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ホープ・トゥ・コミット・スーサイド  作者: 通りすがりの医師
第四章 障害に次ぐ障害
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第180話 『シュガア編:そして今に至る』

やっと話が第168話『シュガア編:前代未聞』に追いつき、未来へ進みます。











 ものすごい音がした。

 今しがた二人の少女と別れたばかりのシュガアだったが、無我夢中で店の外へ飛び出すと、


「レ……レイ〜〜っ!?」


 楽観的なメロンにしては悲痛な叫びが響き、彼女はハンドガンを抜く。


「メロンくん、よせ! 下手に相手の怒りを買ってしまっては」


 シュガアは止めようとしたがもう遅い。

 怒りに支配されたメロンは、レイを車の後部座席に放り込んだ女に狙いを付け、


「きゃあッ!」


 女の腹を撃ち抜く。

 倒れる女に気づいた反対側の男がライフルを構えた。


「こっ、このガキっ!?」


 連射されるライフルの銃弾が狙うのは『目』だろうと読んだのか、メロンは転がって回避。

 道路に腹ばいになったメロンに追加の銃撃が来るが、


「……っ」


 ゴロゴロと転がって避け、再び腹ばいになったメロンの銃が二度、三度と火を噴いた。


「がぁッ!!」


 腹や胸を撃ち抜かれた男が倒れ伏すと、運転席の男が仲間の死体に「ひいっ」と怯えた声を上げてアクセルを全開に踏み込む。

 後部座席のドアが両側とも開いたままで、レイを乗せた車が走り去っていく。


「待てぇ〜〜〜ッ!!」


 タイヤを狙って何発か撃つも当たらず、メロンは銃をしまって全力疾走を開始。

 車はもう見えなくなった。それでも走ろうとするが、


「待つんだ。メロンくん」


「はぁ〜!?」


 シュガアが彼女の腕を掴み、止める。

 案の定メロンは睨みつけてきて、手を振り払う。


「何なんですかあなた〜、さっきから向こうの肩を持つような発言ばっかり〜! あいつらの仲間なんじゃないですか〜!?」


 メロンの表情から――笑顔が消えている。


 これがどれほど珍しいことか、会ったばかりのシュガアにはわからないはずなのだが、何か特別な理由がある気がした。


「勧誘されたことはあるが全て断ってきた。誓うよ。君たちに協力する」


 シュガアは自身の胸に手を当て、本心からそう言った。なぜ少女たちにここまで情が湧いてしまったのか、自分でも説明はできないのだが。


「メロンくん、君は相手を二人殺した。連中の怒りを買ったんだ。ここからは慎重に行動するんだ」


「……あのですね〜?」


「ん?」


「勘違いしてますよ〜、シュガア……」


 シュガアに背を向けて俯いたメロンは、声を震わせ、また、握りしめた拳も震わせていた。



「……喧嘩を売られたのも、怒ってるのも、こっちなんです!!!」



 少女が叫ぶ。

 どんな感情が乗っているのか他人には絶対に理解できないだろう、複雑な声色だった。



「仲間……です。レイはもう私の、仲間です。友達なんですっ! 遠くになんか……遠くになんか絶対に行かせません!!」



 少女が叫び続ける。

 シュガアは圧倒されてしまった――こんなにも熱い感情に触れるのは、いつぶりだろうか。

 自分にもこんな時期があったはず。歳を取り、いつの間にか忘れてしまったものだ。


 この熱量ならば、この本気度ならば、きっとレイのことも無事に取り戻せる。確信したシュガアは頷く。


「言っただろう。俺は協力すると」


「…………」


 何を思っているのか、メロンは沈黙。


 両手にガントレットを装着したシュガアは、サスペンダーを整えて、倒れた女に近づく。

 連中のアジトを聞き出すためだった。


「……五番街、にある……クラブの地下……地下闘技場……が……っ!」


