだ……」


 カーラがホープの手に握らせたのは、世界で最後の一つとなってしまった『心停止キューブ』だ。

 カーラは悲しげに語る。


「ちょっとイラついてた日に、その辺の素材をチョチョイッとイジったら完成しちまって」


「……はぁ……」


「これがニックに気に入られちまってさ、量産しろと言われたんだが……渋ってた。五個までしか作りたくなかったんだ」


 チョチョイッでこんなものを作れてしまうなんて、レベルが高すぎてホープは話についていけない。


 それと同時に――チョチョイッでこんな兵器を作れてしまって周りから称賛されるというのも、手放しで嬉しいことではないのだなぁと、軽く同情もした。


「ってか『赤い目』って何のことだよ? てめぇマジで持ってんのかよホープ……」


「……エムナスが言ってたのは、間違いなくおれのことだろうね……」


「てめぇにそんな秘密が……」


「みんなが集まったら、今日にでも言うよ。元々、言わなきゃいけないことではあったんだ……」


 まさか、これのためにスコッパーが死んでしまうような結果になるなんて。

 激しい後悔が襲ってくる。もう、また過ちを犯すわけにはいかない。


 話してしまおう。

 ホープが覚悟を決めて、


「はっ」


 突然――カーラが振り返って目を見開く。

 ホープも振り返る。






「あー……よいしょっと」






 スケルトンのように奇妙な、生者とは思えない醜悪な動作で、エムナスが起きてくる。


 確実に心臓が止まっていたのに――


 足がまず立ち上がり、それから後方へ折れていた上半身がゆっくりと起き上がってきてこちらを向く。

 彼女の目が『獲物』を捉えてギラリと光った。


 カーラが、ホープを押し退けて前に立つ。



「はい死ねー」


「起動ッ!!!」



 こちらを向いたミニガンに、カーラがすかさずシールドを展開。

 銃弾の防御は間に合ったが、



〘維持率:0%〙



 一瞬でシールドが砕け散る。


「うっ!!」


 いくつもの鋭い破片が、カーラの胸や顔にグサグサと突き刺さる。

 ついでにホープも右腕や肩に巻き添えを食らったが、カーラほどの重傷ではない。


 涙目のカーラは、ホープを庇いながらも建物へ逃げようとする。


 それを――エムナスは許さなかった。




「ほい。お前がゲームオーバー」



















「    」



 続く銃弾が三発ほど、カーラの腹を撃ち抜く。


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