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ホープ・トゥ・コミット・スーサイド  作者: 通りすがりの医師
第三章 『P.I.G.E.O.N.S.』問題
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第124話 『凸凹コンビ』



「オカ"ァァア……アカ"ァッ」


 夜のバーク大森林を彷徨う、一体のスケルトンがいる。

 呪われた歯をカチカチと噛み鳴らしながら、獲物を探しているのだ。


 ふと、背後からの物音に気づく。

 振り向いて、


「ァアカ"」


 紫電一閃。

 すれ違いざまに顔の上半分を斬り飛ばされたスケルトンは、振り向くことも満足にできぬまま倒れた。


「クソォ……どうして俺がてめェを背負って走らなきゃならねェんだ!」


 走りながらスケルトンを斬った刀の持ち主は、吸血鬼のナイト。

 そして、


「……君が言ったんだろう。『てめェは足が遅すぎるからこうした方が良い』って」


「さっきの俺を殴りてェ」


 どういうわけか無表情でナイトに背負われているのは、人間のホープだった。



◇ ◇ ◇



「よし。『相手をぶっ潰す』ってことで話はまとまったよなァ?」


「あ、あぁそうだな……」


 ナイトの気迫に、もはやリチャードソンは頷くことしかできないようだった。

 焚き火を囲む仲間たちにナイトが問いかけるのは、


「ニック救出には誰か行きてェか? 俺一人でも別に構わねェが、人手が必要になる可能性ァあるしなァ」


 ほとんどの者が息を呑んだ。

 話によれば――プレストンの部下たちは普通に銃を持っているし、中には実力がナイトと互角のような者もいるのだ。


 そんな場所に侵入するなんて、自殺行為だと言っても過言ではない。


「まァぶっ潰すためには全員が乗り込むことになるかもしれねェが、ニック救出はできるだけ早ェ方が――」


「はいはい、は〜いっ! 私行きます〜!」


 なのに張り切って挙手したのは、既にハンドガンを構えているメロンだった。


「ほらほらナイト〜! 私みたいな可愛い女の子と二人きりになるチャンスですよ〜! うら若き男女が夜の森で、何も無い筈はなく……みたいな〜!?」


 美少女(見た目だけ)の爆弾発言に男性陣がモジモジしていることに、メロン本人は気づいているのだろうか。

 特にドラクなど、


「裏山……」


 と呟いているほど。

 だが爆弾を投げられた立場であるナイトが、色仕掛けに引っかかるはずもなく。


「てめェは敵殺してェだけだろ? 話をややこしくする、言うことも聞かねェ奴ァ、引っ込んどけ」


「ちぇ〜っ、バレましたか〜」


「とっくにわかってんだよ、サイコ女」


「でもま〜ナイトってイケメンですし〜、本当に良いかなって思ったんですけどね〜?」


 ずっと笑顔、という新手のポーカーフェイスのせいでどこまで本心なのかわからないメロンの言葉。

 とうとう無視したナイトは、別の者に話を振った。


「てめェはどうだ、ドラク?」



◇ ◇ ◇



「カ"ァァッ!」


「ん?」


 足に違和感を覚えたナイトが下を見ると、地面から飛び出たスケルトンに足を掴まれていた。

 すると、


「ウ"コ"ォッ」


「何だよ、ついてねェな」


 すぐ横にあった木の裏からもう一体現れ、肩を掴まれる。

 二体同時に襲ってきたわけだが、


「こっちはおれが」


「コ"ェ」


 背負われているホープがマチェテを抜き、地面から現れたスケルトンの顔を刺突。

 身動きが取りやすくなったナイトは刀を振り、


「キ"ァウ"」


 木の裏から現れたスケルトンの背骨を断ち切る。自分の正面に倒れ込んできた頭蓋骨を、


「っ」


 踏み潰し、事なきを得る。



◇ ◇ ◇



「は!? オレか!?」


「そうだ」


 ナイトから『ニック救出に行かないのか』と問われたドラクは必要以上に驚く。

