第190話 『唸れ、狩人の血』
東棟二階にて。
ドミニクが非常口を確保しに行き、封鎖されていて使い物にならないと判明した直後、サナとニコルと数人のゾルンドナト病感染者が三階から降りてきた。
「ひじょうぐち……つかえないの……?」
「そ、んな……」
それを伝えなければならないイーサンの罪悪感は並み大抵のものではなかった。
サナもニコルも、自分たちの死を悟り、絶望するしかないのだから。
後は――ひたすらスケルトンや狂人と戦うだけ。
ただ戦うことしかできない。
だって、逃げられない。
かといって諦めて死ぬわけにもいかない。
体力の少ないゾルンドナト病感染者たちが多数、無意味に食い殺されていく中。
西棟からオリバーとジルも合流する。
でも、状況は何も変わらない。犠牲者が増えていくことぐらいしか――
「パパ……ママ……」
それでも。
それでも。
それでも、イーサンは死ぬわけにはいかなかった。自分の後ろで怯えている娘を、守り抜くために。
「……あっ……」
ずっと武器として使っていた消化器を落としてしまう。
「カ"ァ"!」
「ぎゃああ!!」
今、すぐ隣でゾルンドナト病感染者が狂人に押し倒されて食われ始めた。
彼の手からナイフが落ちたところを、すかさず拾うイーサン。
「はぁ……はぁ……!」
「オ"エ"ェェ"」
「ふんっ!」
「ア"」
そのナイフで、向かってきた狂人の頭部を刺す。次から次へと捕食者たちが向かってくる。キリがない。
「……俺はもう嫌だ、飛び降りてやるっ!!」
先程、そう言って窓からジャンプしていくゾルンドナト病感染者もいた。
だが、すぐに下から叫び声がした――飛び降りたところでスケルトンは外にも大量。二階だし、足を負傷したところを囲まれて食われるのがオチだ。
「うぅ……!」
次々と散っていく仲間たちの命。それに唇を噛み締めながら、黒人女性ドミニクも戦っていた。
彼女が引き絞るのは『スリングショット』という――ただのパチンコのようにしか見えない遠距離武器だが、
「コ"ァ"ッ」
狩り等にも使われるその武器の殺傷力は確かで、スケルトンや狂人なら充分殺せる。
だが殺しても、殺しても、終わる気がしなかった。
そして、とうとう……
「――――サナっ!!?」
疲れも限界に来たゾルンドナト病感染者たちが次々に倒れていき、スケルトンどもの魔の手がイーサンの家族に届き始める。
「ウカ"ァァ"」
「あ、ぁぁあっ!!」
今まで立ち尽くしてブルブル震えていたサナが、スケルトンの接近に悲鳴を上げる。
幼い娘が泣くところは何度も見てきたが――本気で泣き叫んでいるのがわかる。『死』を間近に感じている者のそれだった。
「クソッ……!」
目の前のスケルトンに背中を引っ掻かれながらも、イーサンは全力で走った。
家族の命だけは、こんなバケモノどもにくれてやるわけには――
「ん!?」
もう少しでサナを助けられる距離まで行ける、しかしスケルトンの手も届きそう。
このギリギリの戦いの中でイーサンは、
「……ニコル? 何やってる!!」
遅すぎた。
◆ ◆ ◆
咳をするたびに吐血し、ゾルンドナト病に感染していることが確定したニコル・グリーン。
彼女は弱っている体に鞭を打って、サナとともに二階まで降りてきた。
そして、
「あ……あ……?」
スケルトンも狂人も、この最悪の状況も。
お構い無しに進行していくゾルンドナト病の症状が、ニコルの両目から視力を奪った。
血液が溢れ出したのだ。
当然、視界は真っ赤に染まる。周囲で戦ってくれている仲間たちも次々と倒れ、食われていく中で、ニコルはろくに動くこともできない。
自分のすぐ隣には愛する娘もいるというのに、その顔すら見てあげられない。
「あ、ぁぁあっ!!」
サナが悲鳴を上げ、恐怖に後ずさりしたのか、ニコルの傍から離れたように聞こえた。
離れられてしまうと、困る。
サナの存在が掻き消されてしまう。
大量のスケルトンや狂人、仲間たちのバタバタとした足音や呻き声に掻き消されていくのだ。
音や気配ぐらいしか頼りにならない今のニコルでは、娘を守ることもできない――
「え」
だが、何とも奇妙な現象が起きる。
何も見えないはずのニコルの赤黒い視界の中で、突然に強い光が輝いた。
いや……輝いたように見えた。
誰かがライトで照らしてきている?
