第162話 『自分が死んでいく』
「とりあえず」でこれを書いたのが1月7日…次も書かずにいつまで寝かせるつもりなのか。
なんか勝手にスランプになりそうなので投稿します。今後は書きながら考えます。
今読むと会話の流れも異常に分かりにくい気が…もうそこは最低限、意図が伝わりさえすれば…
しとしとと降り出した雨が、やがて土砂降りへと変わっていく。
そんな中で仮面の少女――レイは、廃旅館から離れたとある場所へ向かっていた。
「……ウ"ゥ……ウゥウ……」
雨は良い。生者特有の匂いを洗い流してくれる。
さらに雨粒が大きければ、スケルトンや狂人は生者の足音に気づきにくくなる。
――今、廃旅館では、グループの仲間たちが必死に雨水を集めていることだろう。
「やっ!」
「ホ"ァアッ」
背後を取ったレイは、こちらに気づきもしないスケルトンの後頭部に杖を叩きつけた。
倒れ伏すスケルトンの向かっていた先には、
「ふゥゥッ……ふゥゥッ……!!」
目を疑うサイズの大岩を背に乗せて、腕立て伏せをする銀髪の吸血鬼――ナイトの姿。
「あんた、危ないじゃない。死にたいわけ?」
「今……殺ろうとしてたとこだ……」
濡れた橙色のツインテールを揺らしながら、レイは腰に手を当てて呆れる。
こんな世界だ――傘など差さない。
ノルマでも達成したのか、ナイトは大岩をレイのいない方へと落とした。
地面が揺れる。凄まじい重量なのだろう。あれを乗せて腕立て伏せなんて、さすがのレイも寒気を感じた。
「レイ、なぜ来た?」
あぐらをかいた半裸のナイトは、睨みながらレイに質問をする。
拠点からだいぶ離れた場所。何の用も無く来るのは不自然だ。
問われたレイだが、
「最近あんた、廃旅館から離れてるわね。どうして? せっかくホープと仲良くなったって噂になってたのに」
「質問に質問で返しやがる……」
今度は、ナイトが呆れる番だった。
「……今ァ、グループの人数が増えすぎなんだよ」
どこまで行っても孤独な男は、どこか寂しげに言い放った。
雨に打たれて、くたっとなっている銀髪が憐れさを演出しているかのようだ。
「賑やかで良いじゃない」
「そうだろうよ……俺の居場所ァ、無ェが」
「いつまでバカ言ってんのよ。たぶんだけど、みんなあんたのこと好きよ? あんたが思ってるよりね」
「…………」
「勝手にあんたが殻に閉じこもってるだけよ! ……まったくもうっ、このグループって何でそんなんばっかりなわけ?」
相変わらず仮面で表情はわからないが、レイは軽く怒っている。
それは、
「この前の『亜人禁制の町』での戦いについて、情報共有をしたの。そこであんたが殺した吸血鬼……『オルガンティア』の存在も聞いたわ」
「ッ!」
「それでしょ? あんたがグループから離れてる理由って」
ナイトの事情を、ある程度は把握しているから。
「人ォ、殺すとよォ……自分が、死んでいく気がする」
知っている人ならば特に、とナイトは呟く。レイの言ったことは正解だと暗に伝えたのだ。
生者とは思えない鬱屈とした表情にレイは焦り、
「ちょ、ナイト……気の毒だと思うけど! 気持ちはわかるけど! だからって一人になったらどんどん暗くなってくだけじゃない!」
「…………」
「せっかく仲良くなったんだから、もっとホープと話しなさいよ! いつも気にしてるクセに!」
「……!」
レイの心配に、嘘偽りは無い。
そんなこと重々承知しているナイトは、とても嬉しい気持ちに――――なりたいのだが。
「……てめェの言えたことか?」
「えっ」
どうしても自分を、レイを、ホープを――甘やかすことなんてできなかった。
それが生真面目なナイトの定めである。
レイを睨みつけ、
「そうだろ……俺なんか探して話しかけてる暇ァあったら、さっさとホープと話せ」
「それは……!」
「いつまでウダウダやってるつもりだァ……? 俺のとこに来んのは『逃げ』だぞ」
「う……」
レイとホープの関係には、未だ修復する目処も立たないでいるのだ。
互いに嫌い合っているわけではない。そんなことは誰の目にも明らかだというのに。
沈黙。
ナイトの静かな言葉の後に響くのは、二人の体が雨粒を弾く音だけだった。
ただ気まずいだけの無音。嫌気が差したナイトは、
「……消えろ」
言いたくなかった言葉を、言うしかなかった。
こんな言葉を吐き捨てたらレイは驚き、戸惑い、多少なり恐怖するだろう。
反応を見たくないから、ナイトは予め彼女から目を逸らしていた。
そのまま背を向けていると、靴が泥を削る音が聞こえてきた。
レイが踵を返したのだろう。
とりあえずこの場を凌げた(?)と思ったナイトが立ち上がる。
深いため息を吐こうとした、その時。
「あと、そうだ。あんたが廃旅館に戻りたくない理由って、これも含むんじゃないの?」
何か思い出したようなレイの声。
再び踵を返す音。彼女は、こちらへ歩いてきているようだ。
そして、
「…………あァ?」
半裸のナイトを、レイが後ろから、強く抱きしめてきたのだった――強く。
続くのは、やはり沈黙。
密着する二人の体が、雨を静かに弾くだけである。




