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ホープ・トゥ・コミット・スーサイド  作者: 通りすがりの医師
第三章 『P.I.G.E.O.N.S.』問題
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第130話 『欠陥魔導鬼』

ここからは確実に毎回面白いエピソードでいきたいな…と目指しています。もうバトルしか無いはずですからね。ほぼ。

今回も良いと思いますよ!たぶん。















「説明しよう! ……あたしが!」


「お、おう!」


「あたしたち魔導鬼ってね、説明しなきゃいけないことが盛り盛りてんこ盛りなのよ!」


「マジで!?」


 侵入に成功した『亜人禁制の町』にて。

 走るスピードを緩めないまま、人差し指を立てたレイは仲間たちに唐突に解説を始めた。

 ドラクはそのノリにとりあえず乗っておき、


「もりもり……」


 ジルはついていけず困惑している。

 ドラクもジルも事情を知っているから、ノリに乗れるかどうかの話だが、



「エ? 魔導鬼ッテ? 何ソレ誰ノコト?」



 三人と一緒に走っているリザードマン――ダリルは全くもって理解ができていなかった。

 レイは仮面の下で頬を膨らまし、


「バカじゃないのあんた! あたしのことに決まってんでしょ、ぶっ飛ばすわよ!?」


「エーッ!? れいッテ魔導鬼ダッタノ!?」


「当ったり前でしょうが!」


「当タリ前ジャナイヨ! おいらハ種族ヲ判別スルトカ、ソウイウ鼻ガ利カナインダヨォ!」


 そんなダリルの言葉を聞いて、レイはあることを思い出した。



『てめェ人外だとは思ってたが、魔導鬼だったか! どうりで全身隠してるわけだ!』



 それはエドワーズ作業場にて、出会ったばかりのナイトから言われたことだ。

 人間か人外か、どうやら判別できる者とできない者が存在するらしい。方法は謎だが。


 というか、


「ダリルあんた、話の腰折らないでくれる!? ちょっと黙ってなさいよ!」


「ヒィ〜ン……」


 理不尽な怒りをぶつけると、ダリルはその巨漢に見合わぬ情けない(けど野太い)声でギャン泣きをしていた。


「みんな、魔導鬼特有の能力の『魔法』っていうのは、だいたいわかってるわね?」


「……まぁ仕組みとか知らねぇけど、そういうのがあるのは承知してるぜ」


「ん。右に同じ」


 少し難しそうな顔をするドラクと、目を閉じて軽く答えるジル。

 魔導鬼についての話を気楽にできることに嬉しさを感じながら、レイは続ける。



「いい? 一口に魔法と言っても、『下位魔法』と『上位魔法』っていうのがあるのよ」



 このことを知っている人間は、そうそういないだろう。

 魔導鬼だからこそ知っているディープな情報である。それはもちろん人間にとっては、という話だ。魔導鬼の界隈では常識でしかない。


 実はこの説明は、



『本来はどんな魔導鬼でも色んなことができるわ、攻撃、防御、支援とか! もっとすごい魔導鬼だと治癒とか建築とか召喚とかね!』



 かなり前に感じるが――洋館のバスルームにて、ホープにも簡単に説明したことだ。


「まず『下位魔法』はね、主に戦う時に使う基礎的な魔法よ。例えば『攻撃』『防御』『支援』って言えばわかりやすいかしら」


「基礎的……なら、どの魔導鬼も、使えて当然?」


「さすがジル。物分かり良いわね!」


 とは言ってもレイだけ話のオチが見えているのだが、それを言った際の反応を楽しみに説明を続ける。

 ドラクもジルもダリルも、レイが普通の魔導鬼だと思っているはずだ。


「でも『上位魔法』は全然違う上等な魔法なの。その鬼によって固有の魔法があったりするのよ。本当に色々あって可能性は無限大なんだけど、例えば『治癒』『建築』『召喚』、すごい鬼だと『呪い』『天変地異』なんてのもあるみたいね」