違う。
パニックになって見えた幻覚?
いいや違う。
「サナ――」
その光は、ニコルの『守るべきもの』を表したのだ。
すぐに駆け寄り、
「っ!!」
抱きしめる。強く。
感じたことのある温もり。匂い。息づかい、そして声。やっぱりそうだった。
「ママ……?」
間近のサナの声は震えている。
ニコルは言わなければならない――お別れを。
『パパをお願い』『愛してる』『強くなるのよ』『ずっと愛してる』『負けちゃダメよ』『ずっとずっと愛してる』言葉はいくらでも思いつくが、時間がない。
だから、一番の願いを……
「生きて」
その瞬間、ニコルはスケルトンに噛みつかれた。
◆ ◆ ◆
「やめっ……やめろやめろぉぉぉ!!!」
走りながらイーサンは叫ぶ。
サナが襲われる直前、突然にニコルが抱きしめて庇い、代わりに首筋を噛まれてしまったのだ。
「うぁぁあ!!!」
涙を堪えながらイーサンはナイフを大きく振りかぶり、ニコルを噛んだスケルトンを殺そうとした。
だが、
「っ!!」
「あっ!?」
怒りに支配されたイーサンの腹に、なぜかサナが飛び込んできて、中断を余儀なくされる。
見れば、ニコルがサナを突き飛ばしたようだった。
もしかして、
(俺、は……!!)
イーサンの今の役目は、もう助からない妻を助けるのではなく、サナを守ることだとニコルは言いたいのか。
そうなると、
「あぁッ、ああ……ぁ!」
ニコルは、死者たちの群れの中へ消えていく。多数の骨の腕、腐った腕に引っ張られ、吸い込まれるように……
食われていく。
「あ……」
イーサンは腰を抜かし、座り込む。
「は……あ……」
もうそこに妻はいない。スケルトンどもに囲まれて、亡骸も、血さえも見えない。
「う、そっ、うそっ嘘だ……ぁ……」
そこで妻が食べられているおかげで悲しむ時間が取れるということにも気づかず――イーサンは頭を抱え、下を向き、いつしか蹲ってしまった。
背後からスケルトンや狂人が、わらわらと集まってくる。
別に今ニコルを食べているのが全部というわけではない。囲まれている状況に変わりは無かった。
「まっ……」
サナの声。
ふと横を見てみると、
「きああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!」
父親であるイーサンでさえ思わず恐怖心を覚えてしまうほどの形相で、泣きながら奇声を上げるサナ。
そのまま彼女が向かうのは、今まさに母親を食らっている死者どもの群れ。
「はっ」
それを見たイーサンは『自分の役目』を思い出し、弾かれたように走り出す。泣きながら。
すぐにサナに追いつき羽交い締めに。
「ああああ、ああああああ!!!」
「ダメだ! サナ!」
「いやだぁあああ!! ままをかえせぇままをかえせえええええ!!!」
「堪えてくれ、お前まで失うわけには……!」
「じゃあままは、ままはいいの!? かえせぇかえせえええかえせぇぇえ!!」
「よくない……」
「ぶわあああああああ!!!」
「――俺だって苦しいに決まってるだろ!!!」
「っ」
優しく諭そうとしていたイーサンだが、やはり限界が近く、すぐに決壊してしまった。
恥も外聞もなく、今まで出したことのない声量で自分の娘を怒鳴りつけてしまったのだ。
でも、それが精一杯の言葉だった。
サナを止めるためにも、今にも暴れ出してしまいそうな自分を落ち着かせるためにも……
「……っ、ぅぅ……」
どうしようもなくなって、サナは座り込んですすり泣く。
「フー……! フー……!」
荒い呼吸のイーサンは、気づいてた。
自分たちがこんなにも悲しんでいられるのは、周りの仲間が同情して援護してくれていたからだと。
「うぅ……っ」
前の町からの付き合いであるドミニク。
彼女もニコルの死を純粋に悲しみ、またイーサンとサナの気持ちも理解して涙を流しながら、離れた所からスリングショットで二人を守ってくれていた。
