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ホープ・トゥ・コミット・スーサイド  作者: 通りすがりの医師
第三章 『P.I.G.E.O.N.S.』問題
133/239

第122話 『選んだ傍観』



 六人で出発したはずの『遠征』なのに数を四人に減らし、その翌日に帰還したホープたち。

 まだ二日しか経っていないのに妙に久々な感覚の廃旅館へ、苦しげな面持ちで入っていく。


「おい、メロン……もう一度聞く。エンの奴ァ死んだんだな?」


 最初の報告とは違ったためホープとナイトが驚いた事実――エンは捕まったのではなく、穴に落ちて死んだという。

 道中で何度も聞き返したのにまだ納得がいかないのか、ナイトはまた聞いた。


「そうです〜……って、そんなに怖い顔しないでくださいよ〜ナイト〜!」


 吸血鬼の鋭い眼光を浴び、メロンは笑顔は崩さないものの――多少は焦っているのかも?


「だって〜。ニックは捕まって、エンは死んだ。そんなのいちいち解説してやるの面倒臭いじゃないですか〜! 忙しい時はとりあえずどっちも捕まったと言っといて、後で修正するのは合理的だと思いますけど〜?」


「人の生き死にに合理もクソもあるかよォ」


 釈明したメロンの顔を見ずに返答したナイトの言葉。それに反応したのはホープで、



「普通の人は何十年も生きて……死ぬのは一瞬。充分すぎるくらい『生』と『死』は合理的な関係にあると思うけどね」



 どんなに長生きしようとも、最後どんなに痛みに苦しもうとも、『死』の瞬間は一瞬である。

 その、ほんの一瞬を過ぎれば、もう戻ってくることは無い。『死』とはそれだけだ。


「あァ? ……てめェらと話すと、疲れる」


 嫌そうな顔で後頭部を掻くナイト。

 ホープとしてもエンの死は多少辛いが、これ以上ストレスを溜め込むと本当に頭がおかしくなりそうなので、あまり考えないようにした。

 ニックに関しては、ざまぁみろ。


 ――そんないつも通りの雰囲気のホープたちを見て、嬉しそうに駆け寄ってくる人物がいた。



「おっ!? おっ、おぉっ!! ……お前らオレが見てねぇ間にすっかり仲良くなりやがってぇ! 変わらずイガミ合い状態かと思ったぜ!!」



 どこからどう見てもクソ重苦しい雰囲気の中に、ズカズカと侵入してくるのは――ドラク。

 彼の笑顔の原因は、


「いやぁマジ、ホープお前ナイトに八つ裂きにされて帰ってこねぇかってさ、ヒヤヒヤしてたんだよ!」


 どうやらホープとナイトが喋っていたことらしく、二人の間に入ったドラクは、


「うっ」

「おァ」


「ちこうよれちこうよれ! お前ら()い奴じゃのぉ! ()いなこのヤロ、()いなこのヤロ!」


 ホープとナイトそれぞれの肩に腕を回し、自分に密着させる。


「いたいいたい……ちょ、ドラクやめて……」


「暑っ苦しい野郎だなァ。離せ」


「なははは! ノリが悪ぃのはお前ら二人揃って相変わらずだな、逆に安心だけど!」


 割とガチで拒否している二人なのだが、ドラクは快活に笑って二人をヘッドロック状態に持ち込んで離しはしない。

 様子を見ていたメロンが口を開き、


「いいですね〜尊い光景ですね〜。なんだか『3バカが揃った』って感じの」


「ふざけんなてめェ、『2バカと俺』の間違いだろォがよ」


「自ら進んで孤独の道を選ぶとは〜。いよっ、さすがナイト〜!」


 バカ仲間を否定しただけのナイトに、メロンは謎の拍手を送る。

 ドラクはヘッドロックから抜け出したナイトを指さしながら、


「おいホープ許せるか? あそこの人生充実してそうな美男美女どもに、『2バカ』とか好き勝手言われてんぜオレたち……何日ぶりだよ、お前の顔見んの」


「あ……」


 神妙な顔つきと声になったドラク。

 ヘッドロックしてくる腕の力が少し弱くなるのを感じ、ホープもため息をつく。


 そうだ。

