第127話 『動き出す四天王』
毎回長いんじゃ疲れますよね。
なので今回は短く、急展開がありますよ。
――『亜人禁制の町』にて、プレストンに忠実に従い、しかしローブで姿を隠す最強の四人。
四天王である。
彼女もその一角を担う者であり、例に漏れずローブを着て民家の屋根に登っていた。
「あぁ、あの塔の『鐘』のとこで待機してんのが、プレストン様の言う反逆者なのね」
何百メートルか離れた塔を見て呟き、ゆっくりと弓矢を構える。
一発だけ、射る。
「……命中っ!」
並外れた視力、そして弓矢の腕前。
矢じりが反逆者の心臓を正確に貫いたのを見て、彼女はガッツポーズをするのだった。
◇ ◇ ◇
「あァクソがっ! ヴィクターの野郎どこ行きやがったんだァ!」
侵入者がいるということがヴィクターのせいでバレてしまった今、兵士たちの警戒心はMAX。
もうナイトも普通に兵士たちから追われまくりである。
「翼は無いが、恐らく吸血鬼だ! すばしっこいぞ撃ち殺せぇ!」
ドガガガガガガ――――!!
さんざん追われたり撒いたり殺したりしてきたが、現在は三人の兵士から逃走中。
ナイトは銃撃を躱して民家の壁を駆け登り、
「ずァァァ――ッ!」
「「「うわぁぁぁ!!」」」
壁を蹴って弾丸のような勢いで突撃し、回転しながら三人まとめて斬りつけた。
「……あァ」
ここでナイトは今更なことに気づく。
「全員殺しちゃダメじゃねェか。ニックがどこにいんのか聞き出さねェとな」
熱くなっていたから、完全に頭から抜け落ちてしまっていたかもしれない。
やはり自分は、誰かに操られているのが一番性に合っているのだ。
「……おい、おい生きてるか」
試しに斬った内の一人を起こそうとしてみるが、無意味であった。全員死んでいる。
「ちィッ……ん?」
舌打ちをすると、ふいに何かがナイトの上を横切った気がした。影が一瞬自分を覆ったのだ。
上、というのはもちろん空になるわけだが、
「は……?」
――上空に、何かがいる。
美しい満月で逆光になっていて、シルエットでしか容姿はわからないが。
明らかに人の形をしているのに、『翼』がある。
そんな存在、ナイトの脳内では一つしか思い浮かばない。
「吸血鬼……だとォ!?」
『ソレ』は翼を翻し、空からナイトの方に一直線に突っ込んでくる。
ローブを着ているようだが空中で脱ぎ、邪魔そうに捨てていた。
「――あんたに、会いたかったんですよ。ナイトさん」
ぶつかる直前。『ソレ』はそんな台詞とは逆に、笑いながら二本の剣を抜く。
それを十字に交差させ、
「"剣砲"……"十文字白虎"!!」
「くゥッ……!」
高速で飛んでくる十字の殺人剣を、ナイトもどうにか刀を出して防御。
――しかし止まらない。勢いが死なない。
「うぐがァァァ!」
大地に根を張るように強いナイトの踏み込みも意味をなさず、ガリガリと地面を抉りながら押されていく。
遂に、ナイトの背中が壁にぶち当たる。
それは町の塔の壁なのだが、二人は気づかない。
「どあァッ」
バキン、と刀が払いのけられる。
相手のクロスさせていた二本の剣が大きく開き、ガードが強制的に外されたのだ。
一瞬ナイトがノーガードになったのを、相手は見逃さなかった。
離れたと思いきや翼を使って宙返りし、
「ナイトさん……倒される覚悟、しといてください」
また高速で突っ込んできてナイトの胸ぐらを掴み、塔の壁に押しつけた。
「やはり、てめェか……」
――今までは信じようとしなかったナイトだが、今、相手の顔がすぐそこにある。
もうこれ以上、自分は騙せなかった。
「オルガンティアァァァァァ――――ッ!!」
叫びも虚しく、ナイトの知り合いである四天王――吸血鬼オルガンティアは翼をはためかせる。
ナイトの体を壁に押しつけたまま、塔の壁を抉るように登っていく。
そして、その登りきった先にあるもの。
血まみれになったナイトの体は、
カァーーーン……
誰も鳴らせないはずの『鐘』を鳴らすことになるのだった。
まるで開戦のゴングのように、その音色は町全体に響き渡っていく……