「すげぇなそりゃ! 治癒とかできたら医者いらずじゃねぇか!」


 仲間思いなドラクは、目の付け所がやっぱり素晴らしい。その期待に答えてあげられないのは辛いが、


「ええ、すごいのよ魔法は……まぁ『上位魔法』については、そもそも使えない魔導鬼もたくさんいるけど」


「上位って言うくらいだしポンポン出せるもんじゃねぇわけか……ところでレイっちは?」


「ん?」


 わざと、スッと返答はしない。焦らす。


「いや『ん?』じゃなくて……そんな得意げに喋ってんだし、さぞかしすげぇ魔法使えんじゃねぇかと思ったんですけど……何この空気。オレが悪いの?」


 自分を指差して不安がるドラク。ここらでレイも、白状する頃合いだろうか。


「あたしは『下位魔法』の『支援』しか使えないわよ?」


「は? いや、それ……でもそれ……『上位魔法』のトンデモなやつ使える前提の……」


「いいえ? あたし『上位魔法』も使えな――」


「クソザコじゃねぇか!!!!」


「ちょ、失礼ね!!」


 打ち解けたからこそのドラクの容赦無いツッコミに、レイも怒鳴り返す。


「あんたに言われたくないわ! トンカチ振り回す以外何もできないくせに!」


「オレは人間だからしょうがねぇだろ!? 『支援』じゃ弱い人間すら倒せねぇよ! ……ってか具体的に何すんだそれ?」


「対象のどこかの部分の、一時的にパワーやスピードを増強するとか。例えばドラクの腕とトンカチに魔法かけて、すごい威力にすることもできるわ」


「んーまぁ凄いっちゃ凄いが、やっぱし味方ありきの能力か……」


 今まで誰に説明しても同じリアクション。同様にドラクも肩を落とし、ため息をついた。


 ――そう。その反応を待っていた。


「あたしもそう思って、戦闘要員にはなれないと諦めてた。どんな魔導鬼でも使える下位魔法すら満足に使えない……いわゆる『欠陥魔導鬼』だったから!」


「欠陥住宅みたいに呼んでんじゃねぇよ!」


「でもご安心を! ナイトに教えられて、あたしは生まれ変わった――今は()()()()戦えちゃうんだからね!」


「な、なんだってぇ!? ……ん? 何か聞こえるぞ」


 レイの自分解説もいよいよ大詰め、そんな時だった。あまり聞き慣れない『ブロロローッ』という音が大量にこちらへ近づいてくる。

 その音は恐らく――エンジン音。


「ウ、ウワーッ!! ミンナ下ガッテェ!」


 建物の向こう側から、大量の二輪の乗り物に乗った人たちが現れ、その乗り物に跨ったままこちらに向かってくるではないか。

 ドタドタとダリルが前に出ると、乗り物に乗った人々は拳銃を構える。


 10人分以上の弾丸がダリルの正面から襲い、そのまま高速で横を通り過ぎていった。


「あ、あいつら撃ってきたぞ!? 普通に敵だった! ダリル大丈夫か!」


「大丈夫……コレデがーどシタ」


 ダリルが両手で抱えるは、巨大な両刃斧。

 それを上手く体の前に出し、盾のようにして銃弾を弾いたらしい。


「でかした! これからお前の名前は『肉の盾』ってことでよろしくな」


「ヨロシクナイ!」


 ダリルが抗議の言葉を続けようとするが、レイは彼の口を塞ぎつつ、


「ドラク、さっきのは? あの乗り物は何なの?」


「知らねぇの!? あれはバイクって乗り物だ。小回りがよく利くんだぜ、敵となると厄介だ……そら戻ってきたぞ! 隠れろぉ!」


 ドラクの言う通り、小回りを利かせてすぐに戻ってくる謎のバイクの集団。

 一人乗りならその者が、二人乗りなら後ろに座る者が、例に漏れず拳銃を構えているのでレイたちは建物の影へ避難する。


 刹那、別の建物の影から一人の若い女が飛び出す。


「ついに動いたみたいね『バイク部隊』! 作戦がバレてたんなら、もう隠す意味も無い……くらえ!!」


 走り込み、彼女は勢い良く槍を投げた。


「メーティナ!? お前いったい何をして――ぐわあぁぁっ!」


 疾走するバイク部隊の一人の胸に、投げられた槍が突き刺さる。

 痛みに悶えたそのライダーは地に落ち、主を失ったバイクは他のバイクを巻き込みながら民家に激突。大きな爆発が起きた。


 メーティナ、と呼ばれた女は落ちたライダーの胸から無言で槍を引き抜く。

 それを見た数人のバイク部隊はブレーキを掛け、