 レイと別れて()()()()()からというもの、ホープはグループのメンバーたちとほとんど会っていないのだ。

 コールやジル、シャノシェなんかはこの前偶然会い、今回の『遠征』で強制的にナイトやニックと行動を共にした。


 ドラクは――もう何日も会っていない人物だった。それを完全に忘れていた。

 いや、()()()()()()()()()のだろう。


「オレたち……仲間になったんじゃねぇの?」


「…………」


 こんなにも性根の腐りきったホープなのに、ドラクは、まるで何も無かったかのように明るく喋る。

 変わらない彼の態度。それを心地良く思うのなら、ホープの方は態度を変えなければ。


 と言ってもただ普通に返事をすればいい。

 ドラクに限らず誰でも、今の堕落したホープに望むものなど『普通』程度だろう。


 だから。自分たちは仲間なのかという質問に、


「……うん……たぶん」


 軽く頷く。


「じゃあホープお前、もっとさ……オレを頼れよ。問題が起きたら距離を離すのが仲間か? 違ぇだろ、どんな難問でも寄り添うのが仲間だろ」


「……そう、かな」


 やはりドラクは、ホープにとっての『難問』が発生したことを察していた。


「……でもドラク、おれは今回のこと、君に相談するつもりは」


「ねぇんだろ? そんなの見りゃわかる、いいんだ。嫌なら無理に説明しなくても、一緒にいるだけでもいいんだよ。『寄り添う』ってのはそういうことだ」


「……そっか……」


 数日前のドラクとの最後の会話は、ホープとしてもとんでもなく酷いものだった気がする。

 それよりか幾分マシな返答にドラクは「へへっ」と嬉しそうに笑い、ガシガシとホープの頭を撫でた。


「ったくよぉ……お前がいなくなってから心配すぎて、昼間にクソが出ねぇのなんのって。おかげで深夜とかに森で野グソして……あれ?」


 汚すぎる不要な解説。ホープが口を挟もうか迷っていると、ドラクは勝手に語りを止めた。



「そういや……ニックとエンどこ行った?」



◆ ◆ ◆



 決定的な疑問を投げかけたドラクたちに、ナイトやリチャードソンが『亜人禁制の町』で何が起きたのか説明を始めた。

 そのタイミングでホープは一旦抜け出し、気分転換に森を散策している。


 しばらく歩くと――妙な物音。そして、複数の人の声が聞こえる気がした。


 嫌な予感ばかりが脳内を埋め尽くす。


 何の音かも、何が起きてるのかもわからないのに、既に心臓の鼓動は高速になり呼吸が荒くなってきたホープが、茂みを掻き分ける。



「っ――!!!」



 手で自分の口を押さえた。必死に。

 すぐに隠れたとはいえ、バレなかったのは奇跡でしかない。


「ダン……お前の尾行は完璧じゃねぇか。よくここを見つけた」


「あのホープや吸血鬼ども、リーダー居ないから冷静さを失ってたんだろ。簡単だったが……お前らこそプレストンには見つからなかったんだろうな?」


「当然さ」


 ホープは目と耳を疑った。

 あれは昨日の昼に橋で出会い、『亜人禁制の町』まで同行した者たち。その数人が筆頭のようではあるが、人数的には数十人いる。


 今会話していたのは黒髪のシリウスと、彼からダンと呼ばれていたパーカーと茶髪が特徴の若い男である。


 ――どうやらホープたちは、ダンに尾行されながらノコノコと帰ってきてしまったらしい。

 ニック・スタムフォードが健在ならば、すぐに勘付いていたのだろうか。


 というか、プレストンには内緒なのか。リーダーに逆らうなんて、反乱に近い気もする。


「この辺で女を『献上品』にしてやろうとしていたことがあったんだが、あれもホープの仲間だったようだな」


 ――女を襲ったのか? 誰だろう。レイとか、ジルとかだろうか? 許せない。


「尾行の成功は良いが……急いだせいで同志を一人、スケルトンに食わせることになるとは。面倒くせぇなオイ」


「あぁ、心苦しいよ。この怒りもぶつけさせてもらわねぇとな。()()()()


