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ホープ・トゥ・コミット・スーサイド  作者: 通りすがりの医師
第四章 障害に次ぐ障害
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第179話 『誘拐』

すいませんお久しぶりです。

自分を慰めるので精一杯で…どうして小説を書くことが慰めにならないのか自分でもわかりません。


四章は群像劇臭が強めだと思うんですけど、やっぱり無関係かと思ってたキャラクターが合流すると面白いというか、安心しますよね(笑)











 様々な種類のワインボトルや、ピカピカに磨かれたグラスの並ぶ棚。

 光沢と重厚感のあるカウンター。


 ――レイとメロンは今、見知らぬバーのカウンター席に腰を落ち着けていた。


 いや、落ち着かない。

 落ち着けるわけがなかった。


「ちょっとちょっと〜、おじいさ〜ん!」


「……?」


「うら若い美少女二人をこんな怪しい店に連れ込んじゃって〜、変なことするつもりですかぁ〜?」


「何を言い出すかと思えば、誘拐犯の扱いか」


 笑顔のメロンはカウンターの向こう側にいる、『シュガア』と名乗った渋い老人に問いかける。

 呆れたように目を閉じて呟いたシュガアは、


「匿ってやると言ったはずだ。連中に絡まれるよりは、よっぽど平和だと思うが」


「連中ってのは『ポーラ』とかいうやつがリーダーの、あのチンピラみたいな奴らですよね〜? 知り合いなんですか〜?」


「君たちよりかは知っているだろうな」


 年相応の余裕ある受け答えをするシュガアは、流れるように二人にコップを差し出す。

 カウンターを軽く滑ってきたコップの中身は、


「この怪しげな白い液体は何ですか〜?」


「どうして、そうも不快な表現ができるんだ。これはただのミルクだ」


「酒場でミルクですか〜」


「は、背伸びする必要は無い。君たちは子供だろう。素直に飲むといい」


 言われたメロンは意外にもミルクを一気飲みし、「ぷは〜っ!!」と叫ぶ。

 シュガアが彼自身の口元を無言で指差し、メロンは自分の口元に白いヒゲができているのに気づく。


 と、


「……君はどうした? 体調が優れないのか」


「……!」


 シュガアと遭遇してからずっと顔を両手で押さえている、ゴスロリ衣装のレイ。

 手を動かしていないから、もちろんミルクも飲まないわけだが、


「……メロンあんた、よく飲めたわね。このミルク、消費期限とか大丈夫なの?」


「あ〜! 考えてませんでした〜」


 こんな世界だ。

 店なんか普通は営業もしていないし、当然だが、商品が新たに入荷してくるなんてこともない。

 缶詰めとか保存食だとか、自給自足でもしなければ、腐った食料ばかりを腹に入れることになるのだ。


 このミルクもそう。まさかバーの裏で牛なんか飼っているわけでもなし、とレイは訝しんでいた。


 しかし、シュガアは首を横に振って、


「大丈夫だ。長くなるから説明はしないが、特殊な方法で保存している。他の酒などもそう……俺は飲み物を無駄にしたくないから」


 説明し、彼本人も同じミルクを飲んでみせた。

 嘘は無さそうだが、


「そ、そうなの……でも、そんな大事なミルクをあたしなんかに飲ませても良いわけ!?」


「……?」


「あたしが顔を隠すこの手を外したら、シュガア、あんたはどうせ後悔するわ!」


「…………」


 未だに、強制的に外された仮面はメロンが持っているのだ。

 あまりにも卑屈なレイに、じとーっとした視線を向けるメロンは、


「……その顔を隠してる手も〜、ガッツリ露出してて赤いんですけど〜? それに脚も出てるんで〜、最初に会った時にはシュガアにはバレてますよ〜」


「ヴッ!!」


「どっから声出しました今〜?」


 ――わかっていた。

 いくら視野の狭いレイだって、普段の百倍くらい露出度の高いこの格好をしていてバレないわけがないことぐらい、わかっていた。


「ちょ、ちょっと! あんたはどうして何も言わないのよ!?」


