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ホープ・トゥ・コミット・スーサイド  作者: 通りすがりの医師
第四章 障害に次ぐ障害
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第182話 『シュガア編:良い酒』

正直軽くスランプかもしれません。やる事は確かにあるのですが、なかなか書き出せないのはそれと関係無いような気も…

とにかくレイの方のお話は今回で終了。さすがにホープとかナイトとか恋しくなりますか?自分もです…















 ちょうど、ホープたちが同じ町のショッピングモールから帰還した頃だろうか。

 ――シュガアと、そしてレイとメロンはシュガアのバーに戻ってきていた。


 とある『やるべきこと』を終えてから。


「外も暗くなってきた……とんでもない目に遭ってしまったな」


「ええ……」

「ヘトヘトです〜……」


 ポーラやジェクトやその部下たちを、スケルトンを掻い潜りながらほとんど全滅させた。

 それも老人一人と少女二人がだ。すごい話ではあるが、その分、体の疲弊が尋常ではない。


 しかも、


「レイくん……最後にポーラくんから俺を庇ってくれたこと、本当にすまなかった……」


 レイについては、ポーラから刺された左肩が相当痛むだろう。血の滲む包帯が、なお痛々しい。


「どうして謝るのよ……?」


「年齢を考えてみろ。俺のようなジジイを守って、もしも君のような若者が殺されていたら……」


「……意味はわかるけど、その話はやめましょ。助けるのにいちいち歳なんか気にしてられないわ」


「いや、しかしだな……まぁ……」


「あたし、今度はミルク飲みたいな。また出してくれる?」

「私も〜!」


 義理堅い、というのは基本良いことだが――行きすぎると良くなかったりもする。

 こんなにも寛大な少女たちに対して、これ以上の反論を重ねるのは野暮だと判断したシュガアは、



「ありがとう。君たちには感謝してもしきれない」



 一言、お礼を言って締めくくることにした。そして要求通り二人にミルクを差し出す。

 だがメロンは納得いかなそうな顔つき。


「私、何もやってませんよ〜? シュガアに助けられっぱなしでしたし〜……」


「いいや」


 いつも自信満々そうな彼女にしては珍しそうな発言だとシュガアも思ったが、明確な理由はある。


「友達のレイくんを助けたい――という熱い想いに、俺は久々に胸打たれたんだよ。君は、腐りかけていた俺の心を救ってくれた」


「え〜っと……」


 率直に言うと、メロンは少し照れ臭そうにした。レイ本人の目の前だからだろうか。

 言われるレイもまた、少し照れ臭そうだが。


「メ、メロン……そ、そんなにあたしのこと好きなの?」


「もっちろんですよ〜! ちゅっちゅしたいですよ〜、ちゅっちゅ〜って! べろべろ〜って! ずぞぞぞ〜って!」


「ひっ」


 ディープキスみたいなジェスチャーをするメロンに、レイは本気で引いている様子。

 自分では気づいていないが、シュガアの表情も自然と緩むのだった。


 ――苛烈な戦いを終え、静かなバーで、ミルクを飲んで、まったりとした穏やかな時間が流れる。


 レイは怪我をしている。動けないほどではないが、廃旅館まで戻るのは大変だろう。

 バーに泊まり、もう少し休んでいくことにした。


 疲れの溜まった三人ともが眠くなってきた頃。


 明かりの消えたバーの中で、無音の時間が続き、メロンがおもむろに口を開いた。


「レイ……ポーラと戦ってる時、()()()()()もたくさんいましたし〜、結構ボロクソ言われてた気がしますけど〜……」


「……ん?」


「大丈夫ですか〜? メンタル」


「あ……」


 魔導鬼のレイがその全身を、赤い肌を曝け出し、リング上でかなりの量の観衆に見られ、罵詈雑言を浴びる中でポーラと戦った。

 レイがメンタルの強い女の子ではないことを、メロンは見抜いていたらしい。


 シュガアはまだ見抜けておらず、今の会話でようやく気づけた部分もあった。

 ――そう考えると、あの状況はレイにとっては生き地獄だったろう。


「まぁ……胸を張って大丈夫とは……言えないかもしれないわね。でもあたし、ホープに教わった言葉があるから……挫けない」


「ヒュ〜ヒュ〜!!」


「え……あ、ちょっと違うわよ! そういう意味じゃなくて……っ!」


 ホープ――それがレイの想い人の名前なのだろうか。迷える少女へ人生に役立つ言葉を授けるなんて、偉大な男だ。

 何だかんだでレイは強い子なのだとは思うが、


「レイくん……少し聞いてほしい」


「え?」


 シュガアからも一つ、お礼以外に伝えておきたいことがあった。



「ポーラくんやジェクトくんたちは、過剰に『美しさ』に拘っていただろう。そのことで魔導鬼である君のことも罵倒してきたと思う」


「そうね……」


「彼女らは自分たちが一番『美しい』と考えていたが、俺からすれば、レイくんやメロンくんの方がよっぽど『美しい』と思う。もちろん見た目の話ではなく、な」