不甲斐ない。
「サナ! 泣いてもいいが、立つんだ!」
「うぇっ、う、うぇぇえぇん……」
「立ちなさい!!!」
先程までとは裏腹に子供っぽく泣き始めるサナを、叱りつけて立たせようとする。
今度はイーサンの形相が鬼のようになっていることだろう。
それでも立たず泣き続けるサナ。狂人が近づき、
「ァカ"ッ……」
すぐに狂人をナイフで刺し殺したイーサンは、
「ママは最後に何て言った!!?」
「っ」
「絶対に生き抜くぞ、サナ!!」
普段からは考えられないほど力強く、高らかに、この希望の見えない状況下で誓った。
そんな『勇気』も、
「……ゥ"……ゥ"ゥ……オ"オ"」
「あ……」
群れの中から現れる、なりたての狂人によって崩壊する。
◆ ◆ ◆
――スリングショットで、もう二人しかいないグリーン家を援護しているドミニク。
ニコルは、こんな臆病な自分にもいつも優しくしてくれた。食われゆく彼女を見て、涙が自然と流れた。
「う……う……」
「カ"ァッ!!」
「あうっ!」
泣きながら離れた他の人を援護していたら、当然自分の方は疎かになる。
いつの間にか近づいてきていた狂人に頬を引っ掻かれ、ドミニクは倒れ込んだ。
そのまま蹲る。こんなに時間の無い状況で。
「もうだめっ……もう、ダメです私ぃ……」
見たくない見たくない。もう何も、見たくなかった。
見れば見るだけ、視界に入ってくるのは人食いのスケルトンと狂人だらけ。
しかも、
「あぁ……そんな……」
「……ママ?」
「ア"ァ"ア」
イーサンとサナの前に無慈悲にも現れてしまった、ニコルが転化した狂人。
あろうことかニコルの狂人は、徐々に近づいてくるサナに狙いをつけている。
「うぎゃああああ――――ッ!!!」
反対方向では――体力が尽きた巨漢のオリバーが、棍棒を落とし、スケルトンたちに囲まれて食われていた。
そのもっと奥では、
「ウ"ォ"……ウオ"オッ」
「はっ……はぁっ……」
シャノシェの狂人がゆっくりと、這いずるジルを追いかけている。
ジルは両目からの血で前が見えておらず、瀕死。すぐに追いつかれることだろう。
ちょっと見回しただけで、フロアじゅうにこんな状況が広がっているのだ。
目を閉じたくなる気持ちも許してほしい。
「どうすれば……? もう、もう終わりです……」
今見えた仲間以外は、ほとんど全滅している。助けに入れるとしたら、
「私、ぐらいしか……」
もうドミニクしかいない。
彼女だってほぼスケルトンどもに囲まれているというのに。
「……あ」
彼女には、走馬灯のように思い出してしまう会話があった。
向こうのイーサンとサナの父娘を見ていると特に、鮮明に蘇ってくる――
『ドミニク。なぜ泣くのだ』
『ふ、ふぇ……え?』
『この腰抜けがぁっ!!』
『あぁ!?』
それはドミニクが小さい頃の、父親との会話。
当たり前のように、泣いているドミニクの顔を殴ったりする人だった。
筋骨隆々でスキンヘッドの黒人、そんな大男のパンチは痛くてしょうがなかった。
だが、
『……まだわからないか。ドミニク。我が娘よ』
『うぅっ……ふぇ?』
『この俺にこんなに毎日殴られていたら、普通の人間ならば死ぬぞ』
『ふぇ……』
父はそう言うが、ドミニクは確かに死ななかった。痛いが、何度殴られても立ち上がれたのだ。
『俺たちの家系は代々、最強の狩人。己の力のみで獣を殺し、食う。それだけで、腕っぷしだけで生きてきた』
『……ふぇぇ……ふぅん……』
『お前は、とんだ腰抜け娘だ。だが確実に、その血が受け継がれている』
『ふ……』
けっきょく最後までよくわからなかったが、ドミニクは狩人の家系に生まれたらしい。
体が異常に丈夫で、特に鍛えなくても筋力があったのはそういうことなのか。
『いつも言っているだろう。世界はいつか、必ず滅亡すると!!』