 ホープが声を出しそうになり、口を押さえたのには、それ相応の理由がある。

 どう見てもシリウスたちが敵対的なのは驚いたが、そこまで衝撃的ではなかった。


 その理由とは――シリウスたちが囲むように立っている、ボロい木製の椅子に縛り付けられた、



「ゴホッ、ゲホッ……清々しいまでの……八つ当たりだねぇ……」



 占い男のベドベ。いつも姿を見せないから何とも思っていなかったが、まさか敵に捕まってリンチされていたとは。

 彼は既に血だらけで、咳をするたびに吐血している。見るに堪えない。


「うるせぇよ」


 眉間に皺を寄せたシリウスは、右の拳のメリケンサックを力強く握り締め、


「サンドバッグは黙ってろ!!」


「っ」


 動けないベドベの横っ面に、渾身のフックをぶち込んだ。

 殴られた頬が少し抉れたのか血が流れる。半開きの口からポロッと折れた歯が落ち、そこからも滝のように血が流れ出してくる。


「……っ」


 声も上げられないほどの激痛らしく、ベドベはただ俯いて血を垂れ流しながら、体を震わせている。

 その様子を見たシリウスの横にいる若い女――確かメーティナと呼ばれていた奴が、


「ちょっと幽霊男、あなたいつまでその『水晶玉』を足で挟んでる気? バカなの?」


「……ふ……バカじゃないよぉ……君らにはわからなくて、ゲフッ、いいことだよぉ……」


「気持ち悪いから笑わないでよ!」


 不敵に微笑むベドベに、メーティナは軽く平手打ちを食らわせる。

 今度はダンがナイフを取り出し、


「お前、自分がまだ助かるとでも思ってるのか? もう無理さ……道は一つだ!」


「っむ――――!」


 もう片方の手でベドベの口を押さえながら、左肩に容赦無く突き刺す。

 さすがに声を上げて悶えたベドベは両足で挟んでいた水晶玉を地面に落とし、水晶玉は見事に割れてしまった。



「ふぅ……っ、ふぅ……ぅ……」



 あまりの無惨さに目眩がしてきたホープは、下を向くしかなくなる。その瞬間、顔から噴き出していたのだろう汗がボタボタと雨のように地面に落ちた。

 嗚咽の漏れそうな口を、両手で必死に閉ざす。


『問題が起きたら距離を離すのが仲間か? 違ぇだろ、どんな難問でも寄り添うのが仲間だろ』


 つい先程言われたばかりのドラクの言葉が、早くも呪いとなってホープの心を抉る。


 でも――どうすればいい?


 今、ホープは茂みの中で屈んでいる状態。シリウスたちはすぐそこにいる。

 逃げ出そうと動けば、一瞬でバレる。捕まればホープも痛めつけられるだろう。


 かといってベドベを助けようと突撃しても、あの数十人という数に敵うはずもないではないか。

 『破壊の魔眼』が使えるならもちろん皆殺しなど容易い。だがそれも幼少期のトラウマのせいでできるはずもない。


 記憶に、トラウマに、呪いに、言葉に――


 がんじがらめにされたホープにはもう、この場をどう動かすこともできないのだった。

 そこに追い打ちをかけるように、


「幽霊男、恨むなら俺たちじゃなくホープ・トーレスを恨みな!」


「えぇ……? ホープをぉ……?」


「そうさ、あいつがアリスと、恐らくブタとキツネを殺しやがったんだからな。うらよ!」


 確かカスパルとか呼ばれていた中年の小太り男が、話しながらベドベの腹にパンチを入れた。



「ぁ……え? ……まさか……?」



 アリス? アリス。アリス、アリス……アリス? そんな、嘘だ。アリスはホープが殺した。

 ブタとキツネ。それも聞き覚えがある。ブタと……キツネ? 動物の名前だが動物の名前ではない。二人組の男だ。


 あいつらはシリウスの仲間? ではプレストンの部下?

