第168話 『シュガア編:前代未聞』
ホープたちが、とある荒廃した町の、とある荒廃したショッピングモールに向かっているのと同時刻――
偶然にも同じ町の、また別の場所で事件は起きていた。
「明かりが! ……って何ですかコレは〜っ!?」
「……してやられてしまったな」
真っ暗だった巨大な地下空間が、突如眩しいライトの光で満たされる。
白髪頭に白髭の中年男――シュガアは、メロンという名の少女と一緒に捕まっていた。
天井からぶら下がったロープのようなものに、二人揃って腹を縛られ、空中に吊られているのだ。
下には、
「う、うわ〜っ! 下見ちゃいました〜!!」
「……!」
「「「カ"アァァア」」」
「「「ゥホ"ォォアァ」」」
大量に敷き詰められたスケルトンたちが、大口を開けて、手を伸ばして待っていた。
吊られている高さは、スケルトンが手を伸ばしても届かない高さではあるが……
「無様だね、オッサン! 暴れたらロープが切れて終わり! そしてあの魔導鬼の女の子がポーラに勝てなければ……」
「おわ〜!?」
「っ!」
天井付近で制御盤のような物を操作する、青髪のイケメン男。
ガクン、とロープが一段階、下に降りた。
「僕はこのロープを一気に降ろす! 君たちはスケルトンたちの餌さ! ……あと、長引く戦いは『美しくない』からね、時間経過でどんどん降ろしていく!」
「君、やめないか!」
「レイ〜っ!?」
楽しげにレバーを操作するイケメンにシュガアが怒鳴る一方、メロンは仲間の少女の名を呼ぶ。
『レイ』と呼ばれた少女は、たった今ライトアップされた特製の『リング』に立っていた。
金網に囲まれた、二人の女性。
「ウフフ、どう? 今の気分は? 『美しい』でしょう、このリング……」
「気分? ……最悪よ!」
「全く『美しくない』わね、あなた」
ポーラと呼ばれた美女は、長く伸ばした赤毛の髪を振り乱し、楽しげにレイに問う。
だが、レイの態度はその真逆。
「仮面も、服も、あと杖も! 返してよ!! どうしてあたしがこんな格好で戦わなきゃいけないの!?」
「決まってるわ、どちらが『美しい』のか競い合うためよ……何、肌を出すことがそんなに恥ずかしい?」
「当たり前でしょ!?」
「別に良いけれどそれは『美しくない』し、勝負には勝てないし、おまけにお友達もスケルトンに食べられてしまうわよ?」
「……っ!」
――女性は二人とも、ブラジャーとパンツのみの、完全なる下着姿。
さらにそれぞれ片方ずつに、黒く硬い、妙な『篭手』のような武具を装備している。
ポーラは普通の人間で、その美しく引き締まったボディーラインや白い肌を堂々と、惜しげもなく晒している。
しかしレイは魔導鬼。顔も体も、普段から隠したがっている真っ赤な肌が、晒されているのだ。
シュガアとメロンはもちろん、天井付近の『観客席』から大勢の他人に見られている。
「レディース・アンド・ジェントルメン!! この荒廃した世界に、花は一輪で充分!! 『パワー』とは『美しさ』! 『スピード』とは『美しさ』! 『タフネス』とは『美しさ』! 『強さ』すなわち『美しさ』である! 勝者こそが『美しい』! 誰もが待ち望んだ二人の女性の、熾烈を極める『美しさ』を賭けた戦いが……今始まる!!!」
「「「うおおおお!!!」」」
「「「ポーラ様ぁぁぁ!!!」」」
「「「ア"ア"ァアァ"ァア"」」」
青髪のイケメンがマイクに向かって叫び、開戦のゴングが鳴れば、観客席の人間たちが歓声を上げる。
リングの周囲のスケルトンたちが、満たされることのない空腹を訴え続ける。
金網がリングを囲んでいるため、レイが直ちにスケルトンに食われることはないが――
「何という、ことだ……!」
誰が死んでもおかしくない、前代未聞の状況。
どうしてこんなことになってしまったのかと、シュガアには歯を食いしばることしかできない――




