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ホープ・トゥ・コミット・スーサイド  作者: 通りすがりの医師
第四章 障害に次ぐ障害
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第165話 『ベテラン生存者』

今、作者はリアルで、かなり他人を巻き込んだ大失敗をやらかしていてヤバいです。

実は…作者の写し鏡のホープですが、彼は少しずつ成長していきグループ内で地位を築いていきます。作者と真逆、素晴らしい!

















「あぁー! ホープおにいさんだぁー!」


 やけに元気な声に呼ばれ、振り返った青髪の少年ホープ。そこにいたのはもちろん、


「あ、サナ」


 約一週間前に『亜人禁制の町』からやって来た、茶髪の幼い女の子。

 ここは廃旅館。相変わらずニックのグループの拠点となっている。


 サナ一人だったら、単に遊びたくて声を掛けてきただけかもしれない。

 だが彼女の後ろには、荷物を抱えた両親の姿がある。


「お父さんお母さんも揃って……どうしたの?」


「あのね、ホープおにいさんに道を聞きたくってね!」


「うん」


「えーと! えーっとね……『ひがしとうのにかい』に行きたいんだ、おしえて?」


 どうやら『東棟の二階』に行きたいようだ。

 実はこの廃旅館は大きく『東棟』と『西棟』に別れており、現在地は『西棟の一階』である。


 聞かれたホープは館内案内図を見たりせず、


「そこの廊下を進んで、突き当たりを左に曲がって。東棟への渡り廊下があるから。真っ直ぐ進めば階段を見つけられるから一階分登ればいい」


「ふむふむぅ!」


 さらさらとメモしているサナに『偉い!』と思いかけるが、その文字や線はグチャグチャ。ホープはそこには言及しないでおいた。

 重そうなダンボール箱を抱えるサナの両親、イーサンとニコルを見たホープは、


「……手伝った方が?」


「お気遣いありがとう、ホープくん。でも大丈夫、私たちだって新人なんだからこのくらいやらなくちゃね」


「そっか」


 笑顔で張り切っている、大人の女性ニコルにそんなことを言われたら、もう何も言葉は出てこない。

 するとイーサンがオドオドしながら、


「……ホ、ホープくん。これからこの荷物……食料を運ぶわけだが、言われた場所に行ったら誰かいるんだよな?」


「あぁ、たぶん今はニックがいるんじゃないかな」


「だよな。あ、ありがとな」


 変な態度にホープが首を傾げかけたところで、ニコルが「やめなさいよ」とイーサンの横腹を肘で小突いた。

 しかし効果は無かったようだ。イーサンは怪訝な面持ちで、



「ホープくん……『亜人禁制の町』での、あの炎に包まれた本部で会った時のことだが……」


「っ!」



 そう。ホープは首を傾げる立場にはない。


 ――ホープが『破壊の魔眼』に体を乗っ取られていた時、イーサンを殺そうとしたあの場面。


 何もかも理解しているホープは記憶から消し去っても問題ないくらいの小さいことだが、理由も無く襲われそうになったイーサンからしたら、たまらないだろう。


「……それ、は……」


 何か言わないといけない。

 誤解を解くまではいかなくても、敵意は無いことだけは伝えたくて――


「ちょっと! いい加減にしなさい、あなた。ホープくんがそんなことするわけないわ。ナイトくんから『気絶させるしかない』って思われるほどパニックだったんだから、あなたの見間違いだって言ったじゃない!」