 片手だけ顔から外し、シュガアを指差すレイ。

 彼はほくそ笑んで、


「魔導鬼、ということか。噂には聞いたこともあるが――あまりにも強くなさそうで、拍子抜けしているところだ」


「うぐっ、こっ、こんのっ……!」


「あははは〜!!」


 図星を突かれたレイは――シュガアに差別する気が全く無いことには気づかず――歯噛みする。

 そんな様子に腹を抱えて笑っていたメロンだが、


「あ〜、でも、レイ〜? 私もさっき初めて魔導鬼だと知ったわけですけど〜、ショッピングモールでのあの『魔法』はスゴかったですね〜!」


「え? あ、そ、そうね」


 ついさっきの出来事なのにレイは完全に忘れていたため、やや反応に困った。


「君たち……あそこに行ったのか? 今は化け物の巣窟だったはず。よく生き延びたな」


「そうなんです〜! だってレイが群れの中に落ちてくあの状況〜、ただの人間だったらチャンスすら無く死んでましたからね〜!」


「確かに……」


 あの瞬間、ただ恐ろしかった。死んだと思った。

 すると咄嗟に抱き締めた杖が光り輝き、地面を波打つように爆破させ、レイを救ってくれたのだ。


 魔法が自動で発動した、と表現するべきか。


 もしかすると、レイの必死の祈りが杖に伝わり、魔法のトリガーになったのかもしれない。

 そこまではわからない。レイは誰からも魔法についてちゃんと教わったことがないのだから。



「ところでレイ〜、あの時って『誰か』のことが頭に浮かんだりしました〜?」


「ああ、それはもちろん……えっ!?」



 ――ホープ。

 落下中のレイの脳裏には、ホープという名前、彼の無表情が映っていたような気がする。


 それを答える前に、



「あ〜すいませんもう答えなくていいですよ〜! だいたい誰なのかわかりましたからね〜!」


「あんたバカにしてんの!? ねぇ! ねぇ!?」



 ニヤニヤしながらメロンに先を越され、レイは彼女の肩を掴んで前後に揺らしまくる。

 この気持ちの表現の仕方が、暴力以外には思いつかなかったから。


「……想い人がいるのか」


 シュガアが柔らかな表情で聞く。


「そうなんですよ〜! でもこの子バカですから〜、ケンカしちゃってんですよ〜!」


「誰がバカよっ、こっちは真剣なの!!」


 若き二人のやり取りに表情を柔らかくしたままのシュガアだったが、



「君たち、二人じゃないんだな」



 その一言でメロンのスイッチが入ってしまう。



「おっと話しすぎました〜。それ教えるメリットあります〜?」


「や、やめなさいよ!」



 メロンも『しくじった』とでも思ったのか腰のハンドガンに手を添えたのを、レイは必死に止める。

 ――匿ってくれて、こんなに長く話をして、貴重なミルクも提供してくれて、レイを悪く言ったりもしない。


 シュガアを悪人とは思えない。思いたくない。

 綺麗に別れるならば、頃合いだ。


「もう行きましょ」


 だからレイは、彼に敵対心の芽生えそうなメロンの腕を引っ張った。


「ありがとね、シュガア!」


「…………」


 無言の店主にお別れという名の感謝を伝え、レイは足早に退店。

 メロンもそれに乗って勝手に歩いてついてきてくれたので、手は離した。



「あ。あたしもミルク飲めば良かったな」



 一口も飲んでいないことを思い出し、またあの店に行く機会があるだろうかと天を仰ぐ。


 そして。



「え?」



 仰いだ青空が突如として歪み、レイの視界から消えてしまった。

 いや、そうではない。



「レ……レイ〜〜っ!?」



 メロンの声が遠く聞こえる。


 そうだ、レイは、吹き飛ばされた。そして意識が途絶えかけているのだ。



「――おお、こりゃ女……人間じゃねぇのか!?」

「面白いじゃない。ポーラ様に見てもらうわよ!」

「乗せろ乗せろぉ」



 レイを轢いた車から数人の男女が降りてきて、動けずにいるレイを車へと放り込んだ。



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