第193話 『大ブチ切れ』
「確証は無いぜ? だがやってみる価値はあると思うんだ、若旦那……腕の先を噛まれただけなら、切り落とせばまだ間に合うかもしれねぇ」
ウデヲ……キリオトス??
ホープの言語中枢は破綻する一歩手前まで来ていた。キャパシティオーバーだ。
でもドラクの方を見る。
「えっ、切るって、え……? ま、マジ……?」
真顔で見てくるホープに恐怖したのか、ドラクの方も本気になってきて冷や汗の量を増やす。
おかしな話だ――本来死ぬしかなかったはずのドラクが、まだ助かるかもしれないという明るい話なのに。
腕を切るって、そんなに簡単な話だろうか?
けれど、ホープの手には変わらずマチェテがある。
「…………」
「ちょ、ホープ、ちょっ、待て! 助けたいって気持ちは嬉しいんだが……ほら、心の準備ってやつがよ!」
ゆっくりと『ドラクを救う』ために近づくホープに、ドラクは本気で焦って後ずさりする。
ホープの顔がヤバすぎて、異常者に見えるのだろう。
「やめろ……いややめないで! 助けて……いややっぱ助けないで……いや助けて……ちょっと待てって!」
痛む左腕を抱えながら、ドラクはその精神を限界まで追い詰められている様子。
――今まで考えもしなかった。
噛まれた部分を切り落とせば、狂人への転化を防げるかもしれないなんて。
少し考えてみると、辻褄が合わないこともない。
噛まれてから転化するまでの時間には、個人差がある。それは体力的な問題とか、抵抗力とか、そういうのが関係しているのだろう。
しかし、噛まれた体の『部位』によっても違いはあるかもしれない。
スケルトンや狂人を語る上で重要なのは紫色に染まる『目』『歯』の他、やはり『頭部』『脳』である。
転化を防ぐために人間を殺す時も、狙うのは『脳』なのだ。
噛まれて、その噛まれた箇所から『脳』に……ウィルスのような何かが回っていくのだとしたら。
『脳』に達した時に転化するのだとしたら。回ってしまう前に経路を絶ってしまえばいい。
噛まれた箇所が『脳』から近ければ近いほど転化も早いのかもしれない。
まぁ、首やら肩やら噛まれてしまったら、切り落としようもないのだが。
だから、腕の先の方を噛まれたドラクには、まだチャンスがあるかもしれない。
噛まれてから経過した時間も、およそ1分。早く切り落とせば本当に助けられるかもしれない。
ところで『切り落とす』『切り落とせば』なんて簡単に言うが、
「フー……フー……」
スケルトンに囲まれながら、それにどうにか応戦してくれている仲間たちに囲まれながら。
怖がっているドラクの腕を切り落とすなんて、そんなに簡単なことなのか?
理論的にも、時間的にも、技術的にも……ホープたちの、精神的にも。
「『心停止キューブ』!!」
カーラの声。
と同時、スケルトンの群れの中でもホープたちから少し離れた場所に、いくつか石ころのような物が転がる。
小さなそれは、よく見ると四角い箱のようで、
「――――!!」
小さな箱を起点に、青白い稲妻のような光がドーム状に広がる。
巻き込まれたスケルトンや狂人は、なぜかヘナヘナと倒れていき活動を停止してしまった。
箱は三つ転がっており、謎の爆発も三連発。
だいぶスケルトンの数は減った。
「カーラ……」
「これは人間の心臓を止められる特殊な電撃を放つキューブさ。兵器利用する気は無かったが、スケルトンどもにも何故か効くみてぇだ! ……まぁ五つしか作ってないから、あと二つしか無ぇけどな!」
「……!」
「ホープ、おれたちが援護する! ドラクを救ってやれ!」
カーラの熱い行動と言葉。それは押してほしくないホープの背中を押すのに、充分だった。
さらには、
「ほーぷ! 戦力ガ足リナイヨネ!? おいらハ怖ガリダケド、目ヲ瞑レバ暴レラレル! 許可シテ!」
「ダリル……?」
カーラの後ろからは、震える手で巨大な両刃斧を構えるリザードマン、ダリルの声。
勇ましいがやっぱり震えているその声を、
「ダメだと言ってんだろうが!! てめえまで噛まれちまったらどうすんだ!!」
