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ホープ・トゥ・コミット・スーサイド  作者: 通りすがりの医師
第四章 障害に次ぐ障害
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第177話 『歪んだ友愛』



 たった一本、腕と腕で繋がっているだけの二人の少女の視線が交わる。



「――――」



 ショッピングモール二階の柵の外へ放り出されたレイは、メロンの手にぶら下がるしかない。

 下に待ち構えるは、スケルトンや狂人。生物の肉を喰らうだけの化け物たち。


 正体を明かせ――そう言ってきたメロンを見つめる仮面の下の表情には、不安しかない。



「――――」



 一方、『笑顔』という名の『仮面』を顔に張り付けたような少女メロン。

 この状況でレイの正体を問うた彼女の瞳は揺るがず、レイに向けた銃口もまた揺るがない。


 ――その横から迫り来るは、スケルトンや狂人。生物の肉を喰らうだけの化け物たちだが、


「レイ〜、早くしてくださいね〜」


「ホ"ォカ"ッ」

「オ"コ"ッ」


 メロンはノールックで銃を一瞬だけ横に向け、すぐ真横まで接近していたスケルトンどもを排除すると、またレイの方へ向け直す。


 何なのだ、この執念。



「……ねぇ、あんた死にたいの?」



 異常に冷静なメロンにつられて、レイまで冷めたような態度で質問してしまう。


「それ脅しですか〜? あなたごときに私がビビるとでも思ってんですか〜?」


「ち、違うわよ! あたしの正体を知りたいからって……どうしてそこまでするの!? こんなことしてたらあんたまで死ぬじゃない!」


 本当に脅すつもりなどなかった。言葉の綾だ。

 ただレイなんかの秘密を知るためだけに、ここまで自分の命を危険に晒すメロンのことを心配しただけ。


 メロンはそれを理解したようだが、


「――死にたいわけ、ないじゃないですか〜。早く言ってくださ〜い、そしたらすぐ引き上げてトンズラです〜!」


「もうっ、何なのよ! バカじゃないの!?」


「だって〜レイみたいなタイプって〜、こうでもしないと白状しないじゃないですか、どうせ〜!」


「なっ、かっ、勝手に……っ!」


 勝手に決めつけてんじゃないわよ、と言い返したかった。だが、頷けてしまう。

 またしても正論でパンチされた気分だ。


 しかし、



「ど、どうしてあんたが急に、そんなにあたしのことを……?」



 最大の疑問はそこだった。

 今、またメロンは襲おうとしてきたスケルトンと狂人を撃ち殺した。

 また銃口をレイに向け直して、



「私、表情も種族もわからない人と仲良くなれる気しないんですよね〜」


「っ!!」



 さすがのレイも、もう聞き返さなかった。

 つまりメロンはレイと仲良くするための第一のステップを踏んでいる、ということなのだ。


 と、解釈しておこう。


 恐ろしいものは恐ろしい。

 もしこの解釈が当たっていたとしても、第一ステップから銃を向けてくる人間なんて異常者で間違いない。


 歪んだ問答に終止符を打つには、


「もう。わかったわよ……言うわ」


 どう考えてもこれしかないだろう。

 今の言葉にメロンの瞳が少しだけピクリと動いたような気がしないでもないが、それ以外は微動だにしていなかった。


「……あ、あたし……」


 まさかとは思うが、言った瞬間に彼女が引き金を引いたらどうしよう。

 かなりの時間をかけて腹から上がってきた言葉が、喉でつっかえた。


「あたしは……っ!」


 今までレイが真実を打ち明けて、酷い目に遭った確率は案外、低いのかもしれない。

 けれども恐怖が消えることはない。


 オースティンと決別したバスルーム。


 ティボルトが怒り狂って追いかけてきた森。


 ヴィクターが刀を抜いて――ホープが代わりに死ぬところだった、あの最悪の夜。


 忘れることはない。

 打ち明けてギクシャクしたパターンは、どれも強烈に印象に残っている。

 この運命からは逃れられないのか――




「魔導鬼、なの……」




 打ち明けた。

 メロンの表情は変わらない。



「え?」



 ――気づいたら、レイは空中に一人ぼっちだった。



「え、えっ、ええええあああぁ――――っ!?」



 メロンが手を離したのだ。



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