「いててて! おい耳を引っぱるな!」


 ホープが何か言う前に、ニコルが止めてくれた。

 ニコルは微笑みながらも幾分申し訳無さそうな顔をして、


「ごめんなさいね……ホープくんだって、あの町から救ってくれた恩人の一人なのに」


「い、いや大丈夫」


「そういえば、ドミニクちゃんも後から来ると思うけど、彼女が運ぶのが()()()()()らしいわ。ニックさんからもお話があるかもしれないわね」


「なるほ……え!?」


 『亜人禁制の町』から逃げた人々が、かろうじて持ってきた食料もあったというのに。

 それでも一週間で枯渇してしまうほど、人が増えすぎたというわけか。


「また物資調達とか行くのかな……」


 ホープの案内した方へ、サナ先頭で向かっていくグリーン家を見送りながら呟く。

 食料が無くなりそうなのにニックが何もしないわけがない。


 すると、



「は……はひっ、すみま、すみまっ!!」


「え?」



 これまた重そうなダンボール箱を抱えて、一人の若い黒人女性がホープの方に駆け寄ってきた。

 彼女こそが、


「ドミニク」


 という名前の人物。

 グリーン家と同じく『亜人禁制の町』からやって来た、新参者である。


「えっと、えっと、えっとえっとえっと……お名前……あれっ! 何でしたっけ、あれあれ……」


 ものすごくオロオロしているドミニク。


 箱を抱えたまま軽々とジタバタしているので、どうやら力はありそうだ。

 息が荒いのは食料が重くて疲れているわけではなく、緊張しまくっているからか。


「おれはホープ……前にも言ったっけ?」


「あぁっ!! そうですホープさん! もう忘れませんすみませんすみません」


「いやおれも名前覚えるの苦手だし大丈夫……」


 ――二十代の黒人女性で水色の髪を持つドミニクは、見た目としてはクールっぽくて強そうだ。

 しかしキリッとした目鼻立ちからは想像もつかないほど、中身の性格は非常に頼りない。


(おれがドミニクの名前をすぐ覚えられたのも……その見た目と性格のギャップと、妙に男っぽい名前があったからだし)


 彼女の『ドミニク』という名前を聞くと、どうしても先に男性を連想してしまう。

 別に、だからといってどうということもないし、良い名前だと思うが、インパクトはある。


「すみませんすみません! 道わかりません!!」


 なぜかペコペコと頭を下げまくるドミニクに、ホープはさっきと同じ道順の説明をして見送った。



「――すっかり『ベテラン』だな、ホープ!」


「ほ!?!?」



 ドミニクの背中を見送っていたところ、いきなり自分の背中が叩かれて驚く。

 飛び跳ねてすぐに振り向けば、


「な、なんだ……ドラクか」


「おう。『ベテラン』ってか、このグループの中じゃあ『古株』に見えてきたって感じだな」


「え? それ、おれの話?」


「お前以外誰がいんだよ」


 臙脂色のツンツン頭に、片方割れたゴーグルが特徴のドラク・スクラム。

 お喋りな彼がホープにそんな評価を下すのは、



「ま、新人が大量に入ってきたから、自動的にお前でもそう見えてくるってだけかもしんねぇけど」


「あぁ……」



 ホープが『ベテラン』?

 あのホープが、何らかの『古株』?