遠くから怒鳴りつけるのはニック。彼は、これ以上の犠牲を絶対に許さない。
「ほーぷ!」
「やめろアホンダラ!! ダリル!!」
だからこそホープは。
「ダリル……頼む。君を信じるよ」
「ッ! ウンッ!!」
珍しく行動を起こそうとし、なけなしの勇気を奮い立たせてくれたダリルを信じることにした。
彼は臆病なだけで、弱いはずはない。少なくともホープのような人間とは戦闘力は比較にならないはずだ。
反対していたニックはきっと驚いているし、激怒していることだろう。だが考えてる暇もない。
「ミンナ、声ヲ出シ続ケテネ!? ウ……ウォリャアアアアアア!!!」
「カ"ァッ」
「オコ"」
本当に目をギュッと閉じながらも、ダリルはめちゃくちゃに両刃斧を振り回しつつ走り始める。
方向もめちゃくちゃだし、スケルトンが密集している所にも構わず突っ込んでいく。
そうすると背後から噛まれないかと心配になるが、
「ウワァァァア!!」
「ホ"コ"ォ」
尻尾まで乱暴に振り回し続けているので、どうやらしばらくは平気そうだ。
……ここまで背中を押されてしまったホープは。
「コールさん、ドラクを押さえててくれる?」
「っ、あ、あー……」
先程の『心停止キューブ』やダリルのおかげでスケルトンが少し減った。
ホープはコールを呼び、ドラクの体を押さえてもらうことにした。
「く、くそ……」
ドラクは逃げ回っているわけではない。もうある程度の覚悟を決め、泣きながらも仰向けになっていた。
だが、やはり恐怖心は消せない。腕を切る時に避けようとしてしまったりすれば、素人のホープがどこを切ってしまうか、わかったもんじゃない。
「あの、さー……アタシがー……?」
「いや、コールさんはしっかり押さえてて………………おれがやる」
「っ!」
別に――ホープは格好つけているわけではない。
コールは庇われた責任を感じているのだろうが、彼女に落ち度があるとはホープは思えなかった。
それを言ったらホープだって『破壊の魔眼』を余計に使ってしまったのだし。
何より――仲間の腕を切り落とすというのだ。こんな思いをするのは、ホープだけで良い。
「お、おぉい……ホープぅ……マジでやんのか……?」
「早くしないと間に合わなくなる……!」
「確証、無ぇんだろ!?」
「やるしかないんだ!!」
ホープは今度こそ、マチェテを振り上げる。泣きじゃくるドラクの目の前で。
コールが、ドラクの腕の付け根の部分にキツく布を締め付けた。
マチェテを握る手は震える。だって、今からこの手でドラクの腕を切るのだから。
震えはすぐに止めなければならない。だって、今からこの手でドラクの腕を切るのだから。
脂汗で全身ぐちょぐちょだ。
普段は聞こえるはずのない、自分の心臓の鼓動がうるさくてしょうがない。
呼吸が荒い、息苦しい。
視界が安定しない――
けれどもボヤけた視界は、目を背けたくなる対象物へと強制的にピントを合わせられる。
そして、
「……あああッ!!」
「ッ!?」
仰向けのドラクの左腕に、一撃。
返り血がホープやコールの顔に飛んでくるが、どうやら今の一撃では……骨までは断ち切れなかったようだ。
「ぎゃあああああああああ!!!」
「……っ」
「うう……ぅ」
目を、口を、限界まで開き、抑えられないほどの涙を流し、ドラクは絶叫。
馬乗りになるホープは、床に押さえつけるコールは、彼の死にもの狂いの抵抗力を感じながらも、
「ふんッ!!」
「ぐああああアアアアァァ!!!」
二撃目。
まだ切り落とせない。ドラクの絶叫は、ギアを上げたかのように甲高くなる。死ぬ気で足をバタつかせているのがわかる。
コールはもう、肩を震わせてしゃくり上げている。
それでも……ここまできて、やめる選択肢は無い。
ホープは歯を食いしばり、切るべき場所をしっかり見据え、三撃目。
「アアアアアァァァア!!?」
腕が、切り離された。
ドラクは一際大きな絶叫を上げ、断面からは信じられない量の出血。
これを『助ける』『救う』と呼んで良かったのか?
