第151話 『ホープ、死す』
――最初から目に見えていた。
「ゴフッ……」
――勝てるわけが無かった。
終わってしまったこの戦いを評するならば、誰もがそう言うことだろう。
「はぁ……はぁ……悪魔め、手こずらせやがって」
「悪魔ってのはお飾り。こいつはただの人間だってのにな……面倒くせぇなオイ」
少しだけ息を荒げるシリウス、そしてダンが、戦いの終わりを宣言するかのように短く会話する。
カスパルも自分の銃を見て、
「この最後の銃弾……使わずじまいだったな」
「使わないに越したことはねぇよ……町はまだ戦場なんだからな。この勢いでプレストンやニードヘル、ニックもみんな殺してやるんだ」
呟いたカスパルにシリウスが返事。
そう、今の戦いはほとんどシリウスの私情によるものであり、『重要な戦い』と呼ぶには楽勝すぎたのだ。
「ホープ……哀れだなぁ、さっきまであんなにイキってたのになぁ」
たった今殴り飛ばし、血まみれで床を転がった青髪の少年――ホープを見下ろし、シリウスは嘲笑する。
なぜか植物の支配が無くなったことにより勝負の流れは一気にシリウスたちに傾いた。
ホープは手も足も出なくなり、とうとう限界を迎えたようだ。
「大丈夫さ、ホープ。仲間たちだってお前を責めない。だって普通の人間三人に対して、普通の人間一人が勝てるわけないだろ? おとぎ話じゃないんだから」
そう。
この戦いにおいて、ホープは『よくやった』と言われるべきなのだ。
本来、ここまで粘れる人材でもなかったのだから。
「そうだ、お前、『死は怖くないけど痛みは怖い』って言ってたよな? ……じゃあこれはどうなんだ?」
ダンとカスパルは、中央本部の中で見つけてきたガソリンタンクを運んでくる。
中身を、床に倒れるホープにぶちまけた。
中央本部を焼き尽くさんとする炎は、案の定広がったガソリンに引火。そして、
「はははっ……あっはっはっはっは!!」
一瞬にして、ホープの体が炎に包まれる。
「俺なら絶対に嫌だね、炎に焼かれて死んでいくなんて! お前もそうなのかホープ? ま、聞いたってもう遅いか! あはははっ!!」
勝つ予定だった戦いに予定通り勝っただけの三人組は、燃えゆくホープを見て大爆笑。
それに飽きたら踵を返し、この腐った『亜人禁制の町』を綺麗に掃除しに行くだけだ。
一人で取り残される、燃えているホープ。
約束?
任務?
仲間?
人生?
自分?
さて――何のことやら。
死にゆく人に、そんな野暮な言葉を誰が掛ける? 死人に口なし。もう関係とか未練とかはどうしようもないことなのだ。
ただゆっくりと、時間が経ち、肉体が朽ち、命が消えていく。
それだけのこと。
これがホープの望んだもの。
これこそが、『死』。
熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い。
死ぬときは誰だって一人だ。みんな一斉に死んだとしても、『死』は他の人とはリンクしない。
誰かに看取られて死んでも、『死』とは死にゆく者にしか降りかからない。
『死』とは『孤独』。
そして、『死』とは『解放』でもある。
『生』か『死』か。
人間にはそのどちらかしか許されない。
ならばどちらかが地獄で、どちらかが楽園となるのが道理というものだ。
そうでなければ、逃げ場が無いということに……
『逃げ場があるとでも思っているのか』
死ねば楽になるのだろうか? 本当に?
熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い。
――そもそもホープは死ねるのか?
こんなことで、こんなところで、死んでもいいのだろうか?
許してもらえるだろうか?
え? 誰に?
何に? 何かに許しを請わなければいけない?
『普通の人間か』
熱い熱い熱い。声が聞こえる?
嘘だ、ホープは死ぬだけだ。誰の声? 聞いたことがある。
『死』とは『孤独』のはずなのに、なぜ、今、何、どういう、え?
えっ? 熱い。
『……右目に、このおれを宿したお前が』




