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ホープ・トゥ・コミット・スーサイド  作者: 通りすがりの医師
第四章 障害に次ぐ障害
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第167話 『上の空』



「ッ……スゥゥ……」



 ホープを見つけたナイトが最初に起こした行動は――目を逸らし、下唇を噛みながら、薄く息を吸うことであった。


「ナイト……?」


 その仕草はホープの勘違いでなければ、かなり『気まずそう』な仕草だろう。

 探されていた理由がますます気になってくるが、


「いや、悪ィ。てめェを探してたのァ……」


「――誰か『ラボ』の近くにいると感じてはいたが、てめぇだったのか、吸血鬼」


「あァ?」


 ナイトの話を遮るようにホープの後ろから登場したのは、ホープを『ラボ』という名の倉庫部屋から追い出した張本人。

 カーラだ。彼女はまたしてもホープに親しげに近寄ってきて、首に腕を回してきて、



「教えといてやるよホープ。この吸血鬼な、てめぇに隠し事してんだ。かなりデリケートなやつをよぉ」


「え……?」



 ナイトを指差しての衝撃発言。


 黒マスクで口元の見えないカーラだが、「ッ!」とあからさまに驚くナイトを見てニヤニヤしているのが目元だけでわかる。

 ホープよりも歳下っぽい彼女が生意気そうな表情をすると、どうしても『メスガキ』なんて言葉が似合うものだ。



「おれ見たんだよ。この吸血鬼と、仮面の女が、廃旅館(ここ)から離れたとこで密会してんの。やけに距離も近くてさぁ」


「レ、レイと……?」



 ナイトの反応からしても、少なくとも嘘ではないらしいが、どういうことなのか。

 ――あまり良くない想像はしたくないのだが。


「おいてめェ、女。誰だか知らねェが、事情もわかってねェ奴が余計なこと広めんじゃねェぞ」


 どうやらナイトもカーラの容姿は見たことがなかったらしく、誰だかわかっていない様子。

 そして、若干怒っているように睨みつけている。


「んな睨むなって、色男。しかも『知らない』なんて傷付くぞ。おれはカーラ、ずっと仲間だろうが」


「あァ……? あァ『発明家』の女かよ。名前以外のことァ知らねェんだ、んなもん初対面も同じだろ」


「はは、否定はできねぇな」


「『盗み見』に『盗み聞き』重ねてねェで、発明家らしく閉じ籠もってやがれ」


 初対面に等しいナイトとカーラが問答している間、当然ホープは上の空であった。


 つい先程――ナイトは会って早々に『気まずそう』な仕草をした。

 何か、やましいことが無ければあんな仕草をする必要はないはず。しかもナイトには珍しい行動。


 まさか、本当に、レイとナイトが……



「んじゃ、ま、頑張れよホープ」


「ぶっ!?」



 カーラは楽しげにホープの鼻をつまんで、意気揚々と『ラボ』の部屋へ戻っていった。

 仕方なくナイトと向き合うと、



「……ニックが呼んでた」



 最初から伝えたかったのだろう用件を一言で済ませ、眉間に皺を寄せたナイトは足早に歩いていった。

 結局、ホープ一人が残された。


 この世界の何もかもに、置いていかれた気分だ。



◇ ◇ ◇



 レイと、ナイト……


 レイと、ナイトが……


「そう……なんだ……いや、おれには関係無い……関係……無い……よね……」


 確かに理解されにくい立場のレイは、以前はホープに依存しすぎていた。

 しかしナイトとの関係は、エドワーズ作業場で出会った頃から何だかんだで良好のようだった。


「そりゃそうだよ……」


 ホープという存在が、レイの中で完全に消えた今……どこにもおかしな点は無いのだ。


 上の空で歩いていたホープは、目的地の近くまで難なく進み、


「あっあっ、あーー! ホープさん! ちょうど今、今今っ! ニックさんに『探してこい』と命令されまして!!」


 ドタバタと駆け寄ってきたドミニクをガン無視。


 結局、グリーン家やドミニクが食料を運びに行った場所に自分も赴くこととなった。

 なぜなら、



「……来たか、ホープ。てめえにも協力してもらわにゃあ、ならねえことがあってな」



 皆がいそいそと食料や物資の整理をしているその大広間の部屋に、ニック・スタムフォードがいるからだ。

 呼ばれた理由は何となくわかっていたが、


「物資調達が必要だ」


「……だよね」


 予想の通りであった。


 だが、前と明らかに違うのはニックの態度だ。

 傲慢で暴力的に大都市アネーロに送り込まれたのは記憶に新しいが、今はそうでもない。

 普通に相談されている感じ。


「食料が底をつきそうだ。いきなり何十人も人数が増えた、想定していなかったわけじゃねえが……」


「うん」


「町の住人どもは平和ボケが多い。だから物資調達は、てめえのような元からグループにいた奴を主軸にして派遣しなきゃならん」


「なるほど」


 多少は上の空ながらも、話の内容は理解できる。

 新しいメンバーたちだけで物資調達に行くと、大量に死者が出てしまうだろうから、支えなければならないのだろう。


 相変わらず仏頂面のニックだが、いつもより深刻そうな声色だ。


「こりゃあ色々な意味で死活問題だ……早急に手を打たなきゃならん」


「そうなの?」


「空腹や喉の渇きで死んじまうのはもちろんだが、食料や水が少なくなると、弱え人間は簡単に仲間割れを起こす」


「……!」


 なるほど、と思う。

 現実になってほしくはないが、理解はできるから相槌を打っておく。



「しかも町の住民どもは、戦いの『た』の字も知らねえド素人の雑魚ばかり……そういうのが勝手も知らずに暴れるのが一番厄介なんだ」



 ニックが言うには、殴り合いとかの経験が無い人間は『殴られる痛み』を知らない。

 だから、いざ追い詰められた時に何をしでかすかわかったものじゃない、と。


「人数も多すぎて、俺の唯一の教育方法『殴って躾ける』も現実的じゃねえからな」


「あ、あぁ……」


 そこは根本的に何とかしてほしいな……そんな本音は、ホープはとりあえず心にしまっておいた。

 ニックはサングラスをくいと整え、


「『ガイラス』と『オリバー』という新メンバーが、調達に良い場所を知っていると言うから案内してもらえ――もちろん、てめえだけじゃねえ」


 と言いながら後ろを向き、



「ホープ、一緒に、行こ」



 物資の整理の手伝いが終わったジルがやって来る。

 さらに、



「お、おいらモ……行クコトニナッタ……」



 どこだかよくわからない物陰から巨漢のリザードマン、ダリルも登場。

 さらに、



「美少女にトカゲに、青髪の若旦那……そしてワシ! ずいぶんと刺激的じゃねぇか」



 スコップを担いだ小汚い老人、スコッパーも同行するとのこと。


 揃ったようだ。

 この四人が、ガイラスとオリバーという者たちに案内してもらえるらしいが、


「何このメンツ……」


 今度はホープも本音を隠せなかった。



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