血を止めなければ、このままでは彼が転化するかしないかの前に出血多量で死んでしまう。
必死で断面を押さえようとしたホープに、
「どけ、若旦那!!」
後ろから叫んだのはスコッパー。振り返れば、彼が両手に持つのはいつものスコップ。
だが、表面が少し赤くなっているような?
「今までずっと焚き火に置いといた! これで止血する!!」
スコッパーは自分の手に火傷まで負いながらも駆けつけ、高熱のスコップの先端をドラクの腕に押し付けた。
「ぃギャアアアアアアアアアッ!!!!」
冗談でなく『ジュウウ』と音がし、もう喉も壊れているだろうドラクが絞り出すように絶叫を上げる。
数秒当て続けると、断面からは血が止まる。コールが急いで包帯なんかの準備をする。
あまりのショックに、ドラクは気を失ってしまったようだ。
「……はぁっ……はぁっ……!!」
成功かどうか、この選択が正しかったかどうか。何もわからない。
わからないが、やれることはやった。
そう思ったホープは全身の脂汗も無視してすぐに立ち上がり、振り返る。
視界を埋め尽くすのは――憎き人食いたち。
「この……」
どうしてホープが、仲間の腕を切らなきゃいけないんだ。
どうして死にたがっているホープは生かされ、精神的な苦痛ばかり味わうことになるんだ。
どうして仲間が、ホープなんかに腕を切られなきゃならないんだ。
どうして仲間ばっかり、死ぬような思いをさせられるんだ。
「クソどもが!! 全部ブチ殺してやる!!!」
ホープは、またブチ切れた。
だがこれまでの比ではない――大ブチ切れである。
ドラクのことはコールやスコッパーに任せて、ホープはズンズン歩いていく。
あるものを目指して。
「カ"ァッ」
「コ"ォォォ」
「死ね」
マチェテを構え、正面から迫る二体のスケルトンを、一撃で薙ぎ払う。
進行を阻害してくるスケルトンや狂人どもを、全て一撃で仕留めながら歩く。
「ウリャウリャウリャアア!!」
目の前を、両刃斧を振り回しているダリルが横切ったが気にも留めない。
そして屈み、両手でどうにか持ち上げた物は――
「ダリルっ! おれのとこまで来い! 君のおかげでスケルトンはほぼ全滅だ!!」
「ホントォ!?」
ダリルは一応暴れ回りながらホープのもとまでやって来て、ようやく目を開ける。
「……マダ全然、すけるとんダラケジャン!?」
ホープはダリルを騙したのだった。
ダリルが暴れるぐらいでスケルトンを全滅させられるなら、初めからぶん殴ってでもやらせるだろう。
「うん。だから協力して」
「エッ、ソ、ソレハ……! おいら持タナイヨ!?」
「持つのはおれだ……カーラ、借りるよ!」
カーラの返すサムズアップに頷いたホープが持っているのは――発明品『巨大爆音チェーンソー』だ。
確かに人間では持ち上げるのがやっと。だがダリルは持ちたくないと一貫している。
正直、持ってみるとダリルの気持ちもわかった。恐ろしい見た目だ。
この威圧感しかない巨大なトゲトゲの刃が、爆音を上げて回転するというのだ。
では、どうやってこれを扱うのか?
――ホープはスターターを引っ張って稼働させ、そのまま両手でチェーンソーを持ちながら、うつ伏せに寝そべった。
「エッ!?」
「ダリル、おれの両足を掴んで」
「エエッ!?」
「それで、高速回転するんだ!」
「エェェェ!?」
驚愕し、困惑しながらも、ダリルは周りをスケルトンたちに囲まれていることをわかっている。
「急げ!」
「……ウ、ウン!」
彼はホープの両足を掴み、宙に浮かす。といってもまだ、チェーンソーの先端だけ床についている。
ダリルがその場でゆっくりと回転を始める。
「ウォォォ……!」
さすがはリザードマンの筋肉。
ホープと、ホープと同じぐらいの大きさがあるチェーンソーの二つを、簡単に持ち上げて振り回せる。
回転は、速度を上げていく。
「オオオォォォ、リャアアアアァ!!!」
要は『ジャイアントスイング』だ。
遠心力で、ホープが力を入れずともチェーンソーも床と平行まで浮いてきた。
そのタイミングで、
「踏ん張れダリルっ、ここからだ!!!」
ホープはチェーンソーのスイッチを入れる。
ブン、ブゥゥン――ブゥゥゥンブゥゥン!!