 あり得ない。信じられない。このホープ・トーレスが、曲がりなりにも人の上に立つなんて。

 天変地異が起こったって、そんなことにはならないだろうに。


 そう思っていたら、やはりそうだった。


「元々グループにいたメンバーは結構死んじまったからなぁ、そんな中でもお前は何だかんだ生き残ってて、グリーン家やドミちゃんもお前の後輩に当たるわけで」


「ドミちゃん?」


「ドミニク」


「あぁ」


 錯覚。

 これは錯覚である。


 強く逞しい仲間たちが死んでいく中で、偶然にも生き残ってしまったホープ。

 そして、巡り巡って廃旅館へやって来た『亜人禁制の町』の人々。


 ――加えてドラクという男はホープにとって、この生存者グループの中でレイの次に付き合いが長い。


 だから、相当な古株に見えてしまっても責めることはできな――



「ここまで生き残ってること、それだけでスゲーんだぜ? ホープ、お前は間違いなく『ベテラン』に片足突っ込み始めてるぞ。オレじゃなくったってそう評価するって」



 錯覚に騙されてるとは思えないくらいドラクは真剣な眼差しでホープを見てくるが、



「それ言うなら君だって『ベテラン』じゃん」


「……あっ」



 今生き残ってること自体がすごいことならば、生きてる全員が『ベテラン』ではないか。

 そんなホープの正論に、ドラクは言葉を失った。


 所詮、お喋り魔神のガバガバ理論だったのである。


 と議論は終わりそうになったが、


「いやいや、なんつーの? 『ベテラン』って呼ばれる奴にはさ、特有の雰囲気みてぇなのあるじゃん? 貫禄というかオーラというか……」


「え?」


「ジルにもよくイビられるけどよぉ、オレってそういうのねぇからさ。いつまでも小物臭いって言われるわけよ」


「じゃあ……おれには『それ』があるって?」


「……出てきてる」


「え?」


 ドラクは食い下がる。

 自分とホープには違いがあるのだと言う。



「お前、貫禄備わってきてるよ。良い意味でも悪い意味でも、この世界の生存者って感じがビンビン伝わってくるぜ……ついでにレイっちもな」


「レイも?」


「ああ! お前らケンカし始めてから急に強そうなオーラ出して――」


「…………」


「あ、ホープさんコワい顔してるー! また地雷踏んじゃったわオレ!! ごめんごめんご!」



 いい話をし始めたと思った矢先、これである。

 とはいえこれがドラクの平常運転なのだと知っているホープは、地雷を踏まれても何も言わなかった。


「とにかく! オレもお前やレイっちみてぇに、『ベテラン』感が出るように頑張るかね! とりあえずシリアスな雰囲気を醸し出してみよう!」


「シリアス?」


「そそ! オレとお前でシリアスコンビになればいいんだ! あそれシーリアス! あそれシーリアス!」


「はぁ……」


 適当なことを言いながらドラクはホープの肩に腕を回し、左右に揺れるように踊り始める。

 めちゃくちゃだ……ホープは深くため息を吐いた。


 そこへ、



「騒っっがしいなぁぁぁ、バカども!!」


「「ん?」」



 すぐ近くの扉――何の部屋かはわからないが、扉がいきなり開いて、女性の声がした。

 声の主は、黒いローブで全身を隠している、


「あ! お前って発明家のカーラだろ! 最近キャンピングカーにいねぇと思ったら、こんなとこに籠もってやがったのか!」


 ドラクが指差しながら説明すると、


「んあ? 何か悪ぃかよ、クソ虫」


「言葉遣いが悪いわ!!」


 後頭部をボリボリ掻きながら、ものすごい暴力的な言葉でもって言い返してきた。

 声質は女性なのに、やはりワイルドさと品の無さがそれを全く感じさせない人物である。


 カーラはちょっと怒っているようで、


「ったく、人が作業してる部屋の前でゴチャゴチャゴチャゴチャ……集中できねぇってんだよ!」


 いや、ちょっとどころの怒りではない?

 ローブで完全に表情が隠れているため、わかりづらいのだ。


「なるほど騒音被害か。だったらオレは関係ねぇ! その部屋の前でずーーっと喋ってたのはホープだ! こんにゃろ先輩面してグリーン家やドミちゃんに『土地勘ありますよマウント』取りまくりやがって……」


「えぇ!?」


 カーラとドラクの会話に完全に置いていかれてたホープが突然に槍玉に上げられ、かなり焦る。

 今まで肩を組んできていたドラクはホープを突き飛ばしてきた。売ろうとしているらしい。



「んあ、ホープぅ? あぁ、てめぇか……てめぇはちょっとこっち来い」


「へ?」



 カーラはそれまでの態度を崩して、突き飛ばされて尻餅をついたホープに手招きしてくる。

 どうすればいいかわからないホープが黙っていると、


「いいから来いって! 面倒臭ぇな!」


 ズカズカと、カーラはホープへと歩み寄ってくる。


「お、おいおい! まさかマジでホープを対象に変な実験とかしたりしねぇだろうな!?」


 本気で不審に思ったのかドラクが間に入ってくるが、


「てめぇは邪魔だってんだよ!」


「あ、いでッ!? ……がくーん」


 カーラに軽くデコピンされると、まるで意識を失ったようにダウンしてしまう。

 が、



「……ホープよ……すまん……オレ、最近……コールとさ……()()()()()なんだ……恋の予感なんだ……死ぬわけにはいかねぇんだ……」



 気絶したフリ。

 親指を立てながら小声で惚気話みたいなのをしてくるドラクを見ながら、


「う、うわっ!?」


「おれの部屋に入るぞ、ホープ・トーレス」


 ホープはカーラに後ろ襟を掴まれ、部屋の中まで引きずり込まれてしまった。

 扉が、バタンと閉じられる。



「……ふぅ、しっかしあのドラクとかいう男、うるさくてたまんねぇ。よくコールはあんなの気に入ったな……」


「え」



 カーラが、唐突にローブを脱いだ。ホープの目の前で大胆にも。



「んあ? 何だよ、ジロジロ見やがって」



 ホープは色々と驚いた。


 まず、割と露出が多いこと。

 ジャージのような上着は羽織るような感じでチャックが全開、へそが出る短さのキャミソールが見え、ショートパンツで脚も出ている。


 そして燃える炎のように綺麗な赤い髪、ツインテールという髪型。


 そして、口元を隠す黒い布製マスク。



「ごめん。おれもドラクとコールさんがそういう関係だって信じられなくて、呆気にとられてた」


「はは、そうかよ。案外話のわかる奴だなてめぇ!」



 実際ホープは、ついカーラに見惚れてしまっていた――思ったより『美少女』だったから。



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