『……!』
父は、いつか文明や秩序が滅び、本当の意味で腕っぷししか頼りにならない時代がやって来ると、いつも豪語していたが。
まさか、当たっていたなんて……
『それでもドミニク、お前は生き残れるはずだ。――お前は最強の狩人になれる!!』
気づいた時には――ドミニクは立ち上がっていた。
「――――――ッ!!」
「コ"ァ」
「オ"ォ"ア」
鉄製のスリングショットを鈍器として扱い、囲んできたスケルトンや狂人を一網打尽にする。
グリーン家を視界に入れたドミニクは走り出し、
「ロ"オ"オオ"」
「ッ!!」
「ォカ"」
立ちはだかる狂人を、その拳で迎え撃つ。一撃で頭部が破裂した。
「アァ"……」
ニコルの狂人が、サナに近づいていく。イーサンも唖然として全く動けていない。
ドミニクは、
「うわぁぁぁぁ」
「ア"」
咄嗟にサナとニコルの間に立ち、少し無理のある姿勢から豪速のパンチを放つ。
ニコルの狂人の顔面を捉え、狂人は宙を舞ってから仰向けに倒れた。トドメにはなっていないようだが、
「ッ!!」
「…………」
ドミニクはまた腰を抜かしているイーサンを一瞥してから、また走り出す。
ピンチはグリーン家だけではない。ニコルの狂人は彼に何とかしてもらうしかないのだ。
向かった先には、
「オオオ"オ"ォ」
多数のスケルトンどもの中に混じる、早くも転化したオリバーの狂人。
その足元に転がる物が目的だった。
「……貰いますっ!!」
オリバーが使っていた棍棒。
それは多数のスケルトンどもの足元にあるのだが、
「あああああ!!」
「オォ"」
「ア"コ"ァ」
強靭な脚力と肩にものを言わせ、ドミニクは限界まで姿勢を低くして猛烈なタックルをかます。
くらったスケルトンや狂人は片っ端から転倒。壁のようになっていた群れを、ひとまず抜けられた。
しっかり拾っていた棍棒の矛先は、
「アカ"アァ!」
今にもジルに襲い掛かろうとするシャノシェの狂人であり、その後頭部に、
「おおおおおっ!!」
「ウ"」
脳みそが爆散しそうな勢いで棍棒を叩きつけ、前へと振り回されたシャノシェの狂人は、額までも床に強く叩きつけられて完全に動かなくなった。
それを確認したドミニクは踵を返し、
「どらぁぁぁあ!!!」
先程抜けてきた群れだ。そこから向かってくるスケルトンも狂人も全て棍棒の餌食とし、破壊者のごとく無双する。
そして一際大きな体のオリバー狂人を、
「あああああ」
「ウォ"……カ"ッ、アカ"」
「あああああ」
「ホ"……ォホ"」
一撃入れて床に引き倒し、顔面を何度も、何度も棍棒で打撃する。棍棒が折れても、狂人が死ぬまで構わず続けた。
他の狂人が襲い掛かるが、
「ッ!!」
「ヘ"ケ"」
噛みつき攻撃を躱し、ドミニクはそいつの後頭部を掴んで手すりに叩きつけた。血飛沫が舞う。
今度はスケルトンも向かってきて、
「オオ"オッ」
すぐにその腕を取り、背負い投げをかます。骨の体が真っ二つに砕けた。
(うぐ……)
大暴れして、今この瞬間にいくつかの命を救ったドミニクだが、返り血にまみれながら彼女は思う。
(……遅すぎた)
自分が臆病だったせいで。
自分がもっと早く動いていれば。
自分にもっと『勇気』があれば。
もっと、多くの命を、救えたのではないかと――
◆ ◆ ◆
ドミニクの大暴れを横目にしながら、イーサンはゆっくりと立ち上がる。
正面には、ドミニクのパンチを食らっても普通に立ち上がろうとする、変わり果てた妻の姿。
「……サナ。今だけ目を閉じてろ」
「え? ……パパ、パパなにするの……」
「お前は賢い子だ。わかってるだろ……」
「え、え……?」
イーサンはわかっていた――誰かが、妻にトドメを刺さなければならないこと。
ドミニクがそれをイーサンに託したこと。
