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ホープ・トゥ・コミット・スーサイド  作者: 通りすがりの医師
第四章 障害に次ぐ障害
200/239

第183話 『闇夜に響く────』

お久しぶりです。今、どうにか書き溜めを作っています。やはり四章は長くならなそうです。

今回は記念すべき200エピソード目なんですよね。次回からはページ跨ぐんですかね?初体験だ…


展開として面白いか…矛盾は無いか…わかりませんがとにかく怒涛の急展開がやって来ます。

しばらく作者黙ります。楽しんでください。













「あぁ、ガイラスの容態のことなんじゃが……」



 廃旅館、西棟。ガイラスが寝かされている部屋の近く。

 腕組みをするニック、そしてホープを前にして――ハーラン医師が重い口を開いた。


「依然として悪くなるばかりじゃ。高熱も吐き気も、薬を飲んでも治まる気配が無い。辛そうじゃな……」


「…………」


「ずっと安静にしとるから腰の痛みは割と良くなったようじゃが……そこらの軽い病気ではないようじゃ」


「……何の病気かわかんねえのか?」


 ニックの直球な質問だが、ハーラン医師は素直に首を縦に振った。


「ジルの方は?」


 ホープは、同じく体調不良を訴えていたというジルの容態を気にした。ハーラン医師はまた悲しげに、


「……高熱。あとは吐き気も少しずつ出てきとる」


「あ……」


 言葉が出なかった。ジルもほとんどガイラスと同じような状態になってきているという。



「まさか感染症とかじゃねえだろうな……?」



 何もわからない、という状態ほど恐ろしいものはない。

 悪い想定をするニックだが、ハーラン医師も「気をつけるに越したことはない」と当たり障りのない返答しかできなかった。


 ――ホープたちが廃旅館に帰還してから半日が経過している。

 レイとメロンは未だに帰ってきていない。



◇ ◇ ◇



「ウゥ、ゲホッ……だい、ぶ……歩けるな……はぁ……はぁ……」


 深夜。

 みんなが寝静まった頃、ガイラスは理由あって壁伝いに廊下を歩いていた。


「おかしいよな……そんなわけあるか……」


 先程、咳が止まらなくなってしまい、何度も咳をしていると()()してしまった。

 普通じゃない。

 確かに咳はしていたが、血が出るほどの量とは思えないし、咳で吐血なんてあまり聞いたことがない。


「どんな……病気だよ……は、は……あっっちぃ……」


 目を閉じて弱々しく笑いながらも、眼鏡を整え、のろのろと歩くガイラス。

 とんでもなく汗をかいている彼は、深夜にも関わらずとある場所へ向かっていた。



◇ ◇ ◇



「よう、ニコルさん!」


「どうも。あなたが一日中作業していたって本当だったのね? ありがとう、私も少しシャワーを浴びたくって……」


 サナの母親ニコル・グリーンは、深夜にも関わらずシャワールームへやって来た。

 作業服を着た男がちょうど作業を終えたのかシャワールームから出てきて、廊下で鉢合わせたのだ。 


「おいおい確かに水道工事が上手くいって、シャワーも一つだけ使えるようにはなったが……こんな深夜に!?」


「眠れないの。どうせ明日、娘にもシャワーを使わせてあげたいし、下見も兼ねてと思ったのよ」


「そうか。まぁ気分転換も時にはしてぇよな」


 一応『亜人禁制の町』の頃から顔見知りである水道工事業者の男と、ニコルは軽く挨拶を終わらせる。

 簡単に用意したタオルや着替えを持ち込み、服を脱ぎ始める。明日のサナの喜ぶ姿を想像しながら。



◇ ◇ ◇



「はぁ……はぁっ……」


 壁伝いに歩くガイラス。汗が止まらない。

 この全身を包むような汗の気持ち悪さを取り払うため、彼はシャワールームへ向かっていた。


 少し、女性と男性の話し声が聞こえた。


 目眩がする。


 でも関係無い。この汗を流さねば。


「はぁ……ゲッホゲホッ……おぅ……」


 ついでにこの血も。咳をするたびに口から溢れ出る、このドロドロした赤黒い汚れを……


 そして眼鏡を整えるたびに手に付着する、




「なん……だ……これ……」




 ――この、()()()()流れ出る血も……



◆ ◆ ◆



「ん?」


 水道工事業者の男は、ランプを持って暗い廊下を進んでいた。

 まだシャワールームからは、そう離れていない。


 今、誰かとすれ違った。後ろ姿をランプで照らすとすぐにわかった。


「おお、何だよビビった。ガイラス〜……お前、まさかニコルさん覗きに来たのかぁ?」


 しっかり者の若者であるガイラスのことを、男は当然よく知っていた。

 みんな寝ていると思っていたのに、まさかこの深夜に二人も出くわすとは予想外で驚いてしまう。


「サナちゃんと仲良いのは知ってっけどよ、勢い余って親御さんとまで仲良くしすぎるのは気をつけろよ?」


「ああ」


 町では普通に使えていたため男もシャワーを使いたかったので、一日ぶっ通しで作業していてハイになってしまった。

 さらに深夜テンションまで重なってしまって、饒舌が過ぎる。


 でもガイラスは背を向けたまま冷静に返事している。


「ニコルさんだって女性なんだ。お前みたいに中途半端に顔の良い奴が近づきすぎると、良くはねぇわな」


「ああ」


「ま、イーサンさんとニコルさんのグリーン夫婦は仲良しで有名だからな。心配いらねぇか」


「あア"」


「だっ、はははは!」


 なぜだか男は自分の言葉が面白おかしくて、腹を抱えて笑い出してしまった。

 深夜だからもちろん大声にならないように気をつけているが、



「ははは……は?」


「ゥウ」



 異変。

 自分の笑い声の中に混じる、おかしな声に気づいて男がランプを再びガイラスの方に向ける。


 ガイラスが倒れていた。



「お、おい、だいじょ……だ、大丈夫そうだな」



 あまりにも急だったので驚き、心配したが、駆け寄る前にガイラスは自分で立ち始めた。

 ゆっくりと。


 男の方を向いて立ち上がってくるガイラスの顔色を見るため、ランプを彼の顔へ向ける。



「え?」



 眼鏡越しの両目は――おどろおどろしい紫色に染まり、そこから絶えず流血している。



「カ"ァァア"……」


「ちょ」



 開いた口の中には、同様に紫色に染まる歯が並び、




「ッ!? っぎぁああッ――――」




 ガイラスが、男の首元に噛みついた。











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