 少し考え込んで、


「……でもオレ、ニックには殴られた思い出ばっかでなぁ……助けてもらったこともあるけど、なんか気が乗らねぇなぁ。逆によく行こうと思うな、ナイト」


「まァな。俺ァ主従関係が特別なもんで」


「可哀想だなお前!」


「うるせェ」


 珍しい。仲間思いなドラクが仲間を突き放すような発言をした。

 ドラクは薄情だ――と言い切れないのは、事実、ニックと仲間たちとの関係が温かいものではないからだろう。


「じ、じゃあジルどうだ? 行けよ」


「ん?」


 ドラクはジルに任務を押し付けた。


 ――ジルとナイト。

 絵面を想像すると美男美女だが、両方とも話すことが好きではなさそうだし気まずくなりそうな組み合わせだな、とホープは思う。


「私、いい」


「何で?」


「ドラクと、同じ。良い思い出が無い。リーダーなら、リチャードソンとか、ナイトでも、いい」


「あ、オレと同じか……」


 というかドラクとジルがニックを良く思っていないのは、やはりエドワーズ作業場で助けてくれなかったことが大きいのかもしれない。

 二人がそれを意識しているようには見えないが、人の印象など無意識下で左右するものだ。


「俺に指導者の素質ァねェだろ」


「……そう? いい線いってる、と思うけど」


 これまた珍しい、ナイトとジルの会話。これだけで終了したが。

 その後もリチャードソンは「いや俺が行くのおかしいだろ」と、ダリルは「コワイ!」と言い、結局は聞かれた全員が拒否。


 初めから『別に一人でもいい』と言っていた通り、ナイトは一人で行こうとした。


 なのに、



「おれも行くよ」



◇ ◇ ◇



 森の闇の中をひた走るナイトだが、ホープが「休まず走って本当に大丈夫?」と聞くと、


「休んでる暇ァ、ねェからな!」


 走りながら彼は答える。


 種族の差とは凄いものだ、ナイトはもう何時間か走っているのに息がそんなに荒くない。

 スピード的には、ホープが前方を見ようとすると多少の風圧を感じるくらいなのに。


 これでは、ホープが彼と一緒に走ろうとしても「遅い」と言われるわけだ。


「それはいいけど……このスピードだとどれくらいで着くのかな」


「丸一日ァかかるか……」


 となると、着くのは明日の夜ということか。

 そういえば、


「ベドベの死体はどうしたんだっけ?」


「あァ、スコッパーに頼んだ。ちょうどスコップ持ってたからなァ」


 それはつまり、彼に墓穴を掘らせるということだろう。薄い理由だ。スコッパーも大変。



◇ ◇ ◇



「え、ホープお前、マジ? 頭打った?」


「青髪てめェ……ニックが嫌いとか言ってたじゃねェか」


 ドラクとナイトはもちろん、本当にこの場にいる全員が、立ち上がったホープを見て驚愕している。


「うん。嫌いだよ」


「ずいぶんストレートだな坊主……じゃあどうして真っ先にニックを助ける?」


 即答したホープに、リチャードソンは生真面目な質問をしてくる。


「嫌いだからこそ、さ」


「え?」


「君たちニックのこと嫌いなのに、あいつが何をされると一番嫌がるのか。わからないのか?」


「???」


 ホープが喋れば喋るほど、仲間たちは首を傾げたりポカンとしている。

 言ってしまえば、



「おれみたいな弱者に助けられてみなよ。あいつのプライドはズタボロだ……思い知らせてやる。おれを痛めつけた罰として」



 暗すぎるホープの思考回路に、みんなの質問や疑問も凍りつく。

 静かにナイトは「……なるほどな」と頷き、



「俺と青髪で行く。てめェらはリチャードソン筆頭に、計画通り動け」



 こうして今に至る。

 ドラクやレイが「計画!? 計画って何!?」と叫んでも気にせず、ナイトはホープと一緒に出発するのだった。



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