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ホープ・トゥ・コミット・スーサイド  作者: 通りすがりの医師
第三章 『P.I.G.E.O.N.S.』問題
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第119話 『敗走』



「"剣砲(けんほう)"……」



 プレストンから『四天王』と呼ばれていた黒ローブの男、オルガ。

 彼は急に追跡の足を止め、腰を低くし、右手の剣を後ろに引いて構える。


 腰を抱えられて、リチャードソンの肩にぶら下がるように後ろを見ているホープとしては、理解不能だが。

 抱えているリチャードソンは大慌て。


「いかん! またアレが来るぞ!」


「あのエグい技ですか〜!?」


 笑顔のメロンの頬にも一筋の汗が流れるほどに、あの構えから放たれる技は普通ではないようだ。

 そして二人の焦りよう通りに、



「……"猪突(ちょとつ)"!!」



 オルガが叫んだ瞬間、数十メートル後方で止まっていた彼の姿が消える。

 次の瞬間。ホープが


「あっ」


 と言う間に、オルガの剣の切っ先がホープの目の前に現れる。

 だが間一髪、


「刺されてたまるかぁ!」


 回避行動の体勢を取っていたリチャードソンが、横へ跳んで剣撃を躱す。

 オルガは躱されても同じ方向に突っ込んでいき、その先にあった木造の民家に激突。埃の中に姿が消えるが、


「何だ……あれ……」


 埃が晴れる。そこではオルガが剣を抜いて。


 ――民家の方には大きな、しかも全くムダの無い真ん丸の穴が空いていた。

 技の破壊力が一点に集中しているということなのだろう。

 これは、リチャードソンとメロンが慌てるのもわかる。異常な威力だ。


 あんなこと、現実離れしているように見えるが、普通の人間にできるものだとは。


 ――考察の暇も無く、



「撃て、撃てぇ!」


 ドドドドド……!!



 またも銃声の嵐。

 リチャードソンとメロンは身をかがめたり、建物から建物へ隠れたりしながらどうにか逃げている。


 オルガが攻撃、終わったら銃。それが終わればまたオルガの攻撃。と交互に攻め立てる作戦のようだが、まんまとハメられている。


「しゃらくさいですね〜!! 何で反撃はダメなんですか〜!?」


 建物の影に隠れたメロンは、我慢できず銃を出そうとするが、


「……ここは仮にもプレストンの、仲間の仕切ってる町なんだぞ? 誰も殺せねぇよ」


 その手を下ろさせるリチャードソン。

 彼の弱気な発言にメロンは頬を膨らませて、



プレストン(あいつ)はエンも、隊長のニックも()()()んですよ〜!? 仲間もクソもありません! 敵です〜!」


「ぐ……ちょっと黙ってろ蹴り娘、とにかくナイトと合流してここは一旦退く! 行くぞ!」



 ホープは耳を疑った。

 エンもニックもいないとは思ったが、まさかプレストンたちに捕まっていたなんて。


 信じられない話だが、リチャードソンの反応からしても嘘ではないようだ。


 ――再び走り出す二人。

 リチャードソンがホープを下ろさないのは、恐らくこの方が手っ取り早いからだろう。

 ホープは無能だし、少しでも迷ったりしたら大変だ。指示を出す余裕も無いのに。


 銃弾の嵐、オルガの追撃を奇跡的に生き延び、三人はとうとう木製の門まで戻ってくる。

 上に見える二人の門番は壁の外に向けて銃を構えているが、恐らくナイトを狙っているのだろう。


 頼んでも門を開けてくれそうにないし、と走りながらメロンは「すぅ〜っ」と大きく息を吸って両手を口に添え、



「んナイトぉ〜〜っ!! 出番です〜っ!」



 壁の向こう側に叫ぶ。

 声に驚いた門番たちがこちらを向こうとして、しかしすぐにあちらへ振り向き銃撃を始める。


 ――それはつまり、



「……まさか助けを求められるたァ思ってなかったが、追われてんな。ここァ、いつの間に敵地になったんだ?」



 声に反応して動き出したナイトが木製の扉をくり抜く、という合図のようなもの。

 門番の銃撃も当たり前のように掻い潜ってきたナイトと、三人は再会を果たす。


 喜びも束の間なのだが、


「おいナイト! 強ぇのが追って来やがる、もう避けきれん! 止めといてくれぃ!」


「強ェの……? そういやニックもエンもいねェじゃねェか……」


「話は後だ!」


 焦っているリチャードソンとメロンが、ナイトの横を駆け抜ける。


「……は。あいつなら大丈夫さ、吸血鬼だぜぃ。いくら強くたって人間と吸血鬼じゃなぁ」


 リチャードソンが呟く。

 すると――腰を低くして、逆手に持つ剣を上下に構えていたオルガが動く。



「"剣砲(けんほう)"……"()雀駆(ジャク)"!!」


「あァ?」



 地を蹴り、弾丸のようにナイトへ一直線に飛んでくるオルガ。

 体と一緒に回転する上下二本の剣は、まるで孔雀の羽のように大きく広がり、標的を微塵切りにしようと迫る。


「……!」


 少しだけ横に移動したナイトも抜刀して構えたその瞬間、


「ふぬゥ!」


 プロペラのような速度で回転していた剣の一本が、蓄積した勢いをナイトの刀に爆裂させた。

 ほんの数瞬止められたが、



「ぐわァァッ!?」



 横薙ぎに払われ、ナイトはその身を転がしながら大きく吹っ飛んだ。


「嘘だろオイ! 何だかんだ言っても、ナイトはウチの最高戦力だぞ!?」


 ナイトが空けた穴をくぐりながらも振り向いて、リチャードソンは驚愕。

 その声が聞こえたようで、



「やられや、しねェよ……」



 転がった際に抉った土塊をパラパラと体から落としながら、ナイトは立ち上がる。

 刀を構え直してオルガへ突っ込み、



「てめェ、何者だァ!!」


「っ……!」



 ナイトの振るう豪剣を、オルガが二本の剣で危なっかしくも防ぐ。

 続くのは、いくつもの剣戟の迸る音、火花、そして衝撃。


 互角――に、見えた。


 ホープの素人目では、それくらいしか感想が思いつかなかった。

 あり得ない。ナイトは吸血鬼で、ついさっき『まともに戦えば人間に負けるわけがない』と話していたばかりなのに……


 そこへ横槍が入る。



「……今だ! 四天王が離れた、撃てぇ!」



 そう。

 ナイトはほとんど一人でも、オルガの方は完全に味方に囲まれている状態なのだ。


 オルガが後方へ跳んだその瞬間、町の兵士たちの銃弾が襲いくる。

 直前、こちらも対策は打つ。


「ちィッ」


 ナイトは近くの大地を斬り裂き、土埃の盾――というより目隠しを生成。


「そら、頃合いだナイト! 逃げるぜぃ!」


 リチャードソンはスモークグレネードを落とし、白い煙で門番ごと兵士たちを撹乱してやる。

 銃声はするのだが、ナイトも上手く三人に合流を果たした。




 ――四人は多少の後悔を壁の中に残しながらも、廃旅館の方向へ走るのだった……




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