 ……恨むなら、ホープ・トーレス?


「そしてメロンって女も、俺の目の前でモルスって同志を撃ちやがった。一発であの世行きさ……どう責任取ってくれんだ!?」


 激昂の続くシリウスは、メリケンサックでベドベの腹をどつく。



「め、メロンが……撃ったって……じゃあ……」



 モルス。モルス、また聞き覚えがある名前。そうだ、橋の上で救助を待っていた若い男が、確かシリウスからそう呼ばれていた。

 町から逃げ出すときメロンは発砲したらしいが、まさか、ちゃんと当たっていたのか。



「待てよ……待て待て……この事態……おれのせい、なの?」



 あの口ぶりから察するに、死んだ四人はどうもシリウスと深い繋がりがあったようだ。

 ということは彼らからすれば、先に仕掛けたのはこちら側――ほぼホープ単体――となる。


 つまり今ベドベが捕まって、滅茶苦茶に殴られているのは、ホープの責任で




「――動く必要は無い、助けもいらないよぉ」




 下を向くホープの耳朶を打つ、どうにもハッキリとした声。

 ベドベの声だった。


「は? 急に何だお前」


「ゲホ、いやぁ……別にぃ? ……君たちごときにぃ……わざわざ俺が動く価値も無い……ガフッ。そう、言ったんだよぉ……」


「何だと!?」


 いや違う。

 ベドベの声はホープの耳に、妙に透き通って聞こえた。彼はホープに言ったのだ。

 その裏付けのつもりか、


「数だけが取り柄の……ゴホゴホッ……君たちなんてぇ……ここで俺を殺すけど……未来は無いよぉ、全員死ぬ運命だよぉ」


 彼はもう、死ぬつもりらしい。


「黙れぇぇ!!」


 隠密も忘れて叫んだシリウスが、ベドベの顔面に飛び蹴りを入れる。

 椅子ごとガタンと後ろに倒れたので、他の仲間がすぐにそれを起こした。


 ベドベの顔はひん曲がり、原型を留めていない。

 なのに、


「俺はゼンって言うんだ、よろしくなぁ!?」


「ぶふッ」


 奴らは自己紹介しながら面白そうに、ベドベの顔面に一人ずつパンチを入れていく。


「僕はキーゾ! 三人とも僕の友達だった! 死んじまえお前なんか!」


「ごはっ」


 人の命を何とも思っていないのか、それとも倫理観にも勝る怒りのせいか。

 奴らは手を止めようとはしない。誰一人。


「ミロよ! 言っとくけど私、アリスとは大親友だったんだからね! くたばれっ」


「あがぁッ」


 中には木製バットで脳天を叩いた奴もいた。


 ベドベは、痛くて苦しくて辛くて厳しいだろう。それを考えるともう、ホープは心がグチャグチャになる。

 偶然とはいえホープから仕掛けてしまったという驚き、今助けることができない激しい罪悪感。

 彼との思い出があまり無いことは無関係だ。ホープが悪いのだし、仲間なのだから




「――君たちを、占ってあげるよぉ」




 ホープは顔を上げ、見る。

 もう体じゅうが傷だらけで、見事なまでに血だるま……でも口だけ動いているベドベを。


「うおっ何だ!?」

「水晶玉が!?」


 そしてあの連中が驚いているように突如として謎の輝きを発し始める、割れた水晶玉を見た。



「今ぁ……俺を殴った三人……君たち、『列車』の上では気をつけた方が良いよぉ……」



 ベドベが何を言ってるんだかホープにはさっぱりだ。しかしシリウスたちは別で、


「なぜ計画を知ってる……!? 俺たち以外は誰もわからないはずだぞ!」


 動揺し、焦っている。

 どうやら核心を突いた言葉だったらしい。さらに、



「カスパル……小太りの君かなぁ? 君はぁ……『最後の銃弾』で命を落とすよぉ……」


「お、俺の名前知ってんのか!?」



 ここでは名乗っていないはずのカスパルの名前を、正確に言い当てる。死因まで言ったし、



「ダン、君は炎の中で……そしてシリウスぅ……『同志たち』のリーダー格である君はぁ……水の中で死ぬよぉ……」