エンジンが唸り、ゴツい刃が獲物を求めて回転を始める。
その音だけでも、この西棟二階のほとんど全てのスケルトンや狂人、ついでに仲間たちにも音が届くのだが、
ヴヴヴヴッ――バリバリバリバリバリバリ!!!
本当に、至近距離のホープやダリルの鼓膜をぶち破ってきそうなほどの『爆音』の名に恥じぬ音量。
フロアじゅうに響き渡り、スケルトンが、狂人が、次々にターゲットをこちらへ変える。
「ウ"ェア」
「ケ"オ"オォ"オ」
スケルトンや狂人が、吸い込まれるようにチェーンソーの刃の餌食になっていく。
「ぅぐぐっ……おああああ!!」
「ンニニニィイイイ!!」
「ロコ"ォォ」
「ア"カ"ァ」
「ウ"ァァア"ァ」
ずっと高速で回転しているから、死角無し。八方からの敵を全て蹂躙できる。
しかし爆音に耳を破壊されかけるホープとダリル。
さらにホープは遠心力に振り回されても、目が回っても、チェーンソーを絶対に離すわけにはいかない。
ダリルも目が回っても、ホープの足を離すわけにはいかない。
「うぐぉ、ダリルっ、もう少し高く!!」
「ンニニ、コ、コウ!?」
しかもチェーンソーの構える高さが低くなると、敵の頭部を斬れなくなる。
一定の高さを維持し続けなければ。お互いに声を張り上げて連携を取るのだ。
「す、こ、少しずつ、移動ぉ! ダリル、右だ!」
「右ッテ、ドッチィィ!?」
「ウケ"ァ」
「オ"オオオ"」
正直ホープにもどっちが右なのかわからない。そこはフィーリングでダリルも一定の方向へ、回転しながら移動する。
「みんな伏せろぉぉ!!」
「「「うおお!?」」」
カーラに、スコッパーやコールやドラク、挙げ句の果てにはアクセルやニック。
仲間たちの頭上を、殺人チェーンソーが掠めていく。
「ウ"ァ」
「エケ"レ"ケ"ェ」
「コ"ホォ"」
「うおおおおおお!!!」
「ウオオオオオオ!!!」
――そんな地味な死闘が、1時間近くに渡って行われたのだった……
◆ ◆ ◆
「「オエッ、オエエッ、オロロロロロロロロロロロロロロロロロ!!!」」
重なり合う、二つの汚い音。
西棟二階にて響かせているのは、もちろんホープとダリルだった。
「……やりやがったぜ……クソガキども……」
今となっては口からも両目からも血を流す、満身創痍のニック・スタムフォード。
苦しげに寝ているジルとともに、ボロい敷き布団に寝かされながらも彼は呟いた。
「ああ。あの量のスケルトンを、本当に全て屠ってしまうなんて……脱帽さ」
けっきょく裏切り者ではなく、しっかりと生き延びたアクセルもホープたちをそう評した。
「しかも、あんなやり方でねー……」
俯きながらも、コールも安心した声で呟いた。
そこへ、
「……カーラって子を知らない? みんな」
さっきまでここにいたと聞いたのに、と赤髪のエンがキョロキョロと見回している。
「『ラボ』、でしたっけ……そんなようなところに、向かわれたとか……」
疲れて座り込むドミニクが答えるとエンは「またか……」とボヤきながら歩き去る。
「と、ところで……お二人は、なぜ吐いていらっしゃるんですか……」
ドミニクが気になるのはそこらしい。
「簡単に言えば、チェーンソー持って大回転さ」
「えっ!?」
肩をすくめて笑いながらアクセルが教えると、ドミニクは戸惑っていた。
「……そ、それに……コールさん……」
みんなからの注目がコールに――いや、その隣にいる男に集まった。
「かーっ……くかーっ……」
左腕を失った、ドラク・スクラムだ。
噛まれたところホープが切り落としたとコールが説明すると、当然気になるのは、
「狂人には……なってないみたいだな」