そして――ドミニクがあれだけ強くても、暴れ回ってくれても、この死者たちを全滅させるには至らないことを。
「ああ……ニコル」
「アァア"」
「……娘を食おうとするお前なんか、もうニコルじゃない……そうだろ!?」
「ウ"ァァアッ!!」
質問にも答えない狂人が、涎を撒き散らしながら大口を開けてイーサンに迫る。
ナイフを構える。
「パパやめてっ!!!」
額に刃が深々と刺さって、狂人はイーサンの前でその身を倒した。
失ったものが大きすぎて、あまりにも尊すぎて、イーサンはもう泣く気にもなれなかった。
呆然と棒立ちするイーサンに投げかけられるのは、
「……あ……パパが……」
大事な娘であるサナの、震えた声が聞
「パパがころしたっ!!!」
恨み言だった。
目を見開いたサナはありったけの怒りを、憎しみを込めて、父親を罵るのだ。
「ころした、ころした!! ママをころした!! ひとごろし!! この、ひとごろしぃ!!」
「……ッ」
「ひとごろし! ママなんかどうでもよくなったんだ!! ひどいよ!! ひとごろし!!」
「……黙りなさい!!!」
その言葉にギリギリギリギリと歯を食いしばって耐えようとしたが、歯が折れそうになり、頭がおかしくなってしまいそうで、またイーサンは怒鳴ってしまった。
それでも、
「ひとごろし……ひとごろし、だぁ……!」
壁際で膝を抱えて座り込んだサナは、父親を憎むのをやめてはくれなかった。
憎まれてしまった父親は、どこまで行っても希望の欠片も見えないこの状況で、壊れてしまった娘のために必死でナイフを振るうしかない。
◆ ◆ ◆
「うおわぁっ!!」
所変わって、こちらは西棟二階。
スケルトンの多さに対応できなくなったホープ・トーレスが、床に押し倒されてしまったのだ。
「カ"カ"ァア"ア"! カ"チ"ッカ"チ"」
(あぁヤバいヤバい)
一体のスケルトンが覆い被さってきて、目と鼻の先で紫色の歯を噛み鳴らす。
噛まれて一瞬で死ねるならいいが、噛まれたら痛い上にしばらくは死ねない。
しかも覆い被さるスケルトンの後方からも、どんどん死者たちが集まってくる。
非常にマズい。
と、
「ふんーっ!」
コールが覆い被さるスケルトンを蹴り飛ばし、銃で頭部を狙い撃つ。
「どらぁあ!」
続いてドラクが、トンカチを振り回して後方のスケルトンたちを数体倒してくれる。
「あ、ありがとう……」
ホープは心からの礼を言う。仲間の存在にこれほど感謝したのは久々かもしれない。
眠そうなコールも汗だくのドラクも静かに頷き、戦いを続行した。
「旦那たち、耐えろよぉ! 何か打開策が出てくるはずなんだ!!」
非常口があるという東棟への渡り廊下へ進もうとするスコッパーが、激励を叫んだ。
そう、カーラとダリルが発明品を持って戻ってくるか、東棟への道を開ければ、少しは状況も変わるだろう。そこまで耐えれば――
「ん? おいアレ、ニックじゃねぇか!?」
ドラクが明後日の方向を見て、指差した。コールとホープもそちらを見る。
「ゲホ、待ちやがれレオン!! この、ゲホゴホッ、裏切りもんがああ!!」
咳き込みながら階段を降りてくるニック。彼の呼ぶ名の通り、階段の下にいるのは――
「レオン? あのローブって」
ホープはレオンが着ているあのローブに見覚えがあった。そして『裏切り者』という言葉――
「ニック止まれ、止まるんだ!!」
「はぁ? ホープ何を叫んでんだよ、レオンがいるんだからニックは大丈夫――」
「サイレンを鳴らしたのはあいつだ! ニックを待ち伏せしてるんだよ!」
「え!?」
呑気に安心していたドラクも驚愕する事実――ホープが見た、放送室から逃げて行ったローブの人物こそがレオンだったのだ。
「ニック!!!」
案の定、
「ぐふ……っ?」
「待ってたぜ、この瞬間を。哀れなニック・スタムフォードよ」
レオンが出会い頭に、ニックの腹をナイフで刺していた。