「め、面倒くせぇなオイ……」

「ふざけんなぁぁ!!」



 恐怖に屈しまいとシリウスは拳をありったけ振り抜いた。

 ベドベはもう死に絶えても良い頃なのに、



「こっちにはぁ……いずれ相棒のようになって、『生』も『死』も超越する二人の勇者がいるからねぇ……君たちに勝ち目は無いよぉ……」



 ほぼ死んでいる体で、わけのわからないことを言いまくる。

 シリウスは頂点まで激昂し、


「ここまで試練に耐え抜いてきたんだっ……プレストンもニックもホープも始末して、勝つのは俺たちに決まってる!!!」


 トドメの一撃。

 メリケンサックをベドベの顔にめり込ませ、その人生に幕を下ろさせた。

 割れた水晶玉も輝きを消し、ただの石ころのようになってしまった。


「はぁ……はぁ……終わった。メーティナ、例の物を打ち込め!」


「……ええ!」



◆ ◆ ◆



 縛り付けられているボロい椅子よりも、ずっとボロボロにされたベドベの死体。

 ――シリウスたちが町へ戻り、すぐにホープは彼に駆け寄ったが当然間に合わない。彼はとっくに死んでいる。


「はっ……ぅ、オエエェッ、ウェエェェ!」


 あまり食事も摂っていないはずのホープの胃から、何だかわからない液体が絞り出されてくる。


 ベドベの胸に釘で固定された、看板のような物の文字を見ると、吐き気は一層増した。



【お前のせいだ、ニック――――プレストンより】



 シリウスは『プレストンもニックもホープも始末する』と叫んでいた。理由はよくわからないがリーダーのプレストンのことも殺したいらしい。


 だから、ベドベを惨殺した件をプレストンのせいにしてホープたちを利用するつもりなのだろう。

 潰し合いをさせる気なのだ。



◆ ◆ ◆



【お前のせいだ、ニック――――プレストンより】



 ベドベの死体と打ち付けられたメッセージ。

 それを見たみんなは、


「…………」


 しばらく、沈黙が続いた。

 ここまでホープが仲間たちを案内してきたのだ。


「ベドベ……」


 ナイトやリチャードソンから説明を受けたドラクは、仲間の死を純粋に悲しみ、


「これもプレストンの仕業ってか……エンに続き二人目だぜ!? 許せねぇ!」


 シリウスと似たようなことを言い出した。でもそれは当然のことなのだろう。仲間が次々と殺されるのなら、そりゃ犯人に怒りも湧く。

 ――ホープにはまだ理解し切れない感情だが、さすがに今回のことはシリウスに多少の怒りを抱いた。


「おい、リチャードソンよォ……これを見てもまだプレストンとその部下、殺す気にならねェか?」


「く……!」


 腕組みするナイトは冷ややかに質問し、リチャードソンを歯噛みさせる。


「とりあえず全員拠点に戻るぞ。ニックの解放のこと、プレストン一味との今後……話し合わねェとだからなァ」


 妙に凄みのあるナイトの台詞にその場の全員が踵を返し、廃旅館へ向かう。

 ホープを除いて。



「任せてくれ、ベドベ……シリウスたちだけに留めない。プレストンもニードヘルも、全員皆殺しにしてやるから」



 そう、ホープは彼に誓った。

 傍観しないこともできた今のブチ切れホープが、わざと傍観を選んだことに報いるため。


 ついさっき起きた全てを、シリウスたちの思い通りにプレストンの仕業ということにして、怒りと憎しみを抱いたグループメンバー全戦力を持って全ての敵を殲滅する。


 ――だからホープは、これがシリウスたちがやったことだと仲間には伝えなかった。

 いいだろう、上等だ。シリウスに利用されてやる。


 ホープも仲間たちを利用して、この潰し合い合戦を制してやるのだ。



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