 聞いたシュガアは町に詳しいためか場所がわかったらしく、満足げに頷く。


「お前……ら……ポーラ様……と、ジェクト様に……殺されればいい……っ」


 物騒な恨み言を断末魔とし、息も絶え絶えの女は絶命する。


 シュガアが振り返ると、


「ォォオ"オ」

「ロ"ォ"ォア"ァア」

「アァ"」


 車の音、度重なる銃声や怒号に引き寄せられてスケルトンや狂人たちが集まってきていた。

 大した量ではないが散らばっており、先に進むには非常に厄介な障害物だ。


「銃弾もそう潤沢にあるわけでもないだろう……俺が道を開く。メロンくん、ついて来るんだ」


「……いいですけど、どうするつもりです〜? ()()でぶん殴るんですか〜? そんな非効率的な――」


 怒りの表情のメロンが心無い言葉を浴びせかけるが、シュガアは右のガントレットを無言で構え、



「――――ッ!!!!」



 ガントレットの握り拳から放たれた極太の衝撃波が、真っ直ぐに駆け抜ける。

 直線上のスケルトンが弾け飛ぶように死滅し、散らばるスケルトンたちの中に確かな一本道を切り開いたのだ。


「な、何ですかそれは〜!?」


 あまりに非現実的なことが目の前で起こり、メロンは仰天を隠せなかった。

 シュガアは腕を回しながら、


「君たちならば――言っても良いか。君たちもいつか遭遇するとは思うが、この荒廃した世界で『武器商人』を名乗る者がいるんだ」


「…………」


「…………」


「…………え〜? 説明終わり〜?」


「『武器商人』だぞ? ここから先は言わずとも察せるだろう」


「いやその人から買ったのはわかりますけど〜……何かツッコミどころ多くないですか〜?」


 妙に思わせぶりな言い方をしてしまったシュガアに突っかかるメロンだが、この話はここで打ち止めとなり、二人は目的地へ走ることを優先した。



◇ ◇ ◇



「あった……このクラブの地下に闘技場とやらが……」


 シュガアの土地勘は凄まじく、スケルトンを蹴散らしながら記憶通りに走っていると辿り着いた。

 当然、営業などしていないクラブ。

 店の外のネオンは役目を終えたようにもう光ることもなく、店内も喧騒とは程遠い。


 先に店内へと入ったシュガアに、メロンも続くように入ってくる。

 階段や扉があるかと周囲を見回すが、



「〜うっ!」


「!?」



 少女の短い悲鳴が聞こえてシュガアは咄嗟に振り返ると、倒れるメロンの後ろに一人の男。

 手にはスタンガンが。


「図ったな……ぬ、ぐぉっ」


 振り返っていたシュガアも、背後から押し当てられる電撃に倒れることとなった。

 が、彼の鍛え上げられた肉体は、少しだけ彼の意識を長引かせてくれる。



「……ジェクトくん、何故……あの魔導鬼の少女を……?」


「それに関しちゃ偶然だ、と部下は言っていた! 運命を呪うといいさ、オッサン!」


「っ……ぐぅ……」


「ポーラが会いたがってる――光栄に思え、『美しくない』君たちが会えるなんてさ!」



 シュガアにスタンガンをかましたのは、ジェクトと呼ばれた青髪のイケメン男だった。

 もう一発スタンガンを食らったシュガアは、今度こそ意識を手放す――――



◇ ◇ ◇



 ――――こうして、現在に至る。


 つまり経緯としては、シュガアは今日もただの店番をしていた。

 そして少しだけ外出したら奇妙な少女の二人組に出会い、その片方がポーラのグループに誘拐された。


 結果この状況である。



「レディース・アンド・ジェントルメン!! この荒廃した世界に、花は一輪で充分!! 『パワー』とは『美しさ』! 『スピード』とは『美しさ』! 『タフネス』とは『美しさ』! 『強さ』すなわち『美しさ』である! 勝者こそが『美しい』! 誰もが待ち望んだ二人の女性の、熾烈を極める『美しさ』を賭けた戦いが……今始まる!!!」