イーサンが言うように、もう1時間以上はこうして普通に寝ている。
ずっと離れた場所に座っているサナが、父親であるイーサンのことを睨んだ。
ひとしきり吐いたホープは、
「ウ、ウプ……もう、大丈夫って、思ってもいいのかな……?」
よろめきながら立ち上がる。
わざわざここで吐いていたのは、動けなかったというのもあるが――ドラクの無事を確認したかったのが一番の理由だった。
「……恐らく、転化はもうしねえだろ。ここまでやって死なれても困っちまうしな」
「……ちょっと、外の空気を吸ってくる」
ニックの言葉に背中を押され、ホープは死の臭いが充満する建物から出ることにした。
階段を下り、一階のエントランスへ。
元からボロボロの旅館ではあったが、扉や家具や装飾品、一部の床や壁も破壊され、見るも無惨。
今後もここで生活するのだろうか。
そう思いながら外へ出ると、
「……わかるぜ。掃除が大変そうだよな、若旦那」
「スコッパー……」
「後の問題はゾルンドナト病のことだけだ……抗体のために、全員分の薬が欲しいよな」
彼もまた恩人だ。
ホープの、というよりドラクのか。
「助かったよ。腕を切る提案してくれなかったら、ドラクは今頃……」
「水くせぇなぁ、恩なんて感じることねぇよ、こんなホームレスのジジイに」
「はは……そうだ、あのことは知ってたの?」
自虐するスコッパーだが、腕を噛まれたら切れば助かるという知識をどこで得たのか。
「確証は本当に無かった。スケルトンパニックが起こり始めの頃、大都市アネーロで見たことがあってな……噛まれた仲間の足を、切り落とそうとした生存者を」
「…………」
「そいつらは……ダメだった。噛まれてから時間が経ってたみてぇで、無駄な苦痛を味わった上に転化しちまった」
「……え」
そんな。
唯一見たのが失敗例だったなんて。それって、そもそも対処法として正しいのかどうかすら――
「そうさ。本当に全てが賭けだったんだ……あんたらはすげぇよ。賭けに勝っちまった……!」
「っ!」
「見せてもらったよ、あんたの『勇気』も」
「い、いや……」
ドラクの腕を切ったこと。
ダリルを騙しつつ、その場にあるもので全てのスケルトンたちを殲滅したこと。
スコッパーは、尊敬の念を込めてホープを見ている。
「助けられたのはワシらの方だ。ありがとよ」
「…………」
自分に、こんなに感謝される価値があるとは思えない。素直に受け取れるわけがない。
だって『破壊の魔眼』だって、意味不明な使い方をして自爆したのだ。
「……ったく。もっと自信を持て若旦那。自信がありゃあ、あんたが次に起こす行動も変わる。そうやって自分を磨いていきゃ良いんだよ」
ホープはスコッパーの言葉を飲み込む。
確かに、自信が無い人と、自信がある人とで、起こす行動は違うだろう。
大抵、自信がなくて迷いながら起こす行動は、失敗したり空回りする。
自信さえあれば、変でも、勢いで何とかなることもあるかもしれない。
どちらにせよ反省点を見つけ出し、次に活かすことができれば少しずつ――
「ぶ」
今、目の前で、スコッパーが倒れた。
何が起きた?
ホープは見下ろす。
「……?」
今まで普通に喋っていたスコッパーが、全身を穴だらけにして、本当に蜂の巣のようになって死んでいる。
死んで、いる。
「ほい。爺さんは残念だったな。ところでウチは探してる奴がいるんだけどさ」
「……ぇ?」
「お前さ『赤い目』持ってんだろ? なぁ」
黒髪黒目で、どっからどう見ても普通の女が、不釣り合いすぎるバカでかい銃を構えて、ホープに問いかけてきた――
ああ、こんな世界、死んでやりたい。