「クソ、あいつも反逆者ってことか!」

「……待て。プレストン様から指示があったらしい、列車を止めに行くぞ!」

「お、覚えてろメーティナ! 四天王に殺されちまえ!」


 全てのバイクたちが、どこか別の方向へ走り去っていった。

 銃の脅威からは逃れられたものの、


「どうなってんだ? ありゃ仲間割れってことかよ?」


「めーてぃな、アノ子ノ名前ダヨネ?」


「名前、知ってるなら……知り合いってこと」


 三人は混乱している――当然だ。

 敵は『プレストンの一味』だけのはずなのに今、目の前で知らない人と知らない人の戦闘が起きたのだから。


「でも女々しいわね、あんたたち。この町にいる知らない人は全員敵ってことで良いじゃない」


「いや……もし、味方が増やせるなら、増やした方が、良い」


 ジルはこの戦況を、深く考え込んでいた。


「どう考えても、頭数、足りない。相手の規模は『町』。こっちだって、全員戦えるわけじゃない。数の暴力、使われたら……いずれ負ける」


 そう。兵力差というのが大きな大きな問題であったのは最初から変わっていないのに、誰もそれに触れようとしなかったのだ。


 いくらニックとリチャードソンが特殊部隊だとしても、それは向こうもプレストンとニードヘルがいる。相殺だ。

 ドラクやジルなどは、銃を持った兵士なんかとエンカウントすれば即死という結果しか無い。



 ――常識で考えればわかる。


 ――これは、勝てる戦いではないのだと。



 ドラクやダリルはもちろん、レイでさえ頷くしかない正論を述べたジルは、両手を上げながら建物の影から出て、


「こんばんは。あなたも、プレストンの部下?」


「……そうだけど?」


「でも、同じプレストンの部下と、戦ってたみたい。だったら協力、できないかと思って」


 メーティナに協力交渉を持ちかけてみる。


「協力? しないわよ、私が信じるのは同じ『同志たち』だけだもの」


「今からでも、同志に、なれない?」


「……ちょっと待って。あんたらは誰なの? ひょっとして『ホープ』の関係者?」


 ホープの知り合いなのだろうか。

 もしそうなら好都合だ。ジルが「ん」と素直に頷いてやると、


「避けろっ!!」


 くるくるっと回された槍がジルの喉を突く寸前、横から飛び込んだドラクが回避させる。

 倒れた二人がメーティナを見上げると、


「じゃあ……ここで排除するしかないよね!」


 彼女は殺気に満ちた目で二人を見下ろし、くるくると槍を回転させながら、


「はああっ!!」


 二人の命を奪わんと襲い来る。


「うわわっ、うぉヤベェ死ぬ! 死ぬ!」


 とにかく立ち上がったドラクだが、トンカチを抜く暇もなくドタバタと槍を避ける。

 恐ろしい『突』と『斬』の織り交ぜられた連撃を、


「ふっ!」


「んぐ……生意気よ!」


 ジルが手斧で一発弾き、いつの間にかドラクを押し退けてジルとメーティナ一対一の戦いに。


「助け合えるかと……思った、のに!」


「あの残虐性の塊野郎(ホープ)の仲間のくせに、何が助け合い! 反吐が出る!」


「っ!? あぁっ!」


 ホープが何を恨まれてるのか理解できず動揺してしまったのか、ジルに隙ができる。

 その隙を見逃さなかったメーティナは、槍の尖っていない方でジルの脇腹を打った。


 がくり、と膝をついてしまったジル。


「あんたらみたいな悪魔の連合軍ども、私たちが成敗してやる! あんたはその一匹目に過ぎないわ!」


 踏み込んだメーティナは、槍の先端を正確にジルの右目に突き出し――




「頼りないわね……あんたたち」




 道端に落ちていた何の変哲もない()()を、手の上でポンポンと投げていたレイ。

 最後に、ポーンと高く上に投げ、それがレイの顔の横まで落ちてきて。


 次の瞬間、




「は?」




 無事だったドラクも、目を失わずに済んだジルも、後ろで震えながら見ていたダリルも、言葉を失う。


 なぜなら。






 突然メーティナの体が爆発を起こし、四肢が、内臓が、辺り一帯に飛び散ったから――






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