「「「うおおおお!!!」」」

「「「ポーラ様ぁぁぁ!!!」」」


「「「ア"ア"ァアァ"ァア"」」」



 青髪のイケメンがマイクに向かって叫び、開戦のゴングが鳴れば、観客席の人間たちが歓声を上げる。

 リングの周囲のスケルトンたちが、満たされることのない空腹を訴え続ける。


 金網がリングを囲んでいるため、レイが直ちにスケルトンに食われることはないが――


「何という、ことだ……!」


 誰が死んでもおかしくない、前代未聞の状況。

 シュガアは歯を食いしばる。


 ここが『地下闘技場』だろう。

 金網に囲まれて逃げ場の無いリングの中で、向かい合うのは二人の下着姿の女性。


 レイとポーラ、それぞれ片手に装着されているのは、


()()は立派な兵器だ……! 遊びで使っていいものではない……!」


 シュガアが愛用している、衝撃波を放つことができるガントレットだった。

 気絶している間に奪われて利用されてしまったのだろう。当然メロンの銃も、一緒にレイの仮面なども奴らに没収されている。


「ちょっとシュガア〜!? ヤバいですよ、あのままじゃレイが死んじゃいますよ〜っ!!」


「おい、暴れるな……! 落ちるぞ」


 青髪のイケメン――ジェクトによれば、シュガアとメロンを吊っているこのロープは、暴れたりすれば切れてしまうほど弱い。

 さらに、レイが敗北した時には手動で一気に落とすという。


 下にはスケルトンの大群。余計なことをすれば死期が早まっていくだけだ。


 シュガアはメロンを黙らせ、状況を静かに分析していくことにした。


「……スケルトンを殺しながらここまで来て……あの時、最後は確か……」


 あのガントレットは衝撃波を放てるが、振り回せば常に出るわけではない。

 シュガアにしかわからないのだが、設定ができるのだ。衝撃波を出すか出さないか。出すとすれば、その強さを。


「どっちだったろうか……」


「え〜? さっきから何を考え込んでるんです〜?」


「……いや、あのガントレットの衝撃波……どちらか片方が『出ない』設定で……もう片方は『最強』の設定で終わっているんだ……」


「え、え〜っ!?」


 気絶させられたせいで、最後がどちらだったか忘れてしまった。

 レイとポーラ、どちらのガントレットが『最強』なのかで大きく運命は変わるだろう。


「じゃ〜レイの持ってる方が『最強』じゃなかったら終わりじゃないですか〜! どうにか設定を確認したり変えられないんですか〜!?」


「難しいな……叫べばレイくんに声は届きそうだが、確認も設定も方法が複雑だ。俺なら見れば理解できるが、他人に説明するのは……」


「クソったれ兵器め〜!!」


 ボヤくメロン。

 付け加えると、叫んで一生懸命に説明するとしても、リング上で戦わされるレイにそれを聞く余裕があるとも思えない。


「ポーラくんも俺のガントレットの仕組みを、そこまでは知らないはずだ……」


 つまりこの戦い、レイの運だけが頼りである。



「――せやぁぁッ!」



 どうしようもない状況だと理解したシュガアの眼下、ポーラがレイに向かって突進。

 緊張や不安で直立不動のレイに対し、ポーラはガントレットを振り上げようとするが、


「っ!? 重い……!」


 予想以上にガントレットの重量があったらしく、振り上げきれない。

 ポーラは胸の前にガントレットを抱え、押し付けるようにレイに体当たりする。


「くっ」


 だがレイも同じくガントレットを胸の前に突き出し、それをガード。

 二つのガントレットがぶつかり合い、火花を散らす。


 見ているシュガアもメロンもヒヤヒヤしているのだが、ガントレットは振り回さねば衝撃波が出ない。

 だからといって安心もできないが。


「生意気に張り合ってくるじゃないの、魔導鬼ちゃん。でもね?」


「……っ!?」


「どう考えても『美しい』のは私よ!!」


 鍔迫り合いになっていたところをポーラが一段階上の力を出してきて、


「きゃあ!」


 レイは押し負けて、数歩後退させられる。

 そこへ、


「ふぅんッ!!!」


「あぅ!」


 ポーラはガントレットの無い方の手で、レイの生身の腹に重いパンチを入れた。

 呼吸もままならないのか、レイは苦しそうに呻いて腹を押さえている。


「――いいかしら? 真に『美しい』女っていうのはね、肉体も『強く』『美しく』鍛え上げるの。細けりゃいいと思ってたり、猫撫で声で男に甘えるだけだったり、強さを魔法に頼ってるようじゃ、未熟者なのよ」


「うぅ……あ、あたしは……そんなの考えたことも、ないわよ……バカじゃないの……?」


「あら論外。レディーの風上にも置けない奴、ね!」


「ぁぐっ!?」


 喋っているところから流れるように放たれるポーラの蹴りが、レイの脇腹に命中。

 よろめくレイだが、


「やっぱり私より『美しい』女なんて……この世界にはいないようだわ!」


 ポーラが右手のガントレットを左手を使って持ち上げ、そのまま振りかぶるのに気づく。


 とんでもないパワーだ。

 シュガアは知らないが――レイにとっては左手のガントレットの外し方を模索する以外のことを考えられないほど重くて、ぶら下げているのがやっとだというのに。


「あなたは私の『美しさ』の、糧にしてあげるわ!」


 ポーラが振るうガントレットがレイに向かって近づいていく。それは光り輝き――



「レイくんっ、死ぬ気で避けろっ!!!」



 シュガアはその光を見て、年甲斐もなく無我夢中で叫び散らした。

 そうだ。『最強』にしたのは右手のガントレットだった。



「――――ッッッ!!!!」



 どうにか躱したものの、レイの顔の真横を通り過ぎた鉄拳の先端からは衝撃波が飛び出す。

 それは金網に風穴を空け、その先のスケルトンたちも一直線に死滅するほどの威力。


 レイは、天に見放されたのだ。










ちなみにこっちサイドの話はもうすぐ終わり、後は怒涛の展開で四章終わらせようと思ってます。

作者の文章力と構成力さえ釣り合えば今までで一番の衝撃展開…?

とにかく久々にスケルトンや狂人が猛威を振るいますし、久々に人も死にまくるので覚悟が要るかもしれません。

この章は短めにしたいですが…

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