「えっ?」



 耳にタコができるほど『美しい』『美しくない』という言葉を聞いた一日だった。

 ポーラやジェクトは確かに、肉体や顔は『美しい』のだろう。しかし、そんなものは表面上に過ぎない。



「挫けぬよう、想い人の言葉を胸に刻み続ける精神……友達を助けるために持てる力の全てをぶつける情熱……それもまた『美しさ』だ」


「「!」」



 シュガアの言葉に、二人の少女が目を見開く。



「真の『美しさ』とは、押しつけるものではない」


「――――」


「誇示するものでもない」


「――――」


「君の心の中に、自然と眠っているものだ」



 自分の胸に掌を押し当てて、瞑目したシュガアが締めくくる。

 『君の』とは言ったが、それはレイやメロンだけではない。ポーラやジェクトだって含む全ての者たちに、眠っている可能性がある。

 それこそが真の『美しさ』なのだと。


 この言葉もきっと心に刻んでくれたのだろう――疲れからか、レイの目がとろんとしてくる。

 彼女はこのバーの中で、仮面を付けていなかったのだ。


「君たち……酒は、どうだね?」


「ふぁぁ〜……お酒ですかぁ〜? 一応18歳からって法律ありますよね〜……私もレイも17だし〜飲んだことありませんね〜。レイもそうだと思いますよ〜」


「だと思ったが……この世界は今、無法地帯のようなものだ。君たちも幾度となく『窃盗』『不法侵入』をやってきているだろう」


「あはは〜、確かに〜! ……レイも起きたら、三人で飲みたいかも〜!」


 もう座ったまま寝てしまったレイの代わりに、あくびをして眠そうなメロンが返答してくれる。

 シュガアは一つ、楽しみができていた。



「それは嬉しい……君たちとならば、『良い酒』が飲めそうなんだ」



◆ ◆ ◆



 ――死ぬとしても、こんな『美しくない』死に方はあり得ない。

 絶対にあってはならない。ポーラなら絶対にそう言うことだろう。


「ハァ……! ハァ……!」


 青髪の二枚目、ジェクトは荒い呼吸を継続させながら、床を這うように進んでいた。

 生意気な少女に()()を蹴られ、鉄パイプで顔を殴られても、まだ死ねない。


 こんな無様な、屈辱的な死に方があるか。


「ぼ、ぼっ、僕は……こんなところでは……」


 死ぬような男ではない。

 もしもポーラや部下たちが死んでしまっていたとしても、自分はそれらと共に死ぬような器ではないと思うから。


「く……!」


 しかし、この地下通路の扉を、向こう側からスケルトンたちが叩いてきてるのがわかる。

 あの少女についてきたスケルトンたちだろう。


 重く硬い鉄扉だからまだ大丈夫だが、早く別の場所へ逃げなければ、いずれは奴らが侵入してきて――



「……え?」



 何やら継続的な銃声のようなものが聞こえてきて、ジェクトの耳朶と心臓を震わせる。


 途端に、全ての音が消えた。


 スケルトンたちが扉を叩かなくなった。気配も感じない、完全に消えているのだ。



「そらよっ!! 誰かいるぅ!?」



 大量のスケルトンたちが破れなかった鉄扉を、蹴り一発で豪快に開けたのは、一人の女だった。


 何の特徴もない服装、地味な黒髪、どちらかというと地黒の肌。

 彼女はどこにでもいそうな、普通の女――両手に抱えた武器を除けば。



「何だあれは……」



 ミニガン?

 彼女の身長とさして変わらない、馬鹿デカい銃を軽々と持っている。

 その一点だけがあまりにもファンタジックで、ジェクトは目を疑った。



「あり、あり? ありり? そこのお前さぁ、もしかしなくても青髪じゃね? こんなとこでマジでターゲット発見しちゃったかなぁ、ウチ天才。はは」



 もうどこにもスケルトンがいなくなってしまった向こう側から、女は笑顔を向けて歩いてくる。

 まさかあの女、ミニガンで全てのスケルトンを……



「質問な。単刀直入な。お前さぁ、『赤い目』とかって持ってんの?」


「は……はぁ……?」



 床に血痕を残しながらどうにか這いずっているジェクトに近寄り、腰を折った女は当然のように聞いてくる。

 今にも死にそうなジェクトだが、何故だろう――この女に助けを求める気にはならなかった。



「知らない……全然、意味がわからない……僕は『美しく』死ぬんだ……放っといてくれ」


「ふーん。じゃ死ねよ」


「は――――」



 女はミニガンを撃ちまくり、ジェクトの頭を吹き飛ばした。



「美しい死なんかねぇよバァァァカ!!」



 既に死んでいることはわかっていても、女はミニガンの連射を止めない。

 頭のてっぺんから、足の先まで、入念に弾丸を浴びせて消し炭のようにしていく。



「死にかけの奴は嘘をつかない。これ鉄則な。ってことは本当にターゲットお前じゃないわな……よっしゃ」



 女は独り言を続けて――




「さっさと行くか。廃旅館とやらに」




 立ち上がり、